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【目的】
糖尿病患者における糖尿病神経障害は合併症の中でも最も早期に進行するとされており,自律神経障害についての報告もなされている.自律神経障害が運動耐用能やバランス能力に与える影響,R-R間隔変動係数(以下CVR-R)が運動時の自律神経の動向に影響を及ぼす指標となる事が既に報告されている.しかし,自律神経障害はCVR-Rを指標とするが,明確な基準は無く便秘や起立性低血圧などにより総合的に判断するとされている.そこで今回,運動療法として広く用いられている自転車エルゴメータ-を使用した心拍変動とCVR-Rとの関連及び報告の少ない筋機能との比較検討として体重支持指数(Weight Bearing Index:以下WBI)・筋質量(%Muscle volume:以下%MV)を比較検討した.
【方法】
対象は運動習慣及び自律神経障害の診断が無い2型糖尿病患者16名(男性8名、女性8名),平均年齢63.44±8.02歳,平均身長157.69±6.14㎝,平均体重55.99±7.8kg,BMI22.56±2.73を対象とした.CVR-Rの測定には心電図を用いて測定した.心拍応答に対する評価として自転車エルゴメーターにて上限心拍設定法を用い、上限脈拍を100回/分とし,10分の駆動中での最大負荷Wを計測した.WBIの測定にはハンドヘルドダイナモメーターを用い最大等尺性収縮筋力を体重で除した値を採用した.%MVの測定には,in bodyにて筋量を測定し,ハンドヘルドダイナモメーターにて計測した値にて算出した.測定結果を基に最大負荷30W(3.5METS)を基準値とし,30W以下にて目標心拍到達した群を低負荷群・30W以上を高負荷群に分類し2群間での比較,CVR-RとWBI及び%MVの関係について検討した.統計学的処理にはSPSS Ver11.0 を使用し,CVR-RとWBI及び%MVの関係にはPearsonの相関係数,低負荷群と高負荷群の2群間での比較には対応のないt-検定を用いた.いずれも有意水準を5%未満とした.
【結果】
両群間の比較にて,CVR-Rにおける有意差を認めた(P<0.05).WBI,%MVにおいて有意差は認められなかった.最大負荷W とCVR-Rにて低負荷群では有意な正の相関が認められた(r=0.76? p<0.05).高負荷群においては、有意な相関関係は認められなかった.(r=0.01 p=0.9).WBI,%MVにおいては両群ともに最大負荷W 及びCVR-Rにおける有意な相関関係は認められなかった.
【考察】
両群間の比較にてCVR-Rにおける有意差を認めたことから,基準値30Wにて中等度(3.5METS)の運動負荷時,自律神経障害の診断がない糖尿病患者においても安静時の自律神経指標であるCVR-Rが心拍変動及び運動耐用能へ影響を及ぼす指標となる事が示唆された.また,最大負荷W とCVR-Rにて低負荷群では有意な正の相関が認められたが,高負荷群での関連は認められなかった.このことから, CVR-R低下により心拍応答に影響を及ぼすことで,適正な運動強度に至らない可能性が示唆された. CVR-Rと筋機能との関係においては有意な相関関係は認めらなかったことから,今回の検証においては関係性が認められなかった.今後,対象者数及び対象の属性の整理や細分化して検証することで有用な検証が出来るのではないかと思われる.
【まとめ】
運動療法として有酸素運動時の負荷設定には簡便である脈拍による負荷設定が用いられるが,今回の結果より自律神経障害の診断のない患者においても自律神経を考慮した負荷設定を行うことで,心大血管イベントに対するリスク管理が必要と思われる.
【倫理的配慮,説明と同意】
全ての被験者に口頭及び文章にて研究趣旨を十分に説明し,同意を得たのち検証を行なった.