Quarterly Journal of Marketing
Online ISSN : 2188-1669
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Special Issue / Invited Peer-Reviewed Article
Exploratory Study of Factors Determining Outcomes of Sixth Sector Industrialization Using Secondary Data
Tetsu Kobayashi
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2019 Volume 39 Issue 1 Pages 43-60

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Abstract

日本の農林漁業は,就労者の減少や高齢化により,深刻な状況に直面している。こうした状況の中,政府は,農林漁業再生手段のひとつとして6次産業化をあげ,それを推進するため,さまざまな支援を行っている。しかしながら,6次産業化の研究は,政府の支援策に関する考察や事例の紹介にとどまり,6次産業化の成果規定要因に関する定量的分析はほとんどなされていない。そこで,本稿は,政府が作成した「6次産業化の取組事例集」を用いて,その定量的分析を試みる。分析の結果,加工と直販の両方を行う方が6次産業化の成果が高まることや,同じ6次産業化でも直販とレストランで成果に与える影響が異なることが明らかになった。また,地域への関与が高い6次産業化の方が,成果が高まることも示された。

Translated Abstract

Agriculture, forestry, and fisheries in Japan face serious situations due to a decline in workers and an aging population. Under these circumstances, the government has introduced measures to promote sixth sector industrialization (i.e., diversification of primary producers into processing and distribution) as a means of revitalizing these industries. However, research in this area is limited to discussion of the contents of government support measures and introduction of examples. There has been little quantitative analysis of the factors that determine the outcomes of this approach. Therefore, in this paper, we performed a quantitative analysis using the casebook of sixth sector industrialization prepared by the government. The results showed that industry revitalization was enhanced if processing and direct sales were conducted simultaneously, and that the influence on outcomes differed in the direct sales and restaurant sectors. In addition, sixth sector industrialization was more effective if there was a strong involvement with the local area.

はじめに

日本の農林漁業は,就労者の減少や高齢化等により,深刻な状況に直面している。この状況を打開する方法のひとつとして注目されているのが,農林漁業の6次産業化である。6次産業化とは「1次産業としての農林漁業と,2次産業としての製造業,3次産業としての小売業等の事業との統合的かつ一体的な推進を図り,地域資源を活用した新たな付加価値を生み出す取組」を意味する1)。この6次産業化は,政府が2011年に制定した「我が国の食と農林漁業の再生のための基本方針・行動計画」において主要戦略のひとつにあげられており,現在も6次産業化を推進するためにさまざまな支援が実施されている2)

しかしながら,6次産業化に関する研究は,その政策的側面の考察や事例の紹介にとどまるものが多く,6次産業化の成果向上方法に関する考察は思うように進んでいない。そこで,本稿は,政府が作成した「6次産業化の取組事例集」を用いて,6次産業化の成果規定因を定量的に分析し,その構造的把握を試みる。

本稿の構成は以下の通り。まず,第1章で,6次産業化に関する政府の取組を概観し,第2章で,それを流通過程における垂直統合のひとつとみなし,6次産業化の特徴を明らかにする。そして,第3章で,「6次産業化の取組事例集」を用いて,成果規定因に関する定量的分析を試み,その結果について考察する。

I. 6次産業化の概要

1. 6次産業化法の制定

現在,政府は6次産業化を推進するためさまざまな支援を行っているが,その基礎となっているのが,2010年11月に成立し,2011年3月に施行された「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律(平成22年法律第67号)」(以下,6次産業化法)である。

6次産業化法は,その前文において,農山漁村が,長年にわたって日本の豊かな風土と勤勉な国民性を育み,就業の機会を提供し,多様な文化を創造してきたという認識に基づき,国民経済の健全な発展と国民生活の安定向上のためには農林漁業の持続的かつ健全な発展が必要だと主張する。そして,そのためには,1次産業の農林漁業の事業と2次産業の製造業や3次産業の小売業等の事業との総合的かつ一体的な推進を図り,地域資源を活用して新たな付加価値を生み出す6次産業化の推進が不可欠だと言う。なぜなら,6次産業化により農林漁業者の所得が向上すれば,農林漁村に活気が戻り,農林漁業の持続的発展が可能となり,ひいては消費者利益の増進や自給率の向上など日本全体の持続的発展につながるからである。

なお,ここで言う地域資源には,彼らが育成・採取・捕獲した「農林水産物」はもちろんのこと,「バイオマス(食品廃棄物・未利用間伐材)」や「自然エネルギー」,農林漁業者の有する「経験や知恵」「伝統文化」,農山漁村の「風景」なども含まれる3)。また,これらの地域資源を活用した取組として,「食品産業」以外に「観光産業」「IT産業」「化粧品・医薬品産業」「エネルギー産業」などがあげられている。そして,6次産業化の方法も,農林漁業の製造業や流通サービス業への参入のみならず,製造業や流通サービス業の農林漁業への参入や彼らとの連携による新たな事業の創造など,さまざまな形態での6次産業化を視野に入れている4)

2. 6次産業化推進に至る経緯

上述したように,政府が6次産業化の推進に至ったのは,日本の農林漁業が抱える深刻な状況にある。

1は,日本の農林漁業従事者数の推移を示したものである。1960年に1,340万人いた従事者が,2015年には229万人と2割以下に減少している。また,全産業に占める農林漁業従事者の割合も減少しており,1960年に全産業の30%を占めていた農林漁業従事者が,2015年には3.6%まで落ち込んでいる。

図1

農林漁業従事者数の推移

(出所)労働政策研究・研修機構の「産業別就業者数」データをもとに筆者作成

この農林漁業従事者の減少は,産業に深刻な影響をもたらす。図2は,農林漁業従事者の高齢化率(65歳以上の従業員比率)と農林漁業を含む全産業従事者のそれを比較したものである。これを見ると,1970年に12%だった農林漁業従事者の高齢化率が,2015年には47%と大幅に増加していることがわかる。また,全産業のそれと比較すると,1970年時点で全産業の2倍以上あり,もともと高齢化率は高かったが,2015年にはその差が4倍近くまで拡大し,農林漁業において従事者の高齢化が急速に進んでいることがわかる。

図2

農林漁業従事者の高齢化比率

(出所)総務省統計局『労働力調査』の「年齢階級・産業別従業者」データをもとに筆者作成

高齢化率の高さは,同時に若者の担い手不足を意味する。事実,農林漁業における15歳から29歳までの従事者は,1970年に13%以上存在したが,1978年に10%を切り,2015年には5%近くまで減少している5)。この農林漁業従事者の高齢化と若手の担い手不足は,日本の農林漁業の持続的発展を考えると極めて深刻な問題だと言える。

では,なぜ農林漁業において若手の新規従業者が少なく,高齢化が進んでいるのか。その理由として,農林漁業の仕事の特殊性や若者の都会志向など,さまざまな要因が考えられるが,その中でも大きいのが所得の問題である。図3は,農林漁業の国内総生産(実質)を従事者数で割った従事者1人当たり国内総生産を,全産業のそれと比較したものである。資料の関係で,1994年以降のデータしかないが,両者の間に大きな差があることがわかる。ちなみに,2017年のそれを見ると,農林漁業従事者の1人当たり国内総生産が約203万円なのに対し,産業全体のそれは約812万円となっており,4倍以上の差がある。もちろん,農林漁業従事者の中には兼業も多く,この数値がそのまま彼らの収入を表すとは限らないが,農林漁業から得られる収入が低いのは確かである。

図3

農林漁業の従事者1人当たり国内総生産の推移

(出所)内閣府『国民経済計算』の「経済活動別国内総生産」と労働政策研究・研修機構の「産業別就業者数」データをもとに筆者作成

日本の農林漁業の持続的発展には,若手の新規従事者の増加が不可欠であり,そのためには,農林漁業従事者の所得向上を図る必要がある。所得を増やすには,売上を増やすか,生産性を高めコストを下げるしかない。そして,売上をあげるには,水平的に事業を広げ規模拡大を図るか,垂直的に事業を広げ付加価値向上を図るか,農林漁業以外の事業に参入し多角化を図るしかない。6次産業化は,この売上をあげる2番目の方法すなわち流通過程の垂直的事業拡大に該当する。農林漁業従事者が6次産業化することで,売上があがり所得も増加する。その結果,労働市場における農林漁業の魅力が高まり,従事者が増加することで農林漁業の持続的かつ健全な発展が可能となる。政府が6次産業化を推進する理由がここにある。

3. 6次産業化法に基づく政府の支援

ここで,6次産業化法に基づく政府の支援についてみてみよう。

6次産業化法に基づく支援は,「総合化事業計画」と「研究開発・成果利用事業計画」の2つの事業計画に対する支援に大別される。総合化事業計画は,農林漁業者が,農林水産物およびその副産物(バイオマス等)の生産や,その加工・販売を一体的に行う事業計画のことを言う。もうひとつの研究開発・成果利用事業計画は,民間事業者等が上記の事業活動に資する研究開発およびその成果を利用する業務計画であり,6次産業化に直接かかわる事業計画は,総合化事業計画の方である6)

そして,6次産業化の支援を受けるには,総合化事業計画として農林水産大臣の認定を受ける必要があり,そのために以下の要件を満たす必要がある7)

第1に,事業主体が農林漁業者(個人・法人の両方を含む)もしくは農林漁業者の組織する団体(農協や集落営農組織等。任意組織も可)であることが条件となる。もちろん,農林漁業者以外の製造業者や流通業者,IT企業等も事業に参加することができるが,あくまで促進事業者としてであり,事業主体は農林漁業者および彼らの組織する団体である必要がある。

第2に,事業内容として,①自ら生産した農林水産物等を不可欠な原材料とする新たな商品の開発,生産または需要の拡大,②自ら生産した農林水産物等について申請者がこれまで行ったことのない新たな販売方法の導入や改善,そして,③上記①または②を行うために必要な生産方式の改善のいずれかを対象とする必要がある。

第3に,計画段階の目標ではあるものの,成果として,①農林水産物および新製品の売上が5年間で5%以上増加することと,②農林漁業および関連事業の所得が増加し,終了年度までに黒字化することの2つを達成する計画を立案する必要がある。

第4に,事業期間は5年以内である8)

以上の要件を満たし,総合化事業計画に認定されると,6次産業化プライナーによる総合的なサポートや,無利子融資の貸付や,融資の返還および据置期間の延長,補助金の支給など資金面での援助を受けることができる。また,産地リレー契約における取引リスクを軽減するための交付金や,施設整備等の手続きの簡素化,農林水産省HP等での認定事業者名の告知や取組内容の紹介,ネットワーク作りの支援なども必要に応じて受けることができる。

このような支援を受けることのできる総合化事業計画の認定数は,2011年の709件に始まり,2012年から2014年に大きく数の伸ばし,2017年には累積2,349件に達する(図4参照)。

図4

総合化事業計画の累積認定件数

(出所)Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries (2018a), p. 101.

II. 6次産業化の理論的含意

1. 6次産業化の概念

前章で,2011年に施行された6次産業化法を中心に,その概要や法律制定に至る背景,そして,法律に基づく支援内容についてみてきた。しかし,6次産業化という言葉が登場するのは,この法律が初めてではない。

6次産業化という言葉を初めて使用したのは,農業経済学者で東京大学名誉教授の今村奈良臣氏だと言う(Tokoro, 2015)。今村は,6次産業化を「農業が1次産業のみにとどまるのではなく,2次産業(農畜産物の加工・食品製造)や3次産業(卸・小売,情報サービス,観光など)にまで踏み込むことで農村に新たな価値を呼び込み,お年寄りや女性にも新たな就業機会を自ら創り出す事業と活動」だとしている(Imamura, 1998, p. 1)。

この今村の考える6次産業化と政府が考えるそれを比較すると以下のようになる。

まず,今村は,6次産業化の推進主体を農業者(農林漁業者)としており,6次産業の基盤は1次産業にあるとしている。彼は,当初,6次産業化を「6次産業=1次産業+2次産業+3次産業」と表記していたのを,「6次産業=1次産業×2次産業×3次産業」と変えている。その意図は,割合は小さくても1次産業が無ければ2次産業や3次産業が成立しないことを表すためであり,農林漁業を元気にすることが6次産業化の目的だとしている。

一方,政府は,6次産業化法を策定するに当たり,概念上,製造業者や流通業者の農林漁業への参入も6次産業化に含まれるとしている。しかし,総合化事業計画の認定主体となれるのは,農林漁業者および彼らが組織する団体のみであり,制度上,6次産業化の主体は,農林漁業者に限られている。したがって,政府も,実質的には今村と同様,6次産業化の主体は農林漁業者とみなしていると言える。

また,今村は,6次産業化において,農林漁業者が2次産業や3次産業を取り込むことを主たるテーマにしているのに対し,6次産業化法では地域資源を活用してそれを行うことを重視している9)。しかし,今村も,農林漁業者の第2産業への進出は,原材料となる農畜産物の生産振興のみならず,雇用の創出や地域外からのUターンやIターンを促し,地域の活性化につながると主張している(Imamura, 1998)。したがって,地域資源の活用という起点と考えるか,地域への貢献という帰結と考えるかという違いはあるものの,6次産業化が地域と密接に関わっているという点では共通しており,農林業業者をその主体とすることと合わせ,今村の6次産業化の考え方と政府のそれとは,大筋で同じとみなすことができる。

2. 6次産業化と垂直統合

さて,6次産業化の概念をその提唱者である今村に遡って確認したが,農林漁業を離れてみれば,6次産業化は,流通過程の特定の段階に位置する企業が他段階に位置する企業の活動を取り込む垂直統合とみなすことができる。

垂直統合には,流通過程の川上に位置する企業が川下に位置する企業の活動を取り込む場合と,川下に位置する企業が川上に位置する企業の活動を取り込む場合の2つの方向が存在する。6次産業化は,この2つの方向のうち,川上に位置する農林漁業者が川下に位置する加工業者や販売業者の活動を取り込む川上から川下への垂直統合とみなすことできる。

また,垂直統合には,他段階に位置する企業の活動を自ら行う「企業拡張」,他段階に位置する企業を買収することで,その活動を取り込む「企業合併」,他段階に位置する企業の独立性を維持したまま活動の統合を図る「企業連携」の3つの方法が存在する。6次産業化は,他段階に位置する企業からのサポートはあるものの,基本的には他段階に位置する企業活動を自ら行う「企業拡張」を目指している。なぜなら,2次産業や3次産業の活動を取り組むことで,農林水産物の付加価値を高め所得を増やすことが,6次産業化の目的だからである。

ところで,垂直統合のメリットは,単に活動領域の垂直的拡張による製品の付加価値向上だけではない。石田は,垂直統合のもたらすそれ以外のメリットとして,①技術的に補完的な生産工程の統合や取引費用の削減による効率性の追求,②市場支配力の強化,③市場未成熟期における統合的事業立ち上げの3つをあげている(Ishida, 2005)。また,婁は,6次産業化がもたらすメリットを連携の経済性と呼び,さまざまなアプローチからその効果を整理している(Lou, 2018)(表1参照)。

表1

連携の経済性をめぐるアプローチと効果

(出所)Lou (2018), p. 345.

しかし,垂直統合にはデメリットも存在する。前述した石田は,垂直統合にはメリットだけでなくデメリットも存在するといい,①効率化へのインセンティブの低下,②活動間の最適生産量の違いによる規模の経済性の低下,他の活動の排除による範囲の経済性の低下の経済性の低下の3つをデメリットとしてあげている(Ishida, 2005)。また,石田は,垂直統合の方法として企業合併によるそれを想定しているが,6次産業化の主要方法である企業拡張による垂直統合では,上述したデメリットの他に,①投資や固定費の増加,②未経験領域への参入による失敗確率の上昇,③活動領域の拡大・多様化による企業統治力の低下などの経営リスクの拡大も懸念される。

3. 6次産業化の分析視角

以上,6次産業化を流通過程における垂直統合と位置づけ,その特徴およびメリットおよびデメリットについて考察してきた。その結果,6次産業化は川上から川下への垂直統合をみなすことができ,その方法は,他段階に位置する企業の活動を自ら行う「企業拡張」であることを示した。また,垂直統合にはメリットとともにデメリットも存在し,6次産業化に期待している効果が得られない場合があることを明らかにした。

ところで,農林漁業の垂直統合は,6次産業化が初めてではない。その歴史は古く,1960年代には農業の垂直統合に関する議論を散見することができる。

たとえば,二見は,アメリカにおける垂直統合について調査し,第2次世界大戦後にアメリカ農業が慢性的な不況に陥り,その中で食品加工業による農業の垂直統合が進んだと言い,その特徴が①企業合併ではなく,企業連携すなわち契約に基づく垂直統合であること,②企業連携の程度は部門によって異なるが,概してその割合は高く,アメリカ農業における垂直統合がかなり進んでいること,③契約内容が,取引量や取引価格にとどまらず,農作物の生産や管理に関することまで含むことを明らかにしている(Futami, 196110)

日本も同様である。竹中は,1950年代後半頃から,日本においても野菜,果実,畜産物等の広い範囲で食品加工業者による農業の垂直統合が増加しているとし,その背景や地理的特性,垂直統合の形態について考察している(Takenaka, 196711)

そして,農業の垂直統合を試みるのは食品加工業だけではない。食品加工業と同様,小売業やレストランなどのサービス業も垂直統合を行っており,この傾向は,2003年の構造改革特区制度により,市町村が転貸する方式に限って一般企業の農業参入を認める仕組みを創設されて以降,さらに高まっている(Komai, 2002; Yuruka & Shimizu, 2015; Yuruka & Shimizu, 201612)

以上,日本の農林漁業では,川下から川上への垂直統合が古くから存在し発達してきた。その方法は,近年の法改正により直接参入が可能となり企業拡張型が増加したものの,その主流をなすのは,契約に基づく独立した組織間での垂直統合すなわち企業連携型の垂直統合である。そして,その主体は,大規模製造業や流通サービス業であり,大手資本による小規模零細農林漁業への影響力の行使という規模格差を利用した垂直統合だと言える。

一方,6次産業化のそれは,上述した垂直統合とは内容が異なる。第1に,垂直統合の方向が異なる。従来の垂直統合が川下から川上への垂直統合なのに対し,6次産業化は川上から川下への垂直統合である13)。第2に,垂直統合の方法も異なる。従来の垂直統合は,契約に基づく企業連携が主流なのに対し,6次産業化は活動の内部化すなわち企業拡張を主な方法としている。第3に,統合主体の性質も異なる。従来の垂直統合が大企業で競争力のある大手資本が主体となるのに対し,6次産業化は,経営資源が少なく競争力のない農林漁業者が主体となっている。

本来,垂直統合は,競争優位にある者が,その地位を利用して流通過程の他段階に位置する企業に影響力を行使したり,その活動を取り組むことで,自らの収益向上を目指す行為である。しかし,6次産業化はそうではない。競争劣位にある農林漁業者が,少ない経営資源にもかかわらず,川下の活動を自ら取り込もうとする。しかも,今日は構造的な供給過剰状態にあり,川下への企業拡張は,川上へのそれより難しい。

これは,従来の垂直統合よりも,6次産業化の方が経営が難しく,成功確率が低下する可能性があることを示唆している。ここに6次産業化が抱える課題がある。すなわち,経営資源が乏しく競争劣位にある農林漁業者が,どうしたら6次産業化の成功確率を高めることができるか明らかにする必要があるのである。

III. 分析

1. 分析の概要

(1) 分析対象データの選定

前章で,6次産業化は,競争劣位にある農林漁業者が少ない経営資源で川下への企業拡張を行うことから,垂直統合の成功確率が低下することが予想され,それをいかに高めるかが大きな課題となることを示した。

しかし,冒頭で述べた通り,6次産業化の研究は始まったばかりで,政策の解説や事例の紹介にとどまり,定量的分析による成功要因の構造的把握はほとんどなされていない14)。そこで,本稿では,「6次産業化の取組事例集」という2次データを利用して,6次産業化の成果向上メカニズムに対する探索的な分析を試みる。

分析において2次データを用いる理由は,以下の通りである。第1に,すでに存在するデータを使用するため,調査のために新たなコストが発生しないことがあげられる。第2に,誰が6次産業化を行っているか把握するのが難しいこともその理由のひとつにあげられる。確かに,6次産業化法において総合化事業計画に認定されているものを調査対象とするという手もあるだろう。しかし,認定された事業は現在進行形のものが多く,成果を確定するには時期尚早なものも多く含まれている。そして,第3の理由として,事例研究の有効利用があげられる。この種の研究では,多くの事例が紹介されるものの,単独事例の分析にとどまり,一般化可能な知識の創出には至っていない。しかし,複数の事例を用いて定量的に分析することで,一般化可能な構造的要因を抽出することができる。

もちろん,2次データを用いる問題も存在する。最大の問題は,自らの仮説を検証するために必要なデータを収集できないことである。また,2次データの定量化が,事例研究というテキストデータのコーディングに基づくため,事例作成者の実態の解釈とコーディングにおけるテキストの解釈という2重のバイアスが生じる可能性があることも問題のひとつにあげられる。

このように,2次データの利用には,メリットとデメリットの両方が存在するが,研究の初期段階の探索的分析においては意義ある結果が得られる可能性が高いと考え,本稿では「6次産業化の取組事例集」という2次データを定量化し,6次産業化の成果規定因に関する分析を行った。

ちなみに,今回の分析で使用する2次データは,農林水産省総合食料局が2011年4月に公表した「6次産業化の取組事例集[100事例]」である(図5参照)。本稿がこの事例中を分析対象とするのは,①ひとつの事例集に6次産業化に成功した事例が100件掲載されており,定量的分析が可能なこと,②取組の効果や6次産業化の取組内容,成功のポイントなどが共通したフォーマットで簡潔に記述されており,成果とその規定要因を構造的に分析することが可能なこと,③本事例集は6次産業化法の成立時に作成されたものであり,6次産業化法が目指す姿が示されているとともに,その後の6次産業化事例を分析する際の比較基準になると考えたからである。

図5

取組事例の一例

(出所)Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries, General Food Bureau (2011)

(2) データの抽出

選択した事例集を分析するに当たり,次に必要となるのが6次産業化の成果とその規定因に関するデータの抽出である。事例集には,6次産業化の成果が「取組の成果」として記載されているが,何を成果とするかは事例によって異なり,「売上額の増加」「生産量の増加」「雇用者の増加」「知名度の増加」「他者からの評価の向上」「経営の安定」「地域貢献」などが成果指標としてあげられている。本稿では,これらの成果指標の中から,①定量化可能かどうか,②事例間の比較が可能かどうか,③データ収集可能な事例が多いか,といった視点から変数の絞り込みを行った。その結果,100事例中84事例で定量化可能な「年平均売上増加率」を6次産業化の成果変数として採用することにした15)

次に,成果の規定因として,まず注目したのが6次産業化の取組内容である。事例集には,6次産業化の取組内容が「加工」「直売」「レストラン」「契約取引」「研究開発」「輸出」「農家民泊」「成果利用」「産地リレー」「ネット販売」の10分類で記されている(複数記載有り)。しかし,表2に示す通り,「加工」「直販」「レストラン」以外の取組内容は事例が少なかったため,本稿では,「加工」「直販」「レストラン」の3つをダミー変数化し,成果に影響を与える規定因とした。

表2

分析対象事例の6次産業化取組内容

* 複数回答のため合計値がサンプル数より多くなっている。

また,事例集には,「成功のポイント」として,成功に寄与したと思われることが箇条書きで記載されている。そこで,本稿では,表3のコード表に基づき,「成功のポイント」を14項目に類型化し,成果の規定因とした。そのコーディング法は,まず筆者が文書ごとに14項目のどれに当てはまるか判断し,各項目に当てはまるか否かを1かゼロかで表記した。また,ひとつの文書が複数の項目に当てはまると思う場合は,該当する項目すべてを1とした。そして,「成功のポイント」に複数の文書が記載されている場合は,文章ごとに点数化し,項目ごとの合計点をそのサンプルの点数とした16)。なお,筆者が行ったコーディングの妥当性を第三者2名に個別に判断してもらい,その結果を受けてコーディングを修正することで,一定の客観性を確保した。

表3

成功のポイントのコード表

(出所)筆者作成

2. 分析対象事例の特性

(1) 組織形態

分析対象事例の組織形態は,有限会社が30事例で最も多く,株式会社が20事例で次に多かった(表4参照)。なお,農業生産法人には有限会社のものと株式会社のものが存在するため,組織形態の総数はサンプル数の84を上回っている。

表4

分析対象事例の組織形態

* 重複回答が存在するため合計が100%にならず。

また,取組形態が法人かそれ以外かという視点から分析対象事例をみると,84のうち66が法人格を有しているとみなすことができる17)。ちなみに,2017年度の「6次産業化・地産地消法に基づく認定事業者に対するフォローアップ調査」をみると,総合化事業計画の認定者の75%が法人格を有しており,分析対象事例のそれに近いと言える18)

(2) 地理的分布

分析対象事例の地理的分布をみると,「中部」が最も多く23%を占め,「近畿」と「九州・沖縄」が19%で2番目に多くなっている(表5参照)。ちなみに,2019年2月28日時点での総合化事業計画認定者の地理的分布は,「北海道・東北」が21%で最も多く,次いで「九州・沖縄」(20%),「関東」(17%)の順になっており,両者の間に違いがみられる。

表5

分析対象事例の地方区分別分布

(3) 取組内容

分析対象事例の内容として取り上げられた「加工」「直販」「レストラン」の3つの関係をみると,「加工」と「直販」の両方に取り組んでいるものが最も多く,全体の52%を占めている。ちなみに,2019年2月28日時点での総合化事業計画認定者でも「加工」と「直販」の両方を行っている者が最も多く,全体の69%を占める。

また,分析対象事例では,「加工」と「直販」の両方を行っている者に次いで,「加工」「直販」「レストラン」の3つに取り組んでいる者が多かったが(20事例で全体の24%),上述した総合化事業計画認定者で次に多かったのは「加工」のみ(19%)で,「加工」「直販」「レストラン」の3つに取り組んでいる者は3番目(7%)だった。

(4) 成功のポイント

6は,14項目にコーディングした「成功のポイント」の単純集計である。「加工品向上(加工品の開発および改良)」(16%)が最も多く,次いで「販売力向上(販路の開拓および拡大)」(12%),「経営改善(経営体質の強化および人材の有効活用)」(10%)の順になっている。

表6

成功のポイントの単純集計

(5) 年平均売上増加率

7は,分析対象事例の年平均売上増加率の分布を示したものである。本事例集は成功事例を収集しており,売上が減少した事例は存在しないものの,年平均売上増加率が0.0%~0.5%未満のものが最も多く,全体の65%を占めている。次に多いのが,0.5%~1.0%未満と1.0%~2.0%未満で,売上増加率の低い方に固まっていることがわかる。前述した総合化事業計画では,5年間で5%の売上増を達成することが認定要件のひとつになっているが,分析対象事例をみると,これが結構高いハードルであることがわかる。

表7

分析対象事例の年平均売上増加率の分布

3. 分析

(1) 取組内容の「加工」と「直販」が成果に及ぼす影響

本稿は,6次産業化の成果規定因に関する探索的な構造把握を目的としていることから,規定要因をいくつかのタイプに分け,成果変数である年平均売上増加率との関係を重回帰分析により考察した。

そのひとつが,6次産業化において取組が多い「加工」と「直販」の分析である。そこで,本稿では,年平均売上増加率を従属変数とし,「加工」と「直販」,そして「加工×直販(加工と直販の両方に取り組んでいる事例)」の3つのダミー変数を説明変数とする重回帰分析を行った19)

分析の結果,「加工」「直販」「加工×直販」の3変数とも統計的に有意で,VIF統計量も10未満となっており多重共線性もみられなかった(表8参照)。説明変数の標準化係数は,「加工」(-0.542)と「直販」(-0.617)が負で,「加工×直販」(0.674)が正となっており,「加工」あるいは「直売」のみ行う場合は売上増加率が低く,「加工×直販」すなわち加工と直販の両方を行う場合は売上増加率が高まることが示された。

表8

「加工」「直販」が年平均売上増加率に与える影響

注)F値の( )内の数値は有意確率

(2) 取組内容の「加工」「レストラン」が成果に及ぼす影響

次に,6次産業化のもうひとつの取組内容である「レストラン」について分析を行った。分析方法は,「直売」の場合と同様,「加工」と組み合わせ,「加工」「レストラン」および「加工×レストラン(加工とレストランの両方に取り組んでいる事例)」の3つのダミー変数を説明変数とし,年平均売上増加率を充足変数とする重回帰分析である。

分析の結果,「レストラン」は5%水準,「加工×レストラン」は10%水準で統計的に有意だったものの,「加工」は有意にならなかった(VIF統計量は10以下で多重共線性は存在せず)(表9参照)。そして,統計的に有意だった説明変数の標準化係数は,「レストラン」(0.445)が正で,「加工×レストラン」(-0.398)は負の値を示した。

表9

「加工」「レストラン」が年平均売上増加率に与える影響

注)F値の( )内の数値は有意確率

(3) 成功のポイントが成果に及ぼす影響

最後に,6次産業化の成果規定因として,取組内容とともに他に取り上げた「成功のポイント」について分析した。なお,成功のポイントは14項目にコード化されており,変数の数が多いことから,これら14項目を説明変数とする階層的重回帰分析(ステップワイズ法)を行った20)

分析の結果,「成功のポイント」の14項目のうち,「地域へのこだわり(事業における地域へのこだわりや地域性の強調)」(0.273)と「地域貢献(地域貢献活動の重視)」(0.298)の2変数が,年平均売上増加率に影響を与える要因として抽出された(表10参照)。

表10

成功のポイントを説明変数とする段階的重回帰分析(ステップワイズ法)

注)F値の( )内の数値は有意確率

4. ディスカッション

以上,年平均売上増加率を6次産業化の成果変数とし,その規定因となる説明変数を①取組内容の「加工」と「直販」,②取組内容の「加工」と「レストラン」,③「成功のポイント」の3つに分けて回帰分析を行った。なお,今回の分析対象事例集は,成功事例を集めたものであり,失敗事例すなわち売上増加率がマイナスのものは存在しない。したがって,説明変数の標準化係数の正負は,売上増加率の高低すなわち正の場合は売上増加率が高く,負の場合は売上増加率が低くなることを示している。

以上の点を踏まえ,取組内容の「加工」と「直販」が成果に与える影響をみると,「加工」と「直販」のどちらか一方を行う場合は売上増加率が低く,「加工」と「直販」の両方を行う場合は売上増加率が高まることが示された。

その理由を分析対象事例から少し探ってみよう。たとえば,「加工」と「直販」の両方を行って売上をあげた事例として「農事組合法人りぞねっと(山形県真室川町)」をあげることができる。りぞねっとは,2006年から6次産業化として発芽玄米を使用した米粉の製麺と販売に取り組んでおり,生産から加工,そして販売までを一貫して行うことで,顧客ニーズに合わせた商品展開を可能にしている。また,自社ブランドに加えてOEM生産を受託することで販路を確保し,売上を大きく伸ばしている。りぞねっとの事例は,農林業業者が「加工」と「直売」の両方を自ら行って初めて実現できるものであり,6次産業化が文字通りの効力を発揮した例だと言えよう。

しかし,取組内容が「加工」と「レストラン」の場合は,少し様相が異なる。「レストラン」のみ行う方が売上増加率が高くなり,「加工」と「レストラン」の両方を行う場合は売上増加率が低くなるのである。

分析対象事例の中で,「レストラン」のみ取り組んだ例として「大磯漁業協同組合(神奈川県大磯町)」がある。大磯漁業協同組合は,2010年に大礒漁港内に食堂を開設し,その日に水揚げされた地魚を提供している。漁協が始めた食堂ということで評判となり顧客が集まるとともに,その顧客が漁港内で行われた朝市に流れたことで鮮魚の売上も大幅に増加した。

一方,「加工」と「レストラン」の両方に取り組んでいる「有限会社カワタキ(愛媛県西条市)」は,2000年に,自分が育てた豚でハムやソーセージを作る加工所を作るとともに,豚肉料理や加工したハム・ソーセージを提供するレストランを開業した。しかし,売上はそれほど大きく伸びていない。その理由のひとつに,加工所の製造能力に見合った販売量が確保できていないことがあげられる。カワタキは,加工所でハムやソーセージの小売も行っているが,その量は決して十分ではなく,加工品の販路拡大が大きな課題だという21)

以上の2つの事例は,農林漁業者が自らの生産活動を補完するかたちで「レストラン」を行うのは効果的だが,「加工」と「レストラン」の両方を行う場合は,その最適生産規模が異なる可能性があり,相乗効果が発揮できない場合があることを示唆している。特に,6次産業化のような企業拡張型の垂直統合において,部門間の最適生産規模の相違は,全体の生産性を低下させるだけでなく,他部門の活動を互いに抑制する可能性がある。これが「加工」と「レストラン」の両方を行う場合に売上増加率が低下する理由のひとつだと言える。

そして,「成功のポイント」に関する分析結果も興味深い。と言うのも,表6に示されている通り,成功のポイントとしてあげられた項目には,「加工品向上」や「販売力向上」など6次産業化に直接かかわる項目が多かったのに対し,売上増加率の高低に影響を及ぼすのは,これらの項目ではなく,地域とのかかわりの強さを示す「地域へのこだわり」や「地域貢献」だったからである。

ここに,6次産業化すなわち競争劣位にある農林漁業者が垂直統合を成功させるヒントがある。農林漁業者が垂直統合において競争劣位にあるのは,規模の小ささすなわち経営資源の少なさにある。地域性はその弱みを強みに変える。と言うのも,地域に根ざした製品やサービスの価値として「希少性」があり,地域とのかかわりを深めることで,規模の小ささを希少性に変換することができるからである(Kobayashi, 2016)。その意味で,今回,地域とのかかわりが6次産業化の成果に影響することを明らかにできたことは,大きな成果だと言えよう。

IV. 結びにかえて

本稿は,農林漁業再生策として注目されている6次産業化の成果規定因を構造的に把握するため,取組事例集という2次データを利用して定量的分析を試みた。そして,分析の結果,6次産業化の取組内容のタイプによって成果に及ぼす影響が異なることや,競争劣位にある農林漁業が6次産業化を上手く行うには,地域とのかかわりを深めることが有効であることを明らかにした。

その中でも,後者の地域とのかかわりが6次産業化の成果に与える影響は,垂直統合のひとつのタイプという従来の6次産業化の位置づけからはなかなか議論できないことであり,その重要性を明らかにした意義は大きい。また,本稿において,6次産業化法が単なる川上から川下への垂直統合だけではなく,地域資源を活用してそれを行うことを期待していることを示したが,上述した分析結果はそれを肯定するものであり,6次産業化法の根拠を示したという点も評価できると言えよう。

しかし,本稿の分析は,2次データを利用した探索的研究であるが故に,多くの課題が存在するのも事実である。そのひとつがサンプル数の少なさである。今回の分析対象事例の中には,「売上の増加」だけでなく「客数の増加」や「雇用者の増加」など定量化かつ比較可能な成果指標が他にも存在したが,サンプル数が少なかったため分析することができなかった。また,2次データであるが故に詳細かつ厳密な変数規定ができず,単純な分析にとどまったことも課題のひとつにあげられる。さらに,分析対象事例が豊富な情報を有しているにもかかわらず,今回抽出した情報はごくわずかであり,コーディング方法においてもまたまだ改善の余地が残されている。

とは言うものの,総合化事業計画が認定の要件とする売上増加に与える影響を,一部ではあるもの定量的方法によって明らかにできたことは,事例集の新たな活用方法を示すものであり,今後さらなる研究の進展が望まれる。

1)  本文の6次産業化の定義は,『食料・農業・農村白書(平成21年度)』の用語説明に基づく(Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries, 2010, p. 380)。なお,白書の用語説明の中に6次産業化という言葉が登場するのは,この年度からである。

2)  この基本方針・行動計画に掲げられた戦略は,6次産業化を含め7つある。その概要は,以下の通り。①持続可能な力強い農業の実現,②6次産業化,成長産業化,流通効率化の促進,③エネルギー生産への農山漁村資源の活用,④木材自給率の向上による森林・林業の賛成,⑤近代的・資源管理型の魅力的な水産業の構築,⑥震災に強い農林水産インフラの構築,⑦原子力災害への正面からの取組。(Headquarters for the Revitalization of Food, Agriculture, Forestry, and Fisheries, 2011

3)  以下,地域資源や新たな付加価値を生み出す取組,6次産業化の形態に関しては,Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries(2011)を参照のこと。

4)  これは,「中小企業者と農林漁業者との連携による事業活動の促進に関する法律(農商工等連携推進法)」に基づき展開される農商工連携,すなわち中小企業者と農林漁業者とが有機的に連携し,それぞれの経営資源を有効に活用して行う新商品の開発,新サービスの提供,生産・需要の開拓も,6次産業化の一部とみなしていることを示している。

5)  農林漁業者の若手従事者比率の計算は,図2と同じ総務省の「労働力調査」のデータに基づいている。

6)  以上のことから,事業計画の認定数も総合化事業計画の方が圧倒的に多く,2019年2月現在の累積認定件数をみると,総合化事業計画が2,438件なのに対し,研究開発・成果利用事業計画は24件となっている。

7)  以下,総合化事業計画の認定要件および認定された際の支援内容に関しては,Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries(2011)等を参考にしている。

8)  事業期間は短すぎても駄目で,3年~5年が望ましいとされている。

9)  この点においては非常に興味深い指摘がある。西村は,6次産業化法は,政府から提出された「農林漁業者等による農林漁業の六次産業化の促進に関する法律案(第174回国会閣法第50号)」を原案として,同じく第174回国会に自由民主党から提出された「国産の農林水産物の消費を拡大する地産地消等の促進に関する法律案(第174回国会衆第21号)」の規定を盛り込んで,6次産業化法すなわち「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」に名称変更されており,その意味で,地域資源を活用したという部分は単なる飾り言葉ではないと言える(Nishimura, 2012)。

10)  なお,根岸も,二見とほぼ同じ時期に,アメリカの農業における垂直統合を分析し,そのメリットとデメリットや課題について考察している(Negishi, 1963)。

11)  実は,日本において,食品加工業による農業の垂直統合は戦前から存在する。しかし,その対象は,生糸やタバコ,ビールの原材料となる麦やホップなど特定産物に限られており,垂直統合が広範囲にわたる農畜産物にみられるようになったのは,1950年代後半以降だと言う。

12)  その後,2005年の農業経営基盤強化促進法の改正により,構造改革特区制度の仕組みを全国展開するとともに,2009年の農地法改正により,一定の要件を満たせば市町村を介すことなく借入が可能となり,一般企業の農業参入を促す制度が徐々にではあるが整備されている(Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries, 2009)。

13)  室屋は,農林漁業における従来の垂直統合を「川下主導のフードシステム」,6次産業化法が目指す垂直統合を川上から川下へ向かう「地域主体のフードシステム」と呼び,従来のフードシステムに対する対抗とみなしている(Muroya, 2011)。

14)  たとえば,6次産業化という言葉は直接使用していないものの,その構築過程およびそれが地域活性化に及ぼす影響を実証的に分析したものとしてYori(1998)などがかげられるが,その分析は詳細なものの2つの事例に基づく考察であり,必ずしも一般化可能な示唆をもたらすものとなっていない。

15)  ちなみに,成果指標の中で定量化可能なのは「売上額の増加」「生産量の増加」「客数の増加」「雇用者数の増加」の4つ。その中で「生産量の増加」は事例によって生産物の内容が異なるため比較不可能であり,残り3つの中でデータ収集可能な事例が多かったのが「売上額の増加」である。さらに,「売上額の増加」は,金額と比率の両方で表記することが可能だが,比率のみ記載している事例があったので,事例数の多い販売の増加率を採用した。なお,事例によって増加率を示す期間が異なるため,最終的に「年平均売上増加率」を成果変数とした。

16)  成功のポイントを示す文書の補足説明がある場合は,その補足説明も含めてひとつの文書とみなした。

17)  組織形態の「その他」以外は,すべて法人格を有する。また,その他に含まれる19の取組主体のうち1つは,組織形態の異なる複数の法人が主体となっており,それを除く18事例の主体は個人もしくは任意団体とみなすことができる。

18)  これ以降の2019年2月28日時点の総合化事業計画認定者の状況に関する記述は,(Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries, 2018b)に基づいている。

19)  本稿の分析で使用した統計解析ソフトは,IBM® SPSS® Statistics Vartion.20である。

20)  ステップワイズ法の投入基準は,F値確率5%未満である。

21)  ここで説明している状況は,あくまで事例作成時のものである。なお,本文で説明した通り,カワタキは,加工所で販売も行っており,厳密には「加工」と「レストラン」の他に「直売」にも取り組んだ事例と言える。しかし,カワタキの場合,少なくても事例作成時までは,「直販」にそれほど力を入れておらず,ハムやソーセージの加工とレストランの運営が主と考えられるため,「加工」と「レストラン」を主とする事例として取り上げた。なお,カワタキに限らず,分析対象事例集や総合化事業計画認定者でも「加工」と「レストラン」に取り組んでいる者は同時に「直販」を行っている場合が多い。

小林 哲(こばやし てつ)

大阪市立大学経営学研究科教授。1984年明治学院大学経済学部卒業,慶応義塾大学大学院商学研究科修士課程修了,同大学院同研究科博士課程単位取得退学。大阪市立大学商学部助手,助教授,准教授を経て2018年より現職。博士(商学)。

References
 
© 2019 The Author(s).
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