外国語教育メディア学会関東支部研究紀要
Online ISSN : 2432-3071
Print ISSN : 2432-3063
研究論文
原稿を準備しない方法と準備する方法の異なる指導法の違いがスピーキングの不安軽減に与える効果
ビデオ通話の比較検証
小林 翔
著者情報
キーワード: SCMC, Skype, speaking, anxiety
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2021 年 5 巻 p. 17-38

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Abstract

In this study, we examined the impact of an English-speaking program on speaking anxiety, and whether the impact differs if the exercises are unscripted and improvised. We used video conversation-based English learning materials, and requested the cooperation of thirty four Japanese high school students who were divided in two groups: an improvisation group that did not prepare a script and a preparation group that prepared a script. We compared and verified the effects before and after implementing the instructions, and examined the impact of different methods on speaking anxiety. Data were collected using an eight-item questionnaire before and after each session; twenty video conversation sessions were conducted. We also changed the methods between the two groups, and seventeen more video conversation sessions were conducted to compare the effects. The results indicated that anxiety about speaking in English was high before conducting the video conversations. Additionally, it was observed that repeated practice using video conversations was statistically significant in reducing speaking anxiety. However, we observed no difference in anxiety reduction between the improvisation group and the preparation group, and found that the experience of practicing speaking in English through video conversations could be useful for reducing speaking anxiety in both groups.

1. はじめに

2017年7月告示の中学校学習指導要領では,外国語における話すことの領域に「やり取り」を新たに追記し,即興で情報を交換することを重要な条件として掲げている。2018年7月告示の高等学校学習指導要領では,外国語の背景にある文化に対する理解を深め,主体的,自立的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養うことを目標としており,英語コミュニケーションⅠの目標や内容にも,話すこと「やり取り」において,即興で伝え合うことを重視しており,即興でやり取りする必要性はますます高くなっている。

しかし,中学や高校のスピーキング活動では,教師側で会話文を統制して練習の後に会話活動を行うことが多いことや,スピーキングテストを行う場合,あらかじめ原稿を準備させ,練習させてから行うスピーチテストの形態をとることが多いことが指摘されており(茅野・峯島, 2016),英語の学習場面では即興で話す機会が十分提供されているとは言えない。その理由に,英語で話すことに対する不安が関係している。Kawashima(2019)は,日本の多くの英語教師は,生徒の英語による発話機会を増やしたいと考えてはいるものの,生徒の不安や動機づけに与える影響を心配し,実践することが難しいと考えている傾向があると述べている。つまり,教師は即興でのやり取りの必要性を認識してはいるものの,英語での発話における不安の大きさを懸念し,即興的なスピーキング指導を敬遠したり,事前に原稿を準備させたりするなど,必要以上に原稿に依存させがちである可能性がある。この状況を少しでも改善し,即興的スピーキング力を養成するためには,英語で話すことに対する不安を軽減させ,原稿依存症を改善し,即興恐怖症に解決策を投じることが求められる。

そこで,本研究では,ビデオ通話を活用した不安の軽減に着目し,原稿依存症や,即興恐怖症の改善を目指す。本研究の目的は,ビデオ通話を活用して原稿準備型と即興型の2種類の方法の違いによる効果を比較検証し,スピーキング不安に及ぼす影響を分析することである。

2. 先行研究

2.1 研究の基本概念

ビデオ通話に基づく研究は,Long(1996)によって提唱されている相互作用仮説を理論的支柱としている。これは対話によって理解可能なインプットが言語習得を促進し(Krashen, 1985),対話によって必然的に与えられるアウトプットの機会を理解可能なアウトプットにしようとする努力が言語能力を発達させ(Swain, 1995),お互いの意思を伝え合うために繰り返しを求めること(明確化要求)や,自分が正しく理解しているか確認する(理解度確認)といった意味交渉の結果,第二言語習得が促進される(Long, 1996)というものである。

しかし,英語を話す前に準備の時間があると,学習者は暗記に頼ってしまうため,準備の時間を奪い,暗記させないことで,会話が意味重視になり,学習者の中間言語を露呈させることができることが示されている(Klapper, 1991)。Swain(1995)はSchmidtの“noticing the gap”を受けて,目標言語で言いたいことが言えないことに気づくことで,学習者は関連するインプットに注意を向けて,新しい言語知識を獲得しようとすると述べている。

2.2 外国語学習における不安

外国語学習における不安について,八島(2004)は第二言語使用や学習により焦点を当て「話者が最も自由に操れる言語でないことば,多くの場合習得の途上にあることばを使う時に感じたり学習する時に経験する不安」(p.31)としている。学習不安といった情意要因は個人要因の一つで,言語習得に大きな影響があることが指摘されている(Ellis, 1994)。外国語学習において不安は,言語習得,記憶の保持,産出を妨げる可能性があるため,問題とされてきた。外国語学習に関連する不安の研究から,不安と外国語習得は負の関係にあることが明らかになっている(Horwitz, Horwitz, & Cope, 1986; MacIntyre & Garndner, 1991; MacIntyre, 1999)。末永(1987)によると,人が見ている時など,他者に注目されている状態で複雑な課題に取り組むと成績が下がることが報告されている。つまり,聴衆の否定的反応など,「他者の評価を意識することと不安は関係する」(八島, 2019, p. 45)ということである。一般的に,スピーキングテストと不安感に負の相関がある(Young, 1986)と言われている。しかし,不安が語学学習に及ぼす影響については一貫性のある結果が得られていない(Young, 1990)。

外国語学習における話すことに対する不安は,「コミュニケーション不安」,「自尊心」,「社会的不安」のような複雑な心理的構成要因から成り立っているであろうと言われている(Young, 1990)。Horwitz et al.(1986)は,リスニングとスピーキングが外国語学習者の覚える不安の大部分を占めており,特に自由会話において不安感が増大すること,不安な状況では能力を発揮しにくいこと等を指摘している。さらに,外国語学習において口頭でのコミュニケーション能力の習得を阻害する理由は不安にあり,それは外国語学習に特有な外国語不安であるとも述べている。北条(1996)は大学入学者の英語学習における不安を調査した結果,突然英語で発言するように指名される時に不安を強く感じると報告している。Ay(2010)は初級学習者にとって特にスピーキングに対する不安が顕著であり,準備なしで話す時に不安が増加すると指摘している。学校教育の場において即興で話す学習機会が少ないことがこのような不安につながっていると想定される。

このような学習心理を計量的に測定するために,これまで様々な心理尺度が開発されてきた。例えば,Horwitz et al.(1986)が開発した教室内における学習者の外国語不安を測定する尺度(Foreign Language Classroom Anxiety Scale: FLCAS),その日本語版(Yashima, Noels, Shizuka, Takeuchi, Yamane, & Yoshizawa, 2009),元田(2000)が日本語学習者を対象にした日本語不安尺度(Japanese Language Anxiety Scale: JLAS)などが開発されてきた。

2.3 スピーキング不安の軽減方法

現実世界のコミュニケーションの場面では,あらかじめ話す内容を準備して相手と会話するのではなく,その場で双方向でのコミュニケーションの機会が多い。小林(2019)は,現実世界の課題と生徒の実生活をベースに,実際のコミュニケーションで使用する可能性が高い言語活動の場面設定の必要性や,英語でやり取りをする際に,伝えたい内容を考え,その場において必要だと判断した表現を活用するといった意味重視のタスクの重要性を述べている。しかしながら,中学校教師を対象としたアンケート調査の結果によると,生徒の英語での発話における不安の大きさを懸念して即興的なスピーキング指導を敬遠し,成功体験を十分に与えていない可能性があることが報告されている(小林,2020a)。スピーキングの練習機会が不足すると,スピーキングで成功せず,自信喪失や不安感につながる(Thornbury, 2005)と言われており,適度なリスクを伴う活動に参加させたり,あいまいさに耐えさせたりする(Oxford, 1999)ことで,不安を緩和できると言われている。Clément and Kruidenier(1983)は,外国語不安を接触度という観点からとらえ,目標言語との接触時間が長くなれば不安の減少につながるというモデルを提案している。さらに,外国語学習における不安を軽減するために,学習者が達成感を味わう場の提供や(Matsuda & Goble, 2004),定期的な成功体験を得ることが重要である(Dörnyei, 2001)とされる。教室内において学習者がクラスメートの前で個人のパフォーマンスを行う必要のない,脅威のない環境であれば,学習者はリラックスし,不安が軽減されるとしている(Crookall & Oxford, 1991)。つまり,教室の中で即興的にやり取りを始めるには,まず個人が目立たない状況を準備し,繰り返し即興的に話すことに慣れさせ,徐々に成功体験を積むことが重要かもしれない。コミュニカティブな側面を持つ学習方法が第二言語習得において効果的であることは支持されているものの(Gass & Mackey, 2007),日本のような外国語としての英語(English as a Foreign Language: EFL)環境において,長期間継続的に英語で話す機会を確保することは容易なことではない。そのような状況でもより多くの機会を設けるためには,ネットワークの持つ可能性が期待できる。文部科学省(2020)は,情報通信技術(Information and Communication Technology: ICT)を用いた教育を推進し,児童生徒1人1台コンピューター環境整備の実現に向けたGIGAスクール構想について検討を進めており,オンライン学習を中心としたICT活用教育が耳目を集めている。

2.4 共時的コミュニケーションと基本概念

近年,英語教育においてもインターネットを介した共時的コミュニケーション(Synchronous Computer Mediated Communication: SCMC)という新たな学習形態の普及が著しい。Ngyuen(2008)は,外国語教育におけるオンライン・コミュニケーションの形態を非共時的コミュニケーション(Asynchronous Computer Mediated Communication: ACMC)とSCMCの2極間に位置付けている。ACMCとは,emailなどの書かれたものや録画などのコミュニケーションのことであり,SCMCとはボイスチャットやビデオ通話,ウェブ会議などの文字と音声によるリアルタイムのコミュニケーションのことであり,本研究では後者のSCMCに着目する。

最初に,グループやペアでのビデオ通話の先行研究を述べ,その後個人のビデオ通話の事例を報告する。グループでのビデオ通話の研究では,英語でコミュニケーションを取ることへの自信がつく(小早川他, 2012)ほか,スピーキング技能向上と不安軽減に効果的であることを示唆している研究(遠山・森・新谷, 2017)がある。他にも,ペアでのビデオ通話の1回の経験で話す意欲を向上させた実践例(Konishi, 2017)や,事前に話題源となるテキストを持ち,日本人学習者同士による英語でのディスカッションなどの授業を事前に行い,その後2名1組ずつがフィリピン在住英語教師と同じ話題についてディスカッションすることで,英語熟達度やスピーキング力の発達を報告したウェブ会議の実践例(飯野・薮田, 2016)がある。通常の授業では,多数の英語ネイティブスピーカーや,異文化を持つ聞き手を対象にプレゼンテーションを行う機会が少ないが,テレビ会議は,生徒の気づきの機会という大きな利点と可能性があり(山崎, 2015),生徒の英語を使うことへの自信が向上することや英語学習への動機づけが強化されることなどが報告されている。

続いて個人のビデオ通話の研究を紹介する。タブレット端末を用いて日本とオーストラリア間で同年代の児童または生徒が1対1で会話した研究に,奥村(2016)がある。主体的に英語を話すための学習意欲の向上や英語を学ぶ目的の明確化などが認められたが,会話内容やテーマも決まっており,生徒が相手に伝えたい内容を個々で考えて事前に用意し,本番前に最低2回の事前授業を行っていた。さらに,英語の母語話者と非母語話者との1対1のビデオ通話を授業に取り入れた日本における研究に,Ryobe(2008)があり,ビデオ通話がコミュニケーション能力の向上やそれへの強い動機づけとなっていることが示された。他にも,1ヶ月という短期間において日本の大学生4名を対象としたビデオ通話の事例研究(小林, 2020b)では,即興でビデオ通話を行うことでスピーキング技能向上と不安軽減に効果がある可能性を示唆している。

以上のように,グループ,ペア,個人においてもSCMCがスピーキング力や動機づけを高め,不安を軽減する可能性があることがわかっている。しかし,1対1のビデオ通話とスピーキング不安の関係性に焦点を当て,長期的に実践した研究は見あたらない。SCMCは,極めて対面に近い環境を実現することができるとされており(Lee, 2007),オンライン英会話などは,いつでもどこでも学習者自身が空いた時間に容易に話す機会が作れる。他にも1対1で行う場合の利点は,学力などの個人差にあわせて話す内容を適宜調整でき,目的・場面・状況を意識した英会話の練習や異文化に触れる機会につながることである。さらに,やり取りの回数の増加に伴ってインプットとアウトプットの言語使用の機会が増えることや,講師からの即時フィードバックが大いに役立つものと期待される。その反面,ペアやグループのようなウェブ会議とは違って,友達と協力することはできないため,参加者が個人で最初から最後まで一人ですべて対応する必要がある。

目標言語の文化圏の人々や文化等の接触量が増えると不安が少なくなる(Aida, 1994)ことや,個人が目立たない学習には抵抗感がない(北条, 1996)ことを踏まえ,視聴覚教材を用いた1対1のビデオ通話を継続的に施すことにより,成功体験を積み重ねることができ,その結果,即興的スピーキングに対する不安の克服が期待できるケースもあると考えられる。ビデオ通話を活用することで,意味交渉に富んだやり取りが行われ,これまで課題となっている即興性を意識した言語活動不足や,1クラスあたりの生徒数が多いために,スピーキングにおけるフィードバックの回数が少ないことなど,クラスサイズの問題への解決策を投じることができる可能性がある。

本研究におけるビデオ通話の定義:本研究では,インターネットを利用した会話のフリーソフトウェア・Skypeを用いて,一人のフィリピン人講師が一人の生徒を25分間指導するオンライン英会話のことと定義する。

本研究におけるスピーキングに対する不安の定義:本研究では,外国人との会話においてうまく話せないことや,自分の言いたいことが通じないことに対する心理,原稿などの準備をしないで英語で話す時に感じる緊張,心配,混乱などの感情のことを不安と定義する。

既に触れた先行研究でも明らかなように,原稿の準備や事前練習を行った後にスピーキング活動を行っていることが多く,教員が即興的なやり取りについて指導する機会は少ない。生徒自身のスピーキング不安の根源は,準備なしの状況下において,即座に英語でやり取りする練習不足に関連していると思われる。そこで,本研究では,先行研究を踏まえ,ビデオ通話の環境における指導法の違いによる効果を比較検証するために,以下の研究課題を設定した。

研究課題

  • 1)スピーキングに対する不安がどの程度あるのかを調査する。
  • 2)スピーキングに対する不安があるとしたら,英語教材の原稿を準備しない即興型の方法(即興群)と原稿を準備する準備型の方法(準備群)に分けてビデオ通話を実施し,その方法の違いがスピーキング不安の変化に事前と事後で違いがあるかを比較する。
  • 3)指導法を交代し,継続してビデオ通話を行い,スピーキングに対する不安の変化の推移を検証する。

3. 研究方法

3.1 参加者

公立高等学校1年生34名を対象に,即興群17人と準備群17人のグループに分けて調査を行った。両群の英語熟達度において,できる限り差がないように統制する目的で,事前に参加者の英語力を確認し,英検2級以上取得及びGTEC for STUDENTS Basicのスコアが520点以上に該当する生徒を抽出し,本研究への参加を依頼した。参加者は共通してこれまでビデオ通話の経験や海外留学の経験はなく,調査実施前に研究目的や研究結果の公表について説明した上で研究への参加を依頼し,全員が了承した。参加者と筆者との関係性は,筆者が以前勤めていた高校の習熟度別の上級クラスに所属していた生徒であり,このクラスの英語の授業を筆者が担当していた。英語学習に対する意欲は高いが,英語で話すことに課題を感じていた。そのため,本実践が参加者のスピーキングの貴重な練習になると考えた。

3.2 データ収集

3.2.1 測定方法

両群の参加者のスピーキングの力の差が本研究のスピーキング不安の結果に及ぼす影響をできるだけ少なくするために,グループ分けのためのスピーキングテストを研究実施前に行った。スピーキングテストは,ブリティッシュ・カウンシルが開発・運営している英語テストAptis Test CBTを活用した。スコアはスピーキング50点で表示され,CEFRのレベル(A1~C)でも評価された。両群の研究開始前のスピーキングの力に統計的に違いがないかを検証するためにスピーキングテストの結果を分析した。U検定において有意差は見られず,効果量は小であった(U = 133.000, p = .688, r = .07)。両群のスピーキングの力は統計的に違いがないことが証明された。

ビデオ通話を活用した英語教材を,原稿を準備しない即興群と原稿を準備する準備群に分けて,5月から10月まで実施した。即興群と準備群の方法の違いがスピーキングに対する不安にもたらした効果を調べるため,第1フェーズの5月(事前)と10月(事後),その後,即興群と準備群の指導法を交代し,ビデオ通話を11月から2月まで実施した第2フェーズの最後の2月に同じアンケート調査を実施し,スピーキングに対する不安の変化を検証した。このように,両群ともに同じ指導法を経験させることで,倫理的に問題がないように配慮した。スピーキングに対する不安に関する質問は(元田, 2000)の心理尺度アンケートを英語学習者用に加筆修正したものを実施した。外国人との会話においてうまく話せないことや,自分の言いたいことが通じないことに対する不安によって構成された「外国人との意思疎通に対する不安8項目」を採用し,各尺度は無記名方式の5段階表示で,当てはまるものを1つ選ばせた。それぞれの質問項目の得点を集計し,平均値を算出した。質問紙の事前・事後において,英語を話すことに対する不安の変化を,繰り返しのある二元配置の分散分析を用いて検証し,指導法を交代した最後の2月に再度不安の変化の推移を分析した。本研究で用いられた不安尺度の全体は資料1に示す。

3.2.2 ビデオ通話の概要と特徴

実施時期は,週に1回25分間のビデオ通話を5月から10月までの期間において20回実施し(第1フェーズ),即興群と準備群の指導法を交代し,さらにビデオ通話を11月から2月まで17回(第2フェーズ)実施した。

事前調査の翌月より,参加者は高等学校の特別教室にて,ビデオ通話学習に参加した。各生徒につき1台のタブレット端末とヘッドセットを用意し,ビデオ通話学習のシステム,講師,カリキュラム,教材は,ベネッセ総合教育研究所により提供された。ビデオ通話の講師の割り当ては,ベネッセ総合教育研究所により毎時間無作為に行われた。そのため,参加者は実際にビデオ通話が開始するまでどの講師が担当するのかはわからなかった。講師の特徴は,20代から30代のフィリピン人の男女で,英語のネイティブ講師ではなかった。講師の英語力については開示されていないため不明だが,毎時間のビデオ通話の観察から,参加者が理解しやすいように全体的にゆっくりとしたスピードで話をしている様子がうかがえた。毎時間別の講師が割り振られるように依頼し,全ての参加者が毎時間初めての講師とやり取りを行うことにより,同一の講師と繰り返しビデオ通話を行うことによる人間関係の慣れや,その他の要因が影響することを避けるように配慮した。1年間を通してビデオ通話学習に参加するため,教材の量や授業回数,生徒の習熟度を考慮して前半部分にIntermediate levelのpresentation用教材(資料2参照),後半部分にはAdvanced levelのpresentation用教材(資料3参照)を載せ,2種類の教材を組み合わせて活用した。

Intermediate levelの教材を使用した時の学習の流れは以下の通りであった。まず,ウォームアップとしてビデオ通話を用いて簡単な自己紹介をフィリピン人講師とお互いに行い,資料2に示す教材を用いてタイトルと本文を音読した。続いて,内容に関する質問に答え,本時の文法ポイントの説明を聞いて理解した。次に,Practice1では講師からの質問に対してその文法ポイントを用いて自分のことについて答える練習を行い,Practice2では別の会話文を用いてもう一度練習し,その会話文を参考に,自分のことについて答える練習をした。その後,教材の最後にあるActivityのタスクでは,与えられたトピックに関して100語程度でプレゼンテーションを行い,講師からフィードバックをもらった。この一連の流れに沿って,ビデオ通話の授業は進行していた。

Advanced levelの教材を使用した場合の学習の流れも基本的には同様であった。ウォームアップとしてビデオ通話を用いてまず簡単な自己紹介をフィリピン人講師とお互いに行い,資料3に示す教材を用いてタイトルと本文を音読した。続いて,内容に関する質問に答え,本時の文法ポイントの説明を聞いて理解した。次に,Practice1では与えられた場面において,例文を参考にロールプレイングを行い,Practice2では別の会話文を用いてもう一度練習し,その会話文を参考に,自分のことについて答える練習をした。その後,Activityでは生徒は与えられたトピックに関して150語から200語程度でプレゼンテーションを行い,講師からフィードバックをもらった。

3.2.3 ビデオ通話の実施手順

即興群には,ビデオ通話が始める直前に教材を配布し,事前に準備ができないように統制した。具体的には,月曜日の2時間目に即興群がビデオ通話を実施し,8時40分の授業開始と同時にタブレット,ヘッドフォン,ビデオ通話で扱う教材を配布した(資料2と3参照)。そのため,この資料の教材ページ自体を授業時まで全く見ることができない状況であった。インターネットの接続とマイクの音声を確認後,8時50分からビデオ通話を一斉に開始し,終了後にはタブレット,ヘッドフォン,教材を回収した。その後,A4サイズの枠だけが書かれているワークシートを配布し,話した内容を振り返り,教材の最後のタスクにあるプレゼンテーションの内容を英語で書いてくるように指示し,次回のビデオ通話の授業の開始前に提出させ,添削してから返却した。また,実践研究であるという旨を生徒に伝え,準備群の生徒から事前にトピックを聞いて準備しないように注意した。筆者は教室内を歩き回りながら,機器のトラブルがないか等ビデオ通話の様子を終始確認し,参加者全員が原稿を用意せずに即興でやり取りを行っていたことを確認した。

準備群には,ビデオ通話の授業で扱う教材を事前に配布し,宿題としてレッスンで扱う見開きの全ての内容の予習を徹底させた。まず,会話文の英文を読み,知らない語彙を調べさせ,Grammar Focusの解説の部分を読んで理解するように指示をした。次に,Practice1のタスクの答えを記入させ,Practice2の会話文を読んで,タスクの答えを記入させた。教材の最後のタスクであるプレゼンテーションについては,自分の意見を事前に書いて準備してくるように指示を出した。準備群の実施日は水曜日の2時間目であり,事前に予習して書いてきた原稿を読み上げながらビデオ通話に取り組んだ。筆者の観察記録からも,参加者は準備してきた原稿に終始頼っており,ほとんどビデオ通話の講師の顔を見ていない状態であることが見て取れた。最後のタスクであるプレゼンテーションについては,丸読みしていたことがわかった。ビデオ通話後にその原稿は回収し,添削した後に,次の授業で返却した。

即興群,準備群ともにそれぞれ別のクラス単位で一斉にビデオ通話を開始しているため,他の人の声ができるだけ気にならないようにヘッドセットを着用し,タブレット端末を利用しながらビデオ通話を実施した。実際,友達の声や視線などは全く気にすることがなく取り組んでいた。ビデオ通話学習の様子を図1図2に示す。

図1 実際のビデオ通話の様子

図2 実際のビデオ通話の様子

4. 結果

不安尺度を用いて原稿を準備しない即興群と原稿を準備する準備群に分けてビデオ通話を活用し,その方法の違いがスピーキングに対する不安にもたらした効果を調査した。第1フェーズのアンケートの各項目の平均値と標準偏差の結果を表1に示し,即興群と準備群それぞれの事前と事後アンケートの全体の平均値と標準偏差の結果を表2に記載する。

これらの結果から,全ての項目において,ビデオ通話前の段階では即興群と準備群ともに不安が高く,同じような傾向を持っていることがわかった。そして,ビデオ通話後の段階では,即興群と準備群ともに不安が軽減され,両群ともに同じような傾向を持っていることがわかった。続いて,外国人との意思疎通に対するスピーキングの不安について,8項目のアンケートの事前(5月)事後(10月)における平均点を,即興群と準備群において統計的に効果に差があるかを検証した。グループごとにスピーキング不安の推移に差があるかを確認するために,2グループ(即興群,準備群)×2時点(質問紙:プレ, ポスト)の2元配置の反復測定分散分析を行った。英語教育学では独立変数は教授方法などの何らかの介入方法が,従属変数はテスト得点や質問紙の平均値などがよく用いられる。本研究における分散分析は,独立変数として教授法と時間の違いによって集団を設け,従属変数として質問紙を実施し,その2つの集団の質問紙の平均値には有意差があるかを検定した。指導法の要因(即興型と準備型)と時間(事前と事後)の2要因における不安の程度の結果を表3に示す。指導前後の時間においては,分析の結果,時間の主効果は5%水準で有意であり,効果量も大きなものであった。分析の結果,時間の主効果は5%水準で有意であり,効果量も大きなものであった。効果量の基準η2 は,Cohen(1988)の判断基準を参照し,η2 = .01(効果量小),η2 = .06(効果量中),η2 = .14(効果量大)とした。

次に,時間と指導法の交互作用は有意ではなく,効果量は小さいものであった。これらスピーキングに対する不安の結果を表3図3に示す。スピーキングに対する不安に関する事前質問紙の信頼性係数はα = .833で,事後質問紙の信頼性係数はα = .864であった。

図3 指導法の要因(即興型と準備型)と時間(事前と事後)の2要因の不安の結果

次に,第2フェーズの結果を報告する。即興群と準備群の指導法を交代し,さらにビデオ通話を活用し,その方法の違いがスピーキングに対する不安にもたらした効果を11月と2月のアンケートを用いて調査した。第1フェーズで即興群だったグループは準備群に変更し,準備群だったグループは即興群に変更した。アンケートの各項目の平均値と標準偏差の結果を表4に示し,全体の平均値と標準偏差の結果を表5に記載する。

この結果から,全ての項目において,2月の段階では,準備群,即興群ともに顕著に不安が軽減していることがわかる。次に,準備群,即興群において統計的に効果に差があるかを検証した。2グループ(準備群,即興群)×2時点(質問紙:11月, 2月)の2元配置の反復測定分散分析を行った。指導法の要因(準備型と即興型)と時間(11月と2月)の2要因における不安の程度の結果を表6に示す。指導前後の時間においては,分析の結果,時間の主効果は5%水準で有意であり,効果量も大きなものであった。

次に,時間と指導法の交互作用は有意ではなく,効果量は小さいものであった。これらスピーキングに対する不安の結果を表6図4に示す。スピーキングに対する不安に関する2月の質問紙の信頼性係数はα=.532であった。

図4 指導法の要因(準備型と即興型)と時間(事前と事後)の2要因の不安の結果

5. 考察

5.1 第1フェーズ

不安に関する時間の主効果が有意であり,大きな効果量が見られたことは,ビデオ通話を通してスピーキングを練習することが,学習者のスピーキングに対する不安の軽減に有効であったことを示している。そして,両要因の交互作用が有意でなく効果量が比較的小さかったことは,どちらかの指導法に偏って指導が有効であったわけではなかった,つまり,どちらの指導法においてもスピーキング不安を軽減させるのに有効であったことを意味する。本研究の第1フェーズでは,週に1回25分間のビデオ通話を6か月にわたり20回実施したが,即興型と準備型どちらの指導法を用いてもスピーキングに対する不安を軽減させるのに効果があることがわかった。

5.2 第2フェーズ

不安に関する時間の主効果が有意であり,大きな効果量が見られたことは,継続してビデオ通話によるスピーキングを練習することが,学習者のスピーキングに対する不安の軽減を促進させることを示している。そして,両要因の交互作用が有意でなく効果量が比較的小さかったことは,第1フェーズと同様に,どちらの指導法においてもスピーキング不安を軽減させるのに有効であったことを意味する。本研究の第2フェーズでは,継続して週に1回25分間のビデオ通話を17回実施したが,準備型と即興型どちらの指導法を用いてもスピーキングに対する不安を軽減させるのに効果があることがわかった。先に示したように,リスニングとスピーキングが不安の大部分を占めている(Horwitz et al., 1986)と言われているにもかかわらず,友達の視線や友達からの評価を気にすることなく,外国人と1対1という適度なリスクや緊張感を伴うビデオ通話という特殊な環境において繰り返し練習したことが,不安の緩和につながる可能性があることが示された。また,Crookall and Oxford(1991)は,教室で他の学習者が見ている前で個人のパフォーマンスを行う必要のない脅威のない環境であれば,学習者はリラックスし,不安が軽減されると指摘しており,本研究におけるビデオ通話の環境でもそのことが明らかになった。

準備なしの状態での英語での発話は,不安が高く,原稿などの準備をさせてしまいがちである。しかし,長期的に話すことの練習を続けることで,原稿がある場合でも,ない場合でも,不安の軽減につながる可能性があることが示されたように,段階を踏んで話す場面を継続的に取り入れることにより,原稿依存症や即興恐怖症といったこれまで課題となってきた即興的なスピーキングの指導が不足している現状を改善できる可能性がある。つまり,話すことに対して不安がある場合は,まずは原稿を準備した状態でも英語で発話する練習を繰り返して話すことに慣れさせ,その後,原稿を持たない即興の状態で発話する練習に移行することも考えられる。既に英語で即興的に話すことで嫌な経験をした生徒は,同じような状況に立つたびにその嫌な気持ちを想起するかもしれない。しかし,個人が目立たない場を用意し,繰り返し継続的に話す練習をしていくことで,スピーキング活動全般に対する不安が減少し,そのことが即興的な場面における不安の改善につながる可能性があることが示唆されたように,すぐに原稿を用意させる指導に戻るのではなく,継続して即興で話す練習を行うことが重要である。

以上の結果を踏まえると,教育的示唆として,本実践では,脅威のない環境において実践的に英語で発話する機会の確保と即興的に英語で話すことを繰り返すことによる慣れが,原稿依存症や即興恐怖症を改善する重要な鍵となることが示された。

6. 結論

本稿では,ビデオ通話を活用した英語教材を,原稿を準備しない即興群と原稿を準備する準備群に分けて,指導前後の効果を比較検証し,方法の違いがスピーキングに対する不安に及ぼす影響について検討した。本研究での調査および考察において得られた知見を以下に示す。

本研究の参加者は英検2級以上を全員が取得しており,またCEFRにおいても平均してB1以上のスコアを取得していた。このように高校1年生の中でも優れた英語能力を有している生徒を対象に行ったにもかかわらず,スピーキングにおいては不安が高いことがわかった。

次に,英語教材の原稿を準備しない即興型の方法(即興群)と原稿を準備する準備型の方法(準備群)に分けてビデオ通話を実施し,その方法の違いがスピーキング不安の変化に事前と事後で違いがあるかを比較検証したが,即興群と準備群において,不安の軽減に差は見られず,両グループともビデオ通話を通して英語で会話する経験がスピーキング不安に役に立つ可能性があることがわかった。

その後,即興群と準備群の指導法を交代し,比較検証した結果,ビデオ通話で話す練習を継続して繰り返すことでさらに顕著に不安の軽減が見られたが,両グループ間での不安の軽減には差は見られなかった。つまり,1対1のビデオ通話の形態で長期的に話すことの練習を続けることにより,原稿がある場合でも,ない場合でも,スピーキングにおける不安の軽減に役に立つ可能性があることが示唆された。したがって,原稿なしの状態でも,個人が目立たない状況を準備し,繰り返し話すことに慣れさせることで,即興的スピーキングに対する不安の減少につながるといえよう。

7. 今後の課題

最後に本研究の主な課題を5つ挙げる。

  • (a)ビデオ通話に関する実験の規模の拡大である。本研究は,34名という少ない参加者を対象とした研究であり,結果の一般化には注意が必要である。
  • (b)多様な学習集団を対象に調査する。本研究では,英語上級クラスに所属している生徒を対象に実施したため,能力の高い学習者には有効といった可能性も考えられる。今後は,英語習熟度が高い学習者だけでなく,低い学習者など多様な学習集団を対象にした場合の有益性も確かめたい。
  • (c)スピーキング力の調査も必要である。本研究では,ビデオ通話の実践における指導法の違いによるスピーキング不安の検証のみで,一般的な英語スピーキング能力やTOEICなどの標準化された試験を用いたスピーキング能力の検証は行っていない点も限界がある。
  • (d)また,ビデオ通話における英語のネイティブ講師を毎時間固定することがオンライン英会話学習の性質上難しいため,本研究におけるフィリピン人講師の個々の英語力やフィードバックの質や量が影響している可能性が考えられる。準備群においても,ビデオ通話の講師からの簡単な挨拶やスモールトークなど,即興でやり取りする場面が少なからずあったことや,ビデオ通話の外国人講師の特徴として非常に誉め言葉を多用してくれているため,英語で会話ができたといった成功体験も影響しているかもしれない。1対1で外国人と英語で会話をすることを継続し,達成感を得たことが参加者の不安軽減に役に立っている可能性も考えられる。参加者の実際の発話のやり取りや発話量,質の変化を明らかにしたい。
  • (e)質的調査を実施し,心情の形成,および変化を調べることも非常に大切である。学習者は,どのような場面で,どのように行動して,その時に何を感じたのか,ということを詳細に観察する必要もある。今回の質問紙調査では,どの段階から不安が軽減され始めたのかわからないため,ビデオ通話の実践のデザインとは直接関係のない要因も影響している可能性がある。今後は,個別インタビューの実施や,毎時間のビデオ通話実施後に振り返りの時間を設けて,その時の気持ちを詳細に記述するなど,量的分析の結果を質的観点から補うことで,より明らかにしたいと考えている。

このような限界はあるものの,従来,スピーキング指導において原稿を準備して行われることが中心であったと思われる教育現場において,原稿なしの状態でも練習を繰り返すことでスピーキングに対する不安の減少が見られたことは示唆に富む結果であったと言える。今後は,英語習熟度が高い学習者だけでなく,多様な習熟度の学習集団を対象にした場合の有益性についても調査し,習熟度やスピーキング力とスピーキングにおける不安の関係を分析することで,そこで得られたより多くの知見を英語教育現場において活用することを検討したい。

資料

本研究では,「スピーキングに対する不安」については,(元田, 2000)の心理尺度アンケートを英語学習者用に加筆修正したものを実施した。外国人との会話においてうまく話せないことや,自分の言いたいことが通じないことに対する不安によって構成された「外国人との意思疎通に対する不安8項目」を採用し,各尺度は無記名方式の5段階表示で,当てはまるものを1つ選ばせた。

   資料1 本研究で用いられた不安尺度

資料2 ベネッセ総合教育研究所(2017a)より提供された Intermediate levelの教材

資料3 ベネッセ総合教育研究所(2017b)より提供されたAdvanced levelの教材

謝辞

本研究の内容の一部は,IEEE TALE2020の学会において発表したものの追跡調査であり,さらに分析を加えて,加筆,修正し,再構成したものです。本研究はJSPS科研費19K13257の助成を受けたものです。本研究の実施に当たり,研究計画の立案など丁寧なご指導を賜りました大阪成蹊大学の高橋昌由准教授に深く感謝申し上げます。また,統計処理に際しては,関西大学の水本篤教授から有益なご助言を多く賜りました。改めて感謝申し上げます。最後に,貴重なご意見,ご指導を数多く賜りました関西大学の竹内理教授に心より御礼を申し上げます。

参考文献
 
© 2021 外国語教育メディア学会(LET)関東支部
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