2019 年 59 巻 1 号 p. 37-48
森林内に存在する止水域・半止水域であるヌタ場の,中大型哺乳類による利用実態を明らかにするために,神奈川県東丹沢地域のヌタ場6ヶ所を対象として,2015年6月から2017年10月までの29ヶ月間,センサーカメラによる調査を実施した.その結果,12種の哺乳類が撮影された.撮影頻度による上位4種はニホンジカ(Cervus nippon),ニホンイノシシ(Sus scrofa leucomystax),タヌキ(Nyctereutes procyonoides),アナグマ(Meles anakuma)であり,これらが全体の88.2%を占めた.ヌタ場における主な行動は,ニホンジカにおいては雌雄で異なり,オスは繁殖期のヌタ浴びによる匂い付け行動,メスは通年の飲水であった.また,イノシシは通年のヌタ浴び,タヌキとアナグマは春季の探餌行動が優占した.さらに,ヌタ場内の水のナトリウム濃度とニホンジカのメスの飲水の撮影頻度との間に正の相関がみられた.本研究から,ヌタ場の一部は塩場としての機能も有すること,食肉目の採食の場としても利用されていることが判明し,森林性中大型哺乳類にとって重要な生息環境の一つであることが示された.