九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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安価で簡単に作れるCMバンドの考案
~痛みにより何もできなかった症例を通して~
*髙野 健太*中田 浩一
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p. 204

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抄録

【はじめに】

今回母指中手骨骨折によりCM関節に疼痛が生じ,ADL・IADL全般が代償手段でしか行えなかった症例に対しセラバンドを使用したCMバンド(以下セラCMバンドと述べる)を考案・使用し,作業療法を実施した.その結果,疼痛軽減し,動作指導,患者教育を行い,患手でのADL・IADLの獲得が行えた事例を経験したため,考察を加え報告する.

【事例紹介】

50代女性.主婦.X年3月に転倒により右母指中手骨骨折受傷,他院にて外来リハ実施中であった.生活は疼痛の為ADL・IADLは主に左手で行い,右手は前腕での代償手段を主としていたとの事であった.同年6月に両股関節人工骨頭置換術後リハ目的にて当院入院. 作業療法は人工骨頭置換術後のリハに加え右手でのADL・IADL獲得を目的に実施した.

【方法】

セラバンド黄,50cm(約203円)を加工した物を母指にはめ,母指掌側外転させながら母指が対立位になるようセラバンドを手部に巻き付け,固定する.疼痛が出現する動作を行う場合はこのCMバンドを使用し,疼痛が出現しない場合は外して生活する.

【結果】

(初期評価/最終評価:9w)

HDS-R:26/26 手指ROM:母指掌側外転:45°/60°母指対立:2cm/0cm STEF:右91/100左98/100 ARAT:54/57 オコナー巧緻テスト:8'27""/6'13""

【経過】

1期(3w):CMバンド着用し,ADL行うと実施出来る事に喜び,様々な動作に挑戦する.また,病前行っていた趣味の写経を再開.時折過用による腫れや疼痛の増悪みられるため,過用しない様指導行う.

2期(6w):過用によると考えられる腫れも殆ど無くなり,力を使用しない動作ではCMバンドを使用しなくても実施可能となる.写経は力みすぎている印象があるため,ボールペンから筆に換え,力の強弱の練習も行う.

3期(9w):力の必要な動作もCMバンド使用しなくても実施可能となる.写経も病前に近い状態となる.また,歩行自立となり,試験外泊をくり返し,実際の家事動作行い,動作指導,患者教育行い,自主練習の定着後退院となる.

【考察】

本症例の開始時の問題点として右CM関節部に動作時痛が出現し,ADL・IADLが左手,または右前腕でしか行えなかった.母指中手骨骨折し,術後の固定による拘縮,廃用による母指の筋力低下もあり,自動運動で母指対立位をとろうとすると母指掌側外転30°位で疼痛が出現した. これに対し,徒手的に母指掌側外転45°位を取る様アシストし対立運動行うと疼痛が軽減した.蓬莱谷らによると短対立装具の製作ポイントはCM関節掌側外転45°,MP関節軽度屈曲位とし,母指・示指・中指でのつまみ動作が可能とすると述べている.徒手的に掌側外転45°位をとる代わりの方法として通常の短対立装具とCMバンドを試みたが,母指掌側外転30°,内旋できなかったため,セラCMバンドを考案使用した.セラCMバンドでは着用時に疼痛の無い範囲で一度掌側外転方向に持っていき,そのままゴムの伸張を利用し,手に巻きつける事で掌側外転45°,内旋出現した.それにより疼痛軽減が図れ,制限なくつまみ,握り動作が可能となった.今回症例の動作時の疼痛軽減を図る為,セラCMバンドを考案,作成した.結果,本症例については非常に有用であった.スプリント製作に対するイメージとして当院職員にアンケートをとった所,「作るのに時間がかかる」「難しい」という意見が上がった.しかし,本来スプリントはもっと身近で即座に製作できる事が重要であり,今回作成したものは安価かつ短時間で簡単に製作可能であったと考える.

【倫理的配慮,説明と同意】

今回の発表に際し、症例に説明し同意を得ている。

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