1993 年 44 巻 3 号 p. 152-156
分岐学的研究によれば,毛翅目を外群とすると,現生の鱗翅目の中で最も原始的な科はコバネガ科かまたはAgathiphagidae(カウリコバネガ科)とされる.しかしこの問題については,原始的な鱗翅目のいくつかの科の中に見られる退行的な形質,固有新形質とならぶ著しい量の同形形質のために,研究者により意見が異なっている.本論文では外群として新たに,ロシア,アルハンゲルスク地域のソヤナ川の二畳紀後期の地層から産出したKamopanorpa属を検討し,この問題を考察した.その結果は次のようにまとめられる.この結果からみると,Kamopanorpa属はコバネガ科よりもカウリコバネガ科により近く,カウリコバネガ科が最も原始的な現生の鱗翅目であることを強く指示している.毛翅目は鱗翅目の姉妹群であるが,本論文のように旧形質共有を再構成する時には,外群としては不適である.なぜならもともとの旧形質のいくつかは,定義により新形質共有または固有新形質へと変化するし,平行現象といくつかの形質の逆行はありうるからである.化石は旧形質共有的な形質状態を決定する最も直接的な方法であり,ある形質状態の最小絶対年代を証明する唯一の方法である.原始的な形質を,現存する分類群からだけで再構成することは,真の祖先的状態をあやまって述べることになりかねない.