哺乳類科学
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フィールド・ノート
総説
  • 安田 雅俊, 田村 典子
    2025 年65 巻2 号 p. 111-128
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/06
    ジャーナル フリー

    外来生物法施行から20年が経過したが,近年もクリハラリスの新たな定着が確認されている.国内外来種を含む外来リス類のリスク管理のためには,過去の飼育記録等を精査し個体の逸出に関する情報を整理する必要がある.そこで日本動物園水族館協会(JAZA)が発行する年報に基づき,すべてのリス科動物を対象として1951年度~2011年度の国内の飼育状況の変遷を亜科レベルで分析した.次に樹上性のクリハラリス,キタリス,ニホンリスの2属3種を対象として飼育施設ごとの飼育頭数を分析した.JAZA会員施設に限れば,①リス類の飼育施設数と飼育頭数はともに2000年代に最大となったこと,②主な飼育種は外来種から在来種へと交代したこと,③特定外来生物クリハラリスの飼育頭数は大きく減少したことが明らかとなった.さらに,JAZA会員施設のうち周辺地域にクリハラリスが生息する5施設を選び,各施設の飼育状況,放飼や逸出の情報を整理したところ,①複数の施設が本種の放飼や逸出にかかわっていたこと,②少数の逸出であっても野外で新たに定着できる場合があること,③野外個体への人為的な餌資源の供給は個体群の定着率や増加率を高める可能性があることが明らかとなった.最後に,JAZA非会員の飼育施設が新規個体群の定着に関係したとみられる2つの事例を挙げ,外来リス類のリスク管理のために取り組むべき課題を明らかにした.

短報
  • 岩田 汐央, 入田 祐実, 大川 蓮華, 山下 麗美, 小林 翔平, 田谷 一善, 井上 聰, 細野 透, 勝俣 浩, 勝俣 悦子, 川口 ...
    2025 年65 巻2 号 p. 129-134
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/06
    ジャーナル フリー

    バンドウイルカ(Tursiops truncatus)は,世界中に広く生息している小型のハクジラとして知られている.飼育下において,問題行動の一つである吐き戻し行動が頻繁に確認され,その低減方策の確立が求められている.本研究では,吐き戻し行動を減退させる環境エンリッチメントデバイスとしてボートフェンダーを使用して,鴨川シーワールドで飼育されている2頭のバンドウイルカの吐き戻し行動低減効果を観察した.実験では,昼給餌の後にボートフェンダーを投入する日としない日を設け,吐き戻し行動の観察を行った.その結果,ボートフェンダーを投入した日は,投入しない日に比べて吐き戻し行動の回数および吐き戻しを行う時間が比較的少ないことが判明した.今後,ボートフェンダー投入によるバンドウイルカの吐き戻し行動の低減策確立には,観察する個体数の増加とボートフェンダーによる吐き戻し低減効果の持続性についての検証が必要である.

報告
  • 吉竹 歩, 山田 雄作, Baek Seung-Yun, 小池 伸介
    2025 年65 巻2 号 p. 135-142
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/06
    ジャーナル フリー

    Activity sensorを使用することで,動物の活動状態を遠隔かつ連続的に記録できる.しかし,得られる観測値(Act値)から行動内容を推定するには,実際の行動とAct値を比較し,活動状態を区分するAct値の閾値を決定する必要がある.本研究では夜間の直接観察が難しいがゆえに日周行動の全容が解明されていないニホンカモシカ(Capricornis crispus)を対象として,「活動状態」と「非活動状態」を区分するAct値の閾値を決定することを目的とした.野生の1個体にActivity sensorを搭載したGPS首輪を装着し,直接観察した行動内容とセンサーのAct値を照合することで,閾値を決定した.その結果,1,300分の観察記録を解析したところ,Act値において95%以上の正答率で活動状態と非活動状態を区分する閾値を決定することができた.この閾値は1個体の情報のみに依存したものであるが,野生個体の行動に基づき決定された点では重要な情報といえる.今後は,複数の野生個体においてデータを取得し,より精度の高い閾値を決定することで,カモシカの日周行動のさらなる解明に貢献できると考える.

  • 森澤 猛, 安田 雅俊
    2025 年65 巻2 号 p. 143-147
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/06
    ジャーナル フリー

    箱罠で捕獲した小型哺乳類を野外において処置する際の確実な保定と咬傷防止,さらに安楽殺の際の炭酸ガス使用量の削減を目的として保定器具を開発した.ペットボトルや厚手のビニル袋といった手に入れやすい材料を使用することにより,重量約120 g,1個あたりの費用は約300円と軽量かつ安価な保定具を簡便な手順で製作することができた.この保定器具は野生動物にかかわる関係法令等を遵守し,研究倫理に則って使用者の責任において使用する必要がある.

  • 佐野 明, 田村 香里
    2025 年65 巻2 号 p. 149-151
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/06
    ジャーナル フリー

    三重県多気町の休耕田において,カヤネズミMicromys minutusの球状巣が上下に2つ連結された状態で営巣されているのを確認した.巣材にはススキMiscanthus sinensisの葉が利用され,下の巣の下端の地上高は約30 cmであった.2巣とも12月8日から25日の間に営巣されたものであり,幼獣は見られなかった.2つの巣はススキの緑葉で連結されており,内部にも緑葉が見られたことから,ほぼ同時に作られたものと考えられる.

  • 伊藤 友仁, 辻 大和
    2025 年65 巻2 号 p. 153-162
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/06
    ジャーナル フリー

    アカネズミ(Apodemus speciosus)の捕獲個体数・捕獲回数の時間的変化を,地上種子量との関連性に着目して評価した.2021年4月から2022年11月にかけて,宮城県石巻市でシャーマントラップを用いた捕獲調査ならびに地上種子量の調査を行った.調査期間中,我々はアカネズミを115回(36個体)捕獲した.とくに夏の捕獲個体数が多かった.亜成獣が7月と9–11月に捕獲されたことから,本調査地のアカネズミは本州の他地域と同じく春秋2回型の繁殖を行っていると推測された.地上種子量(1 m2あたりの個数と乾燥重量)は秋に最も大きく,アカネズミにとってこの季節の食物環境は良好だと考えられた.ある月の地上種子量とその月のアカネズミの捕獲個体数・捕獲回数との間に相関はなかったが,ある月の地上種子の個数と翌月から4ヶ月後までのアカネズミの捕獲個体数との間に,そして翌月から3ヶ月後までのアカネズミの捕獲回数との間に有意な負の相関がみられた.また,ある月の地上種子の重量と,翌月ならびに2ヶ月後の捕獲回数との間にも有意な負の相関がみられた.地上種子量が最も小さい夏期に捕獲個体数・捕獲回数が増加したのは,春生まれの個体が調査区に侵入したことに加え,トラップの餌の誘因力が相対的に上昇したことに起因すると考えられた.地上種子量と捕獲個体数・捕獲回数の関係が顕在化するまでの数か月のずれは,生まれたアカネズミが性成熟し分散するまでに要する時間,あるいはアカネズミが地上種子量の多寡に合わせて採食行動を切り替えるのに要する時間に相当すると考えられる.

  • 明主 光, 石井 信夫, 岩佐 真宏, 金子 賢太郎
    2025 年65 巻2 号 p. 163-170
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/06
    ジャーナル フリー

    最高峰の雲取山(2,017 m)をはじめとした東京都西端部の山地における小型哺乳類(真無盲腸類・ネズミ類)の生息状況については近年の情報が乏しい.そのため,2020年度版に向けた東京都レッドリスト改訂作業の一環で,赤指山(1,332 m)の中腹(約1,000 m)の植林地および雲取山山頂周辺の亜高山帯の針葉樹林と広葉樹林において,それぞれ2019年8月と10~11月に小型哺乳類の調査を行った.その結果,6種24個体が捕獲され,赤指山ではアカネズミApodemus speciosus,ヒメネズミA. argenteus,雲取山ではヒメヒミズDymecodon pilirostris,ヒミズUrotrichus talpoides,ヤチネズミCraseomys. andersoni,スミスネズミC. smithii,ヒメネズミが確認された.準絶滅危惧(NT)と評価されるヒメヒミズとヤチネズミの生息が確認されたことは注目に値する.種構成は2000年以前の報告と大きな違いはなかったが,雲取山の一部の地点および赤指山ではニホンジカCervus nipponの採食圧の増加に伴う林床の乾燥化が及ぼす小型哺乳類相への影響が示唆された.

  • 山澤 泰, 横畑 泰志
    2025 年65 巻2 号 p. 171-176
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/06
    ジャーナル フリー

    地下性哺乳類の多くは,地下に巣穴やトンネルを形成することで他種の動物に生息場所を提供する生態系エンジニアとして知られる.巣穴やトンネルは,様々な分類群の動物によって採餌や繁殖,環境ストレスからの逃避のために利用される.しかし,モグラ類のトンネルに関するそうした研究は進んでおらず,断片的な知見にとどまっている.そこで,モグラ類のトンネルを利用する動物相およびその利用状況の詳細を把握し,モグラ類と利用種の生態学的な関係解明に向け,自動撮影カメラの土中での活用を検討した.本研究では,アズマモグラ(Mogera imaizumii)のトンネル側面に自動撮影カメラ1台を設置し,トンネル内の撮影を試みた.その結果,8日間の設置期間で,ほぼ連日ヒミズ(Urotrichus talpoides)が撮影され,利用した時間帯や回数も把握できた.また,自動撮影カメラを仕掛けたトンネルでは,モグラ罠により過去に繰り返しアズマモグラが捕獲されているが,ヒミズは捕獲されていない.よって,トンネルの利用種やその利用状況の詳細を把握するうえで,自動撮影カメラを用いた「トンネルカメラトラップ」が有効である可能性がある.

  • 菊地 ひとみ, 近藤 理美, 田中 秀侑, 辻井 浩希
    2025 年65 巻2 号 p. 177-182
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/06
    ジャーナル フリー

    ザトウクジラ(Megaptera novaeangliae)は高緯度の摂餌海域から低緯度の繁殖海域に季節回遊する大型海棲哺乳類であり,尾びれの縁の形状や腹面の白黒模様によって個体識別が可能である.小笠原諸島海域は,北太平洋における本種の冬季の繁殖地もしくは回遊地として知られており,2018年以降伊豆諸島三宅島海域でも本種の目撃が報告されている.2022~2023年の繁殖期間に実施した個体識別調査の結果,三宅島海域で確認された2個体が,南方に約800 km離れた小笠原諸島父島列島海域でも確認された.同一繁殖期間内における両海域での同一個体の確認は初めてであり,これらの個体は,2022~2023年の繁殖期間中に三宅島海域と小笠原諸島海域の両海域を利用したことが示された.

  • 杉田 典正, 高畑 優, 山口 英昌, 船越 公威
    2025 年65 巻2 号 p. 183-188
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/06
    ジャーナル フリー

    コウモリ類はねぐら場所で多くの時間を費やすため,ねぐら利用様式の理解は保全のために重要である.トカラ列島と口永良部島の固有亜種エラブオオコウモリPteropus dasymallus dasymallusは環境省のレッドリストで絶滅危惧種IA類に選定されている.現状では特にトカラ列島個体群の観察例は極めて限られている.著者らは,2023年7月17日の日中に悪石島の集落から約200 m離れた谷沿いの森林内で休息中の1頭の成獣オスを観察した.このコウモリはねぐらでしばしば毛づくろいを行った.このコウモリは,日没後,ねぐら場所に近接する餌場でなわばり主張とみられる行動を示した.島ごとに生息環境は大きく異なるので,本亜種の様な保全ステータスの高い本亜種では,各島の個体群ごとに生態に関する情報の蓄積が必要と考えられ,本報告は保全のために意義がある.

  • 菊池 隼人, 泉山 茂之
    2025 年65 巻2 号 p. 189-192
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/06
    ジャーナル フリー

    ニホンモモンガPteromys momongaの営巣場所を明らかにするため,ラジオテレメトリーによって個体を追跡した.2017年11月から12月にかけて,長野県伊那市においてニホンモモンガ2個体に電波発信器を装着し,接近法によって営巣場所を特定した.その結果,ニホンモモンガはこれまで多く報告されていた樹洞だけではなく,形状について情報が乏しかった枝上巣を利用していた.枝上巣は樹枝上にスギCryptomeria japonicaの樹皮および枝葉を球状に集めて作られていた.

  • 船越 公威, 大沢 夕志, 大沢 啓子, 前田 史和, 牧 貴大
    2025 年65 巻2 号 p. 193-200
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/06
    ジャーナル フリー

    奄美大島に生息する小型コウモリ5種,ヤンバルホオヒゲコウモリMyotis yanbarensis,リュウキュウテングコウモリMurina ryukyuana,シナオオアブラコウモリHypsugo pulveratus,モモジロコウモリMyotis macrodactylusおよびオリイコキクガシラコウモリRhinolophus cornutus oriiの人工構造物の利用について,2023年8月と2024年8月に調査した.人工構造物はいずれも常緑広葉樹林が隣接していた.昼間のねぐらとして,ヤンバルホオヒゲコウモリは隧道天井の水抜き穴や建物壁面内,リュウキュウテングコウモリとシナオオアブラコウモリも隧道天井の水抜き穴の利用が初めて記録された.モモジロコウモリは隧道天井の窪み,オリイコキクガシラコウモリは隧道やボックスカルバートの天井壁面を昼間のねぐらに利用していた.特に,隧道内は多様なねぐら環境を提供しており,各種がねぐら場所を違えていた.人工構造物とそれらに隣接する常緑広葉樹林の存在は各種の保全に寄与すると考えられる.

学会賞受賞者
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