抄録
コミュニティあるいは地域社会は豊富なヒューマン・コンタクトの土壌の上に形成されるが、構築環境がヒューマン・コンタクトとどのような関係にあるかについてはじゅうぶんな解明がなされていない。本論では日本の大都市東京の中で戦前から住みこなされた居住地域、汐入を調査対象としてとりあげ、路上でどのようなヒューマン・コンタクトが見られるかを観察調査し、かつB.Hillierらがスペース・シンタクス理論の中で用いる手法を参照しながらこれを計量的に分析する。分析の結果、汐入では外部からの通過交通がほとんどないにもかかわらず、比較的多くのヒューマン・コンタクトが路上に存在し、またその内容には移動中の出会いばかりではなく、定点で行われる多くの活動との出会いがあることがわかった。また、建物に付随した活動を除く路上での行動との遭遇は、道をネットワークとして捉えたときのネットワーク中心に近づくにつれて多く期待できることがわかった。しかし、遭遇値とネットワーク上の統合度の相関は高くはあるが、B.Hillierがロンドンの都市居住域で報告した極めて高い値に届かないのは戦前日本の地主開発型住宅地に特徴として見られる道路幅の不連続が影響しているのではないかと思われる。