チョウは鮮やかな翅を持つために,性選択または配偶システムに関する研究の対象となってきた.チョウの配偶行動を研究する際の大きな問題の一つは,交尾する前に異性に対して,求愛ディスプレイのような典型的な行動を示さないことが多く,性的関心を評価する実験が困難なことである.キアゲハPapilio machaon (鱗翅目:アゲハチョウ科)の雄は,山頂に配偶縄張りを持つこと,飛翔中の雌に対して特有の飛行行動を示すと言われている.本研究では,キアゲハの縄張り行動と配偶行動を正確に観察し,記述した.雄は日中,山頂部に集まった.そこで雄同士が遭遇すると,一方の個体が山頂から飛び去るまで,お互いを追いかけた.この雄間相互作用の後,もう一方の個体は山頂に戻ってきた.したがって,この雄間相互作用は,縄張り闘争として機能している.雄は,他の昆虫や鳥など,様々な飛行する動物を追いかけた.しかし,これらの異種間相互作用は,同種の相互作用よりもはるかに短かった.キアゲハの雌が山頂に飛来すると,山頂を占有していた雄はその雌を追いかけ,雌の下から前方に出て,雌の上方から後ろに回る飛翔行動を繰り返した.雌が付近に止まると,雄も雌の近くに止まって,両者は交尾した.したがって,この飛翔行動はキアゲハの求愛行動シーケンスの一部とみなされるので,性的関心の指標として用いることができる.