抄録
日々のストレスなどから心理的・身体的に回復する場として、自然環境のもたらす回復効果に対する社会的な期待が高まっている。本稿では、その自然環境のうち、ここ10年ほどで急速に解明が進んだ森林環境のもたらす回復効果に着目し、主に国内で行われた研究事例について紹介する。これまで、心理的な回復効果については、主に、POMSやSTAIなどの臨床領域で使われる調査票が多く使われていたが、近年になり、PRSなどの環境心理学領域で開発された調査票が使われるようになった。また、身体的な回復効果については、収縮期血圧、拡張期血圧、脈拍数、心拍変動性HF成分(副交感神経系活動指標)、LF/HF成分(交感神経系活動指標)、唾液中コルチゾール濃度)、NK活性などを指標として、森林環境が短期的・長期的滞在のどちらにおいても、身体的な回復効果をもたらすとするエビデンスが蓄積している。それらの研究の系譜を紹介するとともに、近年、回復効果の個人差に着目した観点から、性格などの個々人を特徴づける個人的資源(個人特性)の差異が、森林環境における心理的な回復効果に違いをもたらすことが指摘されていること、また、実際に、個人特性と森林環境の心理的な回復効果の関係を解明しようと試みた近年の研究成果についても紹介する。