計量国語学
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2024年度テーマ特集「特定の場面の計量的研究」
巻頭言
特集・招待論文A
  • 小林 雄一郎, 岡﨑 友子
    原稿種別: 特集・招待論文 A
    2025 年35 巻3 号 p. 38-53
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/20
    ジャーナル オープンアクセス

     本研究の目的は,日常的な言語使用から専門的な場面までの多様なレジスターを対象として,接続詞が連続するパターンのレジスター分析を行うことである.分析コーパスには現代日本語書き言葉均衡コーパス,日本語日常会話コーパス,日本語話し言葉コーパス,昭和・平成書き言葉コーパス,昭和話し言葉コーパスを用いた.そして,対応分析,階層型クラスター分析,ランダムフォレストなどの統計手法で,コーパスごと,レジスターごとに接続詞の連続パターンを比較した.その結果,書き言葉と話し言葉による使用頻度の大きな違い,さらに,話し言葉における対話と独話による頻度パターンの違いが見られた.

  • M-1グランプリにおける高評価パターンの抽出
    河瀬 彰宏
    原稿種別: 特集・招待論文 A
    2025 年35 巻3 号 p. 54-69
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/20
    ジャーナル オープンアクセス

     本研究は,観客から高く評価される漫才の構成を明らかにするために,M-1グランプリ2015-2019年大会の計50演目を対象に,台本を機能単位に分割し,その並びの頻度について演目ごとの長さの違いを補正して比較した.分析の結果,高評価の演目では,ボケ直後をツッコミで素早く回収する構成が多く,低評価では,話題の引き延ばし,ボケの継ぎ足し・反復が多かった.同一機能の連続出現の影響を除いて再分析をしたところ,これらの傾向は維持され,短い周期でツッコミを挟む運びが高評価に資することがわかった.

  • J-TOCCを用いたコレスポンデンス分析
    麻 子軒
    原稿種別: 特集・招待論文 A
    2025 年35 巻3 号 p. 70-85
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/20
    ジャーナル オープンアクセス

     『日本語話題別会話コーパス:J-TOCC』に収録された15話題を対象に,品詞構成と語種構成という古典的な文体の計量指標を「話題」という場面に適用し,コレスポンデンス分析を通じて相互の対応関係を検討した.その結果,「03旅行」「07学校」など経験を語る話題では具体的な時空を出発点として話が展開される傾向があるため,名詞が多用されている一方,「12夢・将来設計」「13マナー」のような社会的・抽象的な話題では,行為という観点から話が進むため,動詞が話題の中心になりやすいことが分かった.さらに,「10動物」「01食べること」といった主観的な印象に基づく話題では形容詞系を起点として談話が展開されることが観察された.語種の観点でも,新しい概念や海外起源の要素が多い「08スマートフォン」「04スポーツ」では外来語,社会的・抽象的な「12夢・将来設計」「15日本の未来」では漢語,日常生活に基づく「10動物」「13マナー」では和語が相対的に優勢となるプロットが得られた.

  • 小磯 花絵
    原稿種別: 特集・招待論文 A
    2025 年35 巻3 号 p. 86-101
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/20
    ジャーナル オープンアクセス

     本稿では,『日本語日常会話コーパス』を用い,原因・理由を表す「から」と「ので」の選択に関わる要因を検討した.分析の結果,雑談から会議・会合へと場面の改まり度が高くなるにつれて「ので」の使用率が増加すること,また丁寧体の使用率が高い会話ほど「ので」が選ばれやすいことが明らかになった.さらに,家族との会話では「から」が圧倒的に優勢である一方,同僚や仕事関係者,客など,対人配慮が求められる相手に対しては「ので」の使用が増加する傾向が確認された.以上の結果は,「から」と「ので」の選択が,場面の改まり度や話者間の関係性といった社会的・状況的要因に関わるものであり,対人配慮が求められる場面や相手ほど「ので」が選好されることを示すものである.

  • 外国人保護者の理解を妨げる要因
    李 暁燕
    原稿種別: 特集・招待論文 A
    2025 年35 巻3 号 p. 102-114
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/20
    ジャーナル オープンアクセス

     本研究は,日本の小学校で配布される学校プリントが外国人保護者の理解を妨げる要因の解明を目的とした.810件のプリントを対象に,カテゴリ別語彙,依頼表現,共起ネットワークを分析した.その結果,第一に「生活習慣」「行事」「金銭」「学用品」といった語彙カテゴリは,時間厳守,行事参加,金銭負担,持ち物準備といった暗黙の規範を反映していた.第二に,「ください」「お願いします」といった依頼表現が頻出し,保護者に対する協力要請が繰り返し行われていることが示された.さらに共起分析からは,「学校」「時間」などを中心とする語彙群が,学校文化の基盤的構造を形成していることが示唆された.これらの知見は,学校プリントに潜む「見えないルール」が教育的包摂を阻む要因となることを示し,文化的背景を補足するAI支援の有効性を示唆する.

特集・論文A
  • 東京都小中高校歌の計量的分析
    井関 龍太
    原稿種別: 特集・論文 A
    2025 年35 巻3 号 p. 115-130
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/20
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録

     文章の文体特徴を品詞構成の観点から捉える指標としてMVRがあるが,MVRと具体的な文体特徴の対応関係に関する実証的・理論的検討は十分であるとは言えない.本研究では,校歌の歌詞という変異の幅が比較的限られた文章を対象として,品詞構成と文体特徴との対応関係を探索的に検討した.東京都の小中高の学校の校歌を分析したところ,MVRは小学校で中学・高校よりも高いことが確認された.ただし,その違いはM率のわずかな差によるものであった.具体的な文章の違いを検討したところ,N率の高い歌詞は倒置法や体言止めを多用した詩文的な形式をとる傾向が強く,V率が高い歌詞は述語で区切る物語的な形式をとる傾向があることがうかがわれた.M率はこれらのパターンを乱すような働きをしており,いずれかの表現形式への傾きを和らげているようであった.これらのことから,校歌の歌詞という文脈において品詞構成の違いがどのような表現の実現形態と結びつくのかを論じた.

特集・招待論文B
  • 『子ども版日本語日常会話コーパス』に基づく量的・質的検討
    居關 友里子
    原稿種別: 特集・招待論文 B
    2025 年35 巻3 号 p. 131-143
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/20
    ジャーナル オープンアクセス

     本研究は,国立国語研究所が構築を進めている『子ども版日本語日常会話コーパス(CEJC-Child)』を用い,子どもの日常会話における丁寧体使用を量的・質的に検討したものである.CEJC-Childモニター版に収録された調査対象児10名による,約50時間分の会話データから述語が動詞・形容詞である発話を抽出し,普通体・丁寧体の区別を行い丁寧体使用率を算出した.その結果,丁寧体は2歳から2歳半頃以降に安定して観察された一方で,丁寧体使用率が月齢に比例して上昇する傾向は見られず,むしろ収録場面の特徴に大きく左右されることが示唆された.そこで,丁寧体使用率の高い会話を中心に場面に着目して質的分析を行ったところ,複数の調査対象児に共通するものとして,丁寧体が,普段の自分とは異なる者として発話していることを表示する場面や,情報を確固たるものとして相手に提示する場面で使用されていることが確認された.

  • 機能分類を元にした分析
    立部 文崇, 藤田 裕一郎
    原稿種別: 特集・招待論文 B
    2025 年35 巻3 号 p. 144-159
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/20
    ジャーナル オープンアクセス

     本研究は,初級日本語授業における教師発話の機能と構造に注目し,IRF構造(導入・応答・フィードバック)と主分類(教室運営/指導内容)の観点から,2432発話を定量・質的に分析したものである.質問形式やフィードバックの焦点に合わせて,教師発話は状況に応じて柔軟に調整されており,言語支援と関係調整の両面で重要な役割を果たしていた.教師の即興的対応や相互行為の調整を可視化することにより,日本語教育における授業談話研究の深化と,教師養成・研修への応用可能性を示唆する.

特集・論文B
  • 分析項目の提案と実践
    新井 庭子
    原稿種別: 特集・論文 B
    2025 年35 巻3 号 p. 160-175
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/12/20
    ジャーナル オープンアクセス

     本論文は,学校教育という特定場面の言語表現において,知識基盤を伝える上で中核的な役割を担う教科書を分析対象とし,概念についての説明を計量するための尺度を導入するとともに,その尺度で学年進行に伴う変化を可視化する.具体的な分析対象として小学5年生から中学2年生までの理科教科書を選び,分析項目として索引語数(異なり用語数),定義表現の数,分類表現の数を採用・導入して分析した結果,索引語数は学年とともに段階的に増加することがわかった.小学校では中学校に比べ,1つの用語あたりに費やされる文数・語数が多いことが明らかになった.また,小学校は中学校に比べ,定義される用語の平均的な割合が明確に低いことが示された.概念に関する明示的な説明である定義表現と分類表現の数は,小学6年生から中学1年生にかけて約4倍に増加する結果となった.

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