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【はじめに】
入院当初より臥床状態が続いていた患者(以下,A氏)に対し,認知症高齢者の絵カード評価法(以下,APCD)を用いた重要な作業の抽出・実施を行った.この経過を報告するとともに回復期リハビリテーション病棟における作業療法の在り方を考察する.なお,本報告にあたり,対象者および家族から学会等の発表についての同意を得ている.
【事例紹介】
A氏,90歳代女性,要介護1.受傷前は住宅型有料老人ホームに住んでおり,軽度の認知機能低下はあるが杖歩行および入浴を除いたセルフケアは自立していた.X年Y月に入所中の施設にて椅子に座ろうとして転倒し,左大腿骨転子部骨折を受傷(翌日に骨接合術施行).その後,術後17日でリハビリ目的の為,当院回復期リハビリテーション病棟へ入院となる.
【作業療法評価】
APCD:「計算問題を解く,体操,本を読む」等,7項目が「重要である」
HDS-R:13/30点(減点:日時と場所の見当識,遅延再生,物品記銘,語の流暢性)
セルフケア:食事以外に要介助 FIM:78/126点(運動:52点,認知:27点) 移動:車椅子介助
【経過】
第1期(介入後1週間)はリハビリ以外の時間は臥床していた時期であった.介入当初,面接でA氏は日ごろ行っていた作業に関しても「もう何もできない.わかりません.」といった発言が多く,同室者の他患者との交流も無くベッドに臥床している場面が多く見受けられた.
第2期(介入後2週~4週間)にAPCDを用いた面接を実施することで重要な作業が明らかとなった.特に,計算問題を解く項に関して,「私は小さいころからおてんばだったけど,算数は得意だったの.よく学校で良い点をとって親に褒められていたわ.今でも家で計算ドリルを解いているのよ.」と笑顔で話す場面が見られた.その後,計算ドリルを開始すると,直後の余暇時間より昼夜課題に取り組む姿が認められた.
第3期(退院まで)では,入院時と比して離床している時間が多くなっていたこともあり自然と同室者との会話が弾んだほか,自ら退院後に行いたいこと(近隣の商店への外出)を目標立ててリハビリに取り組むようになった.また,病院で行いたいことを自ら話し,実践する場面も見られた.経過の中で担当理学療法士と退院後の移動手段についての検討などを行い,入院前のADL再獲得可能となったことから,入院後82日に入院前に入所していた施設へ転所となった.
【結果】
APCD:「計算問題を解く,外出,友人との会話,リハビリをする」等,24項目が「重要である」
HDS-R:18/30点(減点:場所の見当識,遅延再生,語の流暢性) セルフケア:入浴を除き自立
FIM:100/126点(運動:72点,認知:28点) 移動:シルバーカー自立
【考察】
「作業は人が実践した時のみ目に見える,また,作業は人がその意味を語った時のみに理解することができる」(Polatajako,2000)であり,APCDを用いてA氏の作業を作業療法士が知り,A氏自身が作業の意味を語る事で,重要な作業の抽出が可能となった.さらに,作業を実践する事は,作業的喪失を来したA氏にとって重要な出来事あったと考える.そして,作業を「すること」で自身が健康であった頃の生活を思い起こし,日々の生活において作業を行う事で,結果として前向きな発言・姿勢に繋がったのではないかと考える.今回の事例を通して,回復期リハビリテーション病棟で作業療法士が作業の抽出を行い,「すること」への支援を行うことの重要性を改めて認識することができた.
【倫理的配慮,説明と同意】
本報告にあたり,対象者および家族からインフォームド・コンセントを得た上で実施され,学会等の発表についての同意を得ている.