九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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熱傷術後の一症例に対するテーピングの有効性
肘関節屈曲可動域の改善を目指して
*石阪 靖英
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p. 35

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抄録

【はじめに】

 左上肢熱傷に対し、植皮術を施行した症例への治療介入を行った。肘関節は関節拘縮を生じやすく、早期の治療介入が重要とされている。症例は術後から治療開始まで2ヶ月間の期間があり、重度な関節拘縮を認めていた。皮膚の柔軟性・滑走性に着目した治療介入や、テーピング施行後に自宅での自主練習を指導した結果、肘関節屈曲可動域が大きく改善しADL動作が可能となったのでここに報告する。

【症例紹介】

 対象は60歳代女性。H26年11月下旬、ろうそくの火が服に燃え移りⅡ度(深達性)の熱傷受傷。同日形成外科病院へ入院。同年12月初旬に植皮術施行。術後8週より、本院にて熱傷術後・左肘関節拘縮の診断に対し外来での理学療法を開始する。

【理学療法評価】

 主訴は「左肘が曲がらず顔が洗えない、茶碗を口まで運べない」であった。熱傷部位は左上腕から前腕部にみられ、特に前面尺側部に皮膚の瘢痕形成を認めた。肘関節後面に瘢痕形成は認めなかったが、左上肢全体に皮膚の柔軟性・滑走性の低下を認めた。介入初期(術後8週)の左肘関節可動域は屈曲110°、伸展‐50°であり、自動・他動運動ともに最終屈曲域で肘頭部に疼痛の訴えを認めた。筋緊張は左上腕三頭筋、上腕二頭筋、上腕筋で高かった。

【経過および結果】

 介入初期より左肘関節に対し、渦流浴、超音波、筋リラクゼーション、上腕三頭筋の癒着・滑走性の改善を目的とした選択的収縮練習、関節可動域練習、自宅での自主練習指導を行った。介入初期から6週経過時点(術後14週)で左肘関節周囲筋の筋緊張低下を認め、屈曲110°から130°まで改善したが、可動域の改善に伴い肘頭部の疼痛増強を認めた。また、翌日の介入前には115°まで戻り治療効果の継続は困難であった。そこで、健側と比較したところ肘関節後面の皮膚に柔軟性・滑走性の低下を認めたため、肘頭部の皮膚に皺が集まるようテーピング(伸縮性)を施行したところ、疼痛は軽減し肘関節屈曲可動域改善の即時効果を得た。自宅でもテーピングを施行し自主練習を継続してもらった。結果、介入初期から14週経過時点(術後22週)には肘関節可動域は屈曲145°、伸展-10°まで改善し洗顔や食事動作も可能となった。

【考察】

一般的な肘関節屈曲の可動域制限因子として、関節包の肥厚、上腕三頭筋の瘢痕化・癒着、内側側副靱帯の短縮、異所性骨化等が挙げられる。上記を考慮し治療介入を行ったが可動域の改善に伴い肘頭部の疼痛は増強し、介入初期から6週経過時点には屈曲可動域の改善は停滞した。そこで治療プログラムを再検討し皮膚への介入を追加した。

皮膚は運動軸から最も距離が遠い組織であり皮膚による運動制限は意外に大きいとされている。福井は、伸張されている部位を弛緩すると伸張方向への運動が大きくなるという皮膚運動の原則を報告している。これをもとに、肘関節後面に皺が集まるようテーピングを施行し肘頭部の皮膚を弛緩させた。結果、肘関節屈曲運動時の疼痛は軽減し、他動屈曲可動域に近い角度まで自動屈曲が可能となった。この結果から、肘頭部の疼痛は皮膚の伸張痛が原因と考え、自宅でのテーピングを継続した。皮膚を弛緩させた状態を保つことで、日常生活動作や自宅での練習が容易となり、治療効果に繋がったと考える。また、症例は幸いにも肘関節後面の皮膚が保たれていたことも屈曲可動域が改善した理由の1つだと考える。

熱傷後の瘢痕が柔らかくなるには通常6カ月から1年を要するとされているが、早期より皮膚運動学などを考慮した練習なども根気強く行うことが重要と考える。

【倫理的配慮,説明と同意】

対象者には本報告の内容と公表について十分な説明を行い、同意を得た。

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