蝶と蛾
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ヤナギ類の葉に潜るコハモグリガ属の1新種の記載,およびヤナギ類に潜る日本産コハモグリガ属の蛹の形態とDNAバーコード領域に基づくヤナギ類潜孔性種の遺伝的比較
小林 茂樹坂本 佳子神保 宇嗣中村 彰宏広渡 俊哉
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2011 年 62 巻 2 号 p. 75-93

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抄録

コハモグリガ亜科Phyllocnistinae(ホソガ科)は,幼虫が葉やまれに茎の表皮にもぐる潜葉性の小蛾類で,成虫は開張4-8mm,世界におよそ90種が,日本では1属5種が知られる.本亜科には多くの学名未決定種の報告があり,ヤナギ類からは茎に潜るヤナギコハモグリPhyllocnistis saligna(Zeller,1839)のほかに葉に潜る別種の存在が示唆されていた(平野,私信).そこで本研究は,ヤナギ類に潜るコハモグリガの形態・生活史の解明に努め,既知のヤナギ類を寄主とする種を含めて形態およびDNAバーコードによる比較をおこなった.その結果,ネコヤナギなどの葉に潜る1新種,2既知種の計3種をヤナギ類から認めた.ネコヤナギコハモグリ(新種)Phyllocnistis gracilistylella sp.nov.とヤナギコハモグリについては幼虫・蛹を観察し,蛹の形態を記載した.新種とヤナギコハモグリの2種は,寄主植物の葉,茎上にそれぞれ同時期・同所的に発生するが,前翅斑紋・雌雄交尾器などの形態形質及び,分子解析でも別種であることが支持された.ネコヤナギコハモグリは,葉(特に裏側)のみを利用し,寄主範囲も限られていた.一方,ヤナギコハモグリは,若齢幼虫が葉に潜り,その後茎に移り別の葉縁で蛹になり,寄主範囲もSalix属全般にわたった.1.Phyllocnistis gracilistylella Kobayashi,Jinbo & Hirowatari sp.nov.ネコヤナギコハモグリ(新種)(Figs 2A-B,3A,4A-D,6,8A-D,9,10)開張4.5-6.0mm.前翅は銀白色で翅中央に基部から暗色線が一条走り,1/2から2/3に暗色線に囲まれた黄色帯がある.雄交尾器のバルバは,先端が丸くなる.雌交尾器のシグナは1対でそれぞれ1本の突起を有する.蛹のコクーンカッターは,角状で前上方に突き出る.幼虫は7月から11月にヤナギ類の葉の裏(まれに表側)表皮下に蛇行した線状潜孔を作る.分布:本州(山形,長野,奈良,三重),九州(福岡).寄主植物:ネコヤナギ,イヌコリヤナギ,カワヤナギ,コゴメヤナギ(ヤナギ科).2.Phyllocnistis saligna(Zeller,1839)ヤナギコハモグリ(Figs 2C-D,3B,4E-H,7,8I-O,9,10)開張6.0-7.0mm,前翅は銀白色で翅中央に基部から2/3まで暗色線に囲まれた縦の淡黄色帯が走る,翅形は前種より細長い.雄交尾器のバルバ先端は,腹側に尖り細くなる.雌交尾器のシグナは2個で,それぞれ2-3個の突起を有する.蛹のコクーンカッターは,鉤爪状で,背側に反る.若齢幼虫は,6-11月にヤナギ類の葉に線状潜孔,その後,若枝の表皮下に線状潜孔を作り,葉柄から葉縁の表皮に移り蛹化する.しかし,ヤマナラシ,ネコヤナギでは,葉のみに潜る本種幼虫がみられた.分布:北海道,本州,四国,九州;中国,インド,中央アジア,ロシア,ヨーロッパ.寄主植物:ネコヤナギ,イヌコリヤナギ,オノエヤナギ,カワヤナギ,バッコヤナギ,ヤマヤナギ,ミヤマヤナギ,コゴメヤナギ,タチヤナギ,シダレヤナギ,アカメヤナギ,ヤマナラシ.3.Phyllocnistis unipunctella(Stephens,1834)ポプラコハモグリ(新称)(Figs 2E,3C,5)開張5.0-6.0mm.前翅は銀白色で2/3に黄色帯を有し,中央暗色線を欠く.雄交尾器のバルバは湾曲し,先端はわずかに尖る.大阪府立大学所蔵標本に基づき記録した.日本ではセイヨウハコヤナギに潜るようだが生活史は不明.ロシア極東の文献で南千島から記録されていた.分布:本州(山形,大阪,兵庫),南千島,ロシア,中央アジア,ヨーロッパ.

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© 2011 日本鱗翅学会
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