近年,日本の医学・医療系教育において,学生が地域の暮らしの現場に出向いて行う体験型の学習が広く取り入れられるようになっている.本稿では,地域における体験型実習に,文化人類学のフィールドワークの視点と方法論がどのように応用可能であり,どのような効果を生むのかということについて,ある医科大学における事例をもとに論じる.フィールドワークをとおした学びの意味は,現場で体験したことを,感覚的経験として身体に記憶させることである.そして,その身体感覚を自分がもっている理解の枠組みにあてはめて説明するのではなく,その後の振り返りのプロセスにおいて新しい発見につなげていくことである.