現代語では,言語(漢音ゲン+呉音ゴ)のように,呉音と漢音を混ぜ読み(以下「混読」と呼ぶ)する漢語は多くあるが,中世以前にはほとんどなく,後出の形とされている.しかし,特定の時代における混読の実態や,その通時的変遷については詳らかでない部分が多い.本稿では,呉音・漢音の音形が明らかに対立する漢字同士で構成される熟語を分母とした時の,呉音ないし漢音同士で読まれる漢語に対する,混読される漢語の割合を,「混読率」と定義し,中世の両端に位置する辞書資料における混読率を求めた.その結果『色葉字類抄』の混読率は約15%,『日葡辞書』の混読率は約24%と求まり,中世において混読現象が拡大していることが明らかとなった.中世に混読が増加した背景については,二資料に共通する漢語の語形を比較した結果から,特定の漢字に呉音・漢音どちらか一方が固定化する「漢字音の一元化」の影響が大きいことを論じた.