九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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維持期の右中大脳動脈領域脳梗塞後遺症にパーキンソン病を続発した一症例
*橋口 聖剛*伊藤 憲一*嘉村 知華*橋口 佑菜
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p. 2

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抄録

【目的】

維持期リハビリテーションを継続している右中大脳動脈(MCA)領域の心原性脳梗塞患者がパーキンソン病(PD)を続発した。心原性脳梗塞にPDが続発した症例報告は渉猟しえた限り見受けられない。そこで,本症例に観察された症状と経過を歩行速度と照らし合わせて報告する。

【症例呈示】

60代男性。右MCA領域の心原性脳梗塞後遺症(発症後17年)で左片麻痺。画像所見:基底核,前頭,側頭,頭頂部に広範な低吸収域。Br-stage:Ⅲ?Ⅱ?Ⅳ。筋緊張:安静時は左上下肢ともにMAS1+?2。動作時著明に亢進。上肢:屈筋>伸筋,下肢:屈筋<伸筋。感覚:左上下肢ともに重度鈍麻。BI:95点。当院へは自動車運転にて来院し、左プラスチックAFOと一本杖歩行にて来室。週2回の外来理学療法、週1回の作業療法を継続。性格:営業職だったため明るく気さくで冗談を交えながらコミュニケーションをとる。社会参加状況:週1回の地域行事に参加。日常的に可能な家事を行い,休日は妻とドライブに行くなど積極的に行動。

【歩行速度】単位:秒,()内は歩数。

10m:X-3年11.46(20.92),X-2年11.67(20.83),X-1年12.56(22.17),X年14.13(23.50),X+1年16.91(26.08)

TUG:X-3年11.75,X-2年11.23,X-1年12.18,X年13.32,X+1年18.50

※速度,歩数ともに年平均値を記載。

【経過】

X年10月:右上肢に安静時振戦出現。10m:16.79(26),TUG:16.06。

X年12月:強い腰部痛出現。体幹前傾姿勢著明。アライメント変化。BI:90点へ減点。10m:20.98(32),TUG:測定不可。

X+1年2月:自律神経症状(血圧低下,頻脈等)出現。10m:16.75(27),TUG:16.11。

X+1年3月:全身の筋緊張亢進,動作能力低下。10m:15.32(25),TUG:17.30。

X+1年5月:仮面様顔貌出現。右足部筋緊張亢進,歩行時にクローヌス出現。机上検査,観察場面における左半側空間無視再燃。自宅内外での活動量低下。10m:14.63(24),TUG:17.41。

X+1年6月:会話が小声になり,反応に時間を要する。10m:19.06(27),TUG:21.70。

X+1年7月:精査の為A病院受診,MIBG心筋シンチグラフィー実施。MIBG集積低下を認める。10m:18.04(27),TUG:16.18。

X+1年8月:レム睡眠行動障害,物盗られ妄想,作為体験出現。動作範囲の狭小化。自動車運転中止。主治医よりPDと診断。10m:17.66(27),TUG:20.95。

X+1年9月:嗅覚低下。症状の日差変動出現。体幹の分節運動困難。表情は増える。10m:15.58(26),TUG:17.69。

X+1年10月:主な移動手段が杖歩行→車いす介助へ。自宅浴槽のまたぎ動作に介助を要する。10m:22.65(31),TUG:測定不可。

X+1年11月:レボドパ製剤処方。運動機能,認知機能わずかに回復。体幹前傾姿勢軽減し,周囲環境への関心向上。10m:16.41(25),TUG:23.15。

X+2年2月:右肩・股関節に鉛管様の抵抗感出現。BI:85点へ減点。10m:14.34(22),TUG:19.97。

【現在の状況】

画像所見:変化なし。筋緊張:安静時のMASは左上肢3,下肢1+。右肩・股関節に鉛管様抵抗感あり。BI:85点。主な移動手段:車いす介助。歩行:遠位監視レベル。自動車運転:中止。社会参加状況:週1回の地域行事は継続しているが,家事はほとんどしていない。

【本症例報告の意義】

長期間に渡り症例を追跡する上で,歩行速度の経年的変化を捉えることは全身状態の指標として有用かつ臨床的な評価であることを再確認できた。維持期の患者が大きな変調を来すことは多くないが,過去の状態と比較し,多職種・他施設連携を行うことで本症例のように早期発見に繋がるケースもあるため,維持期リハの重要性を再認識した。また,このような連携は地域包括ケアシステムにおいても必要不可欠であり,変調をきたした者に対し早期に正確な医療を提供することができるため,今後も継続したい。

【倫理的配慮,説明と同意】

本報告について十分に説明し,同意を得た。

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