人間・環境学会誌
Online ISSN : 2432-0366
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特別養護老人ホームの共用空間における寄道発生 : 環境改善を事例として
加藤 悠介森 一彦足立 啓
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2007 年 10 巻 1 号 p. 41-48

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抄録
既存の特別養護老人ホームの共用空間で、高齢者個人の判断で寄道できるように、テーブルとソファなどの立ち寄り場所を増やした環境改善の有効性を検証した。具体的には寄道発生率(1日の場所移動のうち寄道する割合)について立ち寄り場所や身体障害度と認知障害度から分析した。調査方法は、改善前後にそれぞれ1日ずつ7時から19時までの合計12時間、17名(改善前14サンプル、改善後12サンプル)の高齢者を対象に行動観察調査を行った。得られた結果は次のとおりである。1)重回帰分析の結果、ソファへの立ち寄り回数が多い高齢者は寄道発生率が高い傾向がある。トイレへの動線上やテーブル近くの高齢者が見つけやすく、独力またはスタッフの手助けが少しあれば移動できる範囲内にあるためである。2)重回帰分析の結果、トイレへの立ち寄り回数が多い高齢者は寄道発生率が低い傾向がある。トイレへの立ち寄りは往復になりやすいためである。3)重回帰分析の結果、身体障害度の重い高齢者は寄道発生率が低い傾向がある。身体障害度が重くなると、車いすでの移動となり、途中に場所があっても自分から移乗できないためである。4)認知障害度の寄道発生率への有意な影響はみられなかった。認知障害度が重くなっても、動線上の見えるところに場所があれば自分の判断で寄道できると言える。以上のことから、立ち寄り場所のなかでもソファを増やすことで、身体障害度の軽い高齢者を中心に寄道の機会が増加したと言える。
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© 2007 人間・環境学会
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