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【はじめに】
今回,脳梗塞(左放線冠)発症後に摂食嚥下障害を呈した症例を担当する機会を得た.東嶋ら1)は脳卒中や脳外傷,変性疾患における嚥下障害患者において,健常者と変わらずに常食を摂取できるか否かには静的および動的端座位保持能力が影響をおよぼす因子のひとつであると報告している.摂食機能と座位保持能力および家族との関わりに着目し,自宅退院に向け介入した経過を報告する.
【症例紹介・評価】
症例は70歳代男性で,4年前の化膿性脊椎炎術後より,基本動作・ADLは全介助レベルとなっていたが,常食を介助にて摂取できるレベルであった.妻の介助・サービス利用を受け終日自宅のみで生活を送っていた.入院時は,VE・VFにより感覚低下・早期咽頭流入・嚥下反射遅延による嚥下障害を認めており,経鼻経管栄養となっていた.また,JCS2桁で覚醒状態にもムラがあり,安定した状態での座位保持時間が短く,Hoffer座位能力分類(JSSC版)では座位能力3レベルであった.覚醒状態が良ければ短文でのコミュニケーションは可能であった.今回の入院から退院まで,FIMが18点,BIが0点で点数変化はみられなかった.介護者である妻は70歳代で,主婦業全般と夫の介護が役割となっていた.面会に毎日来ており,今後は介助で食事摂取ができれば自宅で介護をしたいという希望があった.
【問題点・目標設定】
まず,経口摂取が困難となっていたことにより自宅復帰が困難となっていたことを問題点として挙げた.次に,自宅退院後は妻の介護が必要となるが,症例の現状を妻が受容できず,退院に向けて今まで以上に食事に関する介助が必要となることを実感できていないことを挙げた.最終目標は,妻より介助を受けながら安全に経口摂取が可能となりサービスを併用しながら自宅生活を送ること,短期目標は座位保持能力の向上,基本動作・ADLの介助量軽減,妻が安全な介助方法を習得することを挙げた.
【経過】
入院当初は座位保持訓練・直接嚥下訓練を中心に介入し,座位保持・覚醒状態の変化に伴い食事形態・介助方法の検討を行った.入院中期より,基本動作時の協力動作が増加し妻との会話の中にも,自発語や笑顔が増え良い変化がみられた.座位保持時間が延長しHoffer座位能力分類(JSSC版)では座位能力2レベルと改善が得られた.また,妻自ら意欲的に介助場面に参加する機会が増えたことで妻の心理面にも変化が生まれ,退院後の不安要素に関する話題が増えた.入院後期では,週に4回・60分程度は車いすで離床する機会をつくり,妻へ介助方法の指導を行った.その結果,妻の介助により安全に摂食が可能となり自宅退院となった.
【考察】
評価結果と妻の現状の受容において相違があり,退院後も病前同様に常食を摂取する可能性があった. 小林らは2)補助栄養を必要とせず経口のみで必要な栄養・水分を摂取可能となるには端座位保持能力に関連性があると考えられると報告している.安全に摂食できるように,座位保持能力に着目して介入を行い,改善の有無を検討した.座位保持能力の向上は摂食機能の改善に良い影響を与えるのではないかと考える.また,機能訓練と並行して妻へ症例の小さな変化について面会時にフィードバックを行い,現状の受容を促したことも,自宅退院が可能となった要因のひとつであったと考える.
【参考文献】
1)東嶋美佐子・他:摂食・嚥下の自立に影響する因子の検討.作業療法17(3):212-218.1998.
2)小林健太郎・他:慢性期脳卒中患者における嚥下障害の帰結に影響する因子の検討(第1報).臨床リハVol.16(7):660.2007
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,対象者に十分に説明を行いヘルシンキ宣言に基づき実施した.