2016 年 56 巻 2 号 p. 215-224
シカの高密度化が植生や森林土壌などに重大な影響を与えることは,ヨーロッパ,北アメリカおよびアジアなど北半球温帯域に位置する多くの国に共通した現象である.このような国々では,シカによる採食と樹皮剥ぎなどで被害を受けた森林が多くみられ,植物の種構成の変化,森林更新の失敗などが報告されている.我が国においてもニホンジカ(Cervus nippon)による農林業被害や生態系への影響が深刻化しており,対策が求められている.しかし,すでに過密状態にあるニホンジカ個体群のコントロールは困難を極めており,新たなアプローチを模索しなければならない.国際的な議論の動向や諸外国の先進的な取り組みを把握し参考とすることは,今後のニホンジカ管理体制の充実にとって重要である.本シンポジウムでは,科学的シカ管理に着目し,シカの生息地に存在する森林の包括的管理,および比較的新しいシカ管理手法として注目されているローカライズドマネジメント(Localized management)に焦点をあてた.アメリカ,英国,日本において,シカ管理と森林管理をテーマに研究を進めている4名が講演を行い,日本のシカ管理および森林管理に対するこれらの手法の応用可能性について議論を行った.