哺乳類科学
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原著論文
  • 羽布津 直人, 森口 千晴, 宇野 裕之
    2026 年66 巻2 号 p. 201-214
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/07/30
    ジャーナル フリー

    近年,ニホンジカCervus nipponの高密度化による生態系への影響や生物多様性の低下が社会問題となっている.ニホンジカ個体群の低密度管理が注目されているが,管理に必要な低密度生息下の植生影響の強度や利用頻度を評価する指標に関する研究は十分ではない.ニホンジカが近年侵入し,徐々に増加傾向にある群馬県北部の国有林において,落葉広葉樹林内の23地点で2023年7月から2024年10月までカメラトラップ法を行い,ニホンジカ及びニホンカモシカCapricornis crispusの撮影頻度指数(RAI)を調べた.また,各地点5個,合計115個の方形区を調査し低木の食痕率を調査した.一般化線形混合モデルによる解析の結果,低木食痕率と積雪期のニホンジカRAIには有意な関係が認められ,ニホンジカの利用頻度を示す指標としての有効性が明らかとなった.また,樹高や調査地の斜面方位,植被率などニホンジカRAI以外の要因が食痕率に影響を与えていることが示唆された.

  • 東出 大志, 池田  敬, 鈴木 嵩彬, 日下部 智一, 七條 知哉
    2026 年66 巻2 号 p. 215-225
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/07/30
    ジャーナル フリー

    岐阜県では,中大型哺乳類12種の生息状況と長期的動向を把握することを目的に,2021年度から県全域に100台の自動撮影カメラを設置し,広域的なモニタリングを実施している.本研究では,このモニタリングによって得られた分布および相対的な密度指標に関するデータを示し,行政が公表している情報との空間的な整合性を比較することを目的とした.中型哺乳類は行動圏が狭いため,100 km2あたり1台の設置密度では分布を十分に検出できていない可能性があるものの,行政データでは把握されにくい地域の情報を補完できる利点が確認された.大型哺乳類に関しては,自動撮影カメラで得られる撮影頻度が相対密度の空間分布と整合的なパターンを示す可能性があり,ニホンジカCervus nipponとニホンカモシカCapricornis crispusでは,単位出猟人日あたりの目撃頭数(SPUE)とのやや強い相関も認められた.一方,ツキノワグマUrsus thibetanusとイノシシSus scrofaでは,目撃の難しさや活動時間の地域差に起因すると考えられる観測誤差が大きく,SPUEとの対応関係は明瞭ではなかった.また,ニホンジカとイノシシについては,単位わな日あたりの捕獲頭数も撮影頻度との一定の整合性を示したが,地域によってわなの設置場所や捕獲対象種が偏ることによる検出への影響に留意する必要がある.本研究の結果は,野生動物のモニタリングにおいて,動物種の行動特性を踏まえた調査手法と指標の適切な選択の重要性を示すものである.

  • ―捕獲頭数は計画目標として不適である―
    浅田 正彦, 岸本 真弓, 竹内 啓之, 坂倉 健太, 檀上 理沙
    2026 年66 巻2 号 p. 227-243
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/07/30
    ジャーナル フリー

    イノシシ(Sus scrofa)について市町村が策定する鳥獣被害防止計画と都道府県が策定する第二種特定鳥獣管理計画の整合性および順応的管理の運用実態を分析し,近年会社経営や行政事業で運用されているKPI管理の観点から課題整理および提案を行った.イノシシの特定計画を立案している14県と,それらの県内で被害防止計画を策定,公表している342市町村・地域について整合性を分析した結果,捕獲目標値(捕獲計画数)において両計画の差が2割未満の自治体は5県,2割以上開いているところは7県あった.被害防止計画の捕獲計画数の設定根拠として事業評価や生息数調査結果があげられているものはほとんどなかった.ロジックモデルの手法を用いて因果関係を整理した結果,直接的に被害量と因果関係があるものは加害個体数の多寡に影響する生息密度であり,推定値あるいは密度指標値をKPIに設定することが適切であることがわかった.そして,「捕獲頭数」は直接因果関係のある指標ではないため,被害防止という目標達成に向けたKPIとして不適であることがわかった.両計画の順応的管理のためのKPI指標の設定条件として,①客観性,②直接性,③妥当な水準,④測定可能性,⑤説明容易性,⑥増減可能性が必要である点を指摘し,具体的に「有害捕獲CPUE」などを提案し,KPI値に基づいた順応的管理の手法および簡易データ収集法を提示した.

報告
  • 朴 侑希, 栗山 武夫, 高木  俊, 野瀬 遵, 沼田 寛生, 東出 大志, 横山 真弓
    2026 年66 巻2 号 p. 245-252
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/07/30
    ジャーナル フリー

    日本において分布拡大している特定外来生物のアライグマProcyon lotorは,主に人家や農地周辺などの被害地周辺で捕獲されている.しかし,アライグマはこれらの人為的環境だけでなく森林環境も利用するため,森林内での捕獲も進めていく必要がある.そこで本研究では,森林内において捕獲効率の良い環境と時期を明らかにすることを目的として,神戸市内の森林の異なる環境に25基の箱ワナを設置し,検討を行った.その結果,捕獲効率の良い時期は検出できなかったが,水辺から近いほど捕獲効率が良いことが分かった.また自動撮影カメラの撮影頻度は累積捕獲数の増加に伴って減少したため,調査地内の生息密度を反映すると考えられた.

  • 南野 一博, 明石 信廣
    2026 年66 巻2 号 p. 253-261
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/07/30
    ジャーナル フリー

    2023~2024年冬に北海道後志管内で野ネズミによる甚大な造林木被害が発生した.2024年5月14日,同管内蘭越町の2~4年生カラマツ(Larix kaempferi)造林地において被害状況を確認していたところ,複数の林分でエゾヤチネズミ(Craseomys rufocanus bedfordiae)の死体を発見した.そこで詳細を把握するため,同月19日に死体が確認された蘭越町立川の4年生カラマツ造林地内0.35 haの範囲を捜索し,造林木の根元付近などから計58個体のエゾヤチネズミの死体を採集した.死体はミイラ化あるいは白骨化した状態で,全身が残されているもののほか,身体の一部が欠損している個体や毛皮のみとなった個体が見つかった.採集した死体のうち頭部が残存する45個体について,上顎第2臼歯の歯根の形成状況から齢査定を行ったところ,死亡個体は日齢58±8~月齢8±1.8(平均値±標準誤差)の範囲にあり,最頻値は日齢123±56であった.後志管内では2023年に広範囲でササが一斉開花・結実したことにより,エゾヤチネズミが大発生した可能性があり,それらが越冬中に造林木を加害し,大量死したと考えられた.さらに,深い積雪と冬季の低温により死体の分解や消失が制限されたことで,造林地内に死体が残存していたと推察された.

  • 上野山 菜月, 辻野  亮
    2026 年66 巻2 号 p. 263-269
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/07/30
    ジャーナル フリー

    奈良県奈良市には奈良公園を中心にニホンジカが多く生息しており,天然記念物「奈良のシカ」に指定されている.本研究では馴化程度の指標に逃避開始距離(Flight Initiation Distance:FID)を用いて,奈良のシカの人への馴化と餌付けの関連を明らかにすることを目的とした.ニホンジカ推定生息密度と人為的な餌やり密度,ニホンジカのFIDを奈良公園の3調査区と奈良教育大学高畑キャンパスで調査した.調査項目がFIDに与える影響を明らかにするための一般化線形混合モデル解析によると,調査区,性齢クラス(オス・メス・当歳仔),ニホンジカの観察開始時の姿勢(座位・立位),時期(出産期・交尾期・通常期)を説明変数とするモデルが選択された.選択された4つの説明変数のうち調査区が特に重要な変数と考えられたことから,奈良のシカの馴化程度は調査区の違いを明確にするニホンジカの推定生息密度と餌やり密度に起因すると考えられた.

  • ムラノ 千恵, 中村 剛之, 山岸 洋貴
    2026 年66 巻2 号 p. 271-274
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/07/30
    ジャーナル フリー

    ミズラモグラOreoscaptor mizuraは,本州の森林環境に生息する日本固有の小型のモグラで,主に本州の山地から高山帯に分布することが知られる.青森県においては,これまで主に八甲田山系と,岩木山の南側斜面に生息していることが報告されてきたが,今回初めて白神山地域においてミズラモグラの死体が拾得され,弘前大学農学生命科学部附属白神自然環境研究センター(青森県弘前市)に収蔵された.死体の発見地点は,世界自然遺産の緩衝地域に含まれる標高約320 mの林道で,これまで知られている青森県内の生息地の中でも最も西に位置する.青森県内においてミズラモグラが標高60 mから1,050 mまで幅広い標高帯で確認されていることをふまえると,本個体によって白神山地とその周辺の広い地域に当該種が分布している可能性が示唆された.

  • 矢部 辰男
    2026 年66 巻2 号 p. 275-284
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/07/30
    ジャーナル フリー

    日本で過去に使われていたねずみ返し付きの高倉を4つの型に類型化し,それぞれの特徴を論じた.1)北海道(アイヌ集落)の型:亜寒帯気候下にあり,ドブネズミ(Rattus norvegicus)を主な対象とした.高倉にはドブネズミが好む魚類の燻製品などの動物質が保管されていたが,これは動物性食物を好むドブネズミを誘引した.本種は登攀力が劣るため,比較的小型のねずみ返しでも侵入防止に有効であった.2)本州,四国,九州の型:温帯気候下にあり,クマネズミ(R. rattus sensu lato)を主な対象とした.優れた登攀能力を持つクマネズミに対応するため,高い掘立柱に大きなねずみ返しを備えていた.季節的に繰り返される寒冷気候により,クマネズミの屋外活動が制約されるため,収穫前の水田での防鼠対策よりも保管時の高倉への侵入防止対策が重視された.3)南西諸島の型:亜熱帯気候下にあり,高倉は主にクマネズミ対策として普及した.脚柱に工夫(円柱の利用,鉄板の巻き付け)が施されたが,冬季にも温暖な気候のため,クマネズミは屋外でも活動し,収穫前の農作物も加害した.4)八丈島・八丈小島の型:亜熱帯気候下にあり,ドブネズミとクマネズミの両種が対象となった.しかし温暖高湿環境のため,両種とも年間を通して屋外活動が活発で,収穫前の農作物に対する食害が激しかったと推測される.その結果,構造的な欠陥もあり,高倉の十分な効果は得られなかったと思われる.以上の分析から高倉の構造は,対象となるネズミの種の特性によって異なり,その防鼠効果は地域の気候環境に大きく影響されていたと考えられる.

  • 安田 雅俊, 仲谷 淳
    2026 年66 巻2 号 p. 285-289
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/07/30
    ジャーナル フリー

    和歌山・大阪府県境の特定外来生物クリハラリスCallosciurus erythraeusの生息分布の現状を把握することを目的として,2025年3月に,和泉山脈西部の計14地点(和歌山県和歌山市8地点,大阪府岬町6地点)において生息痕跡(環状食痕)の調査を実施した.和歌山県内では4地点において本種によるものとみられる古い環状食痕を確認したが,大阪府内では本種の生息の証拠を得ることができなかった.本調査により,和泉山脈西部にはかつてクリハラリスが少なくとも東西約7 kmの広がりをもって野生化していたこと,調査時点で広域的に蔓延する状況には至っていないことが示唆された.これらの情報から,本個体群の防除の目標区分を「根絶目標地域」と評価した.今後は本研究を参考として地方行政機関が本地域のクリハラリスの防除に取り組むことが望ましい.

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