中東レビュー
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論稿
湾岸地域でのアメリカ軍の縮小とイラン戦力の拡充 ―サウジアラビアの安全保障をめぐって―
福田 安志
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2020 年 7 巻 p. 98-114

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Translated Abstract

From the beginning of the Trump administration, the U.S. military presence in Gulf Cooperation Council (GCC) countries has rapidly evolved. Specifically, the number of U.S. Air Force soldiers stationed in Qatar, United Arab Emirates, and Kuwait has been significantly reduced. This may be a result of President Trump’s preference to minimize the level of U.S. troops deployed in the region. Conversely, the United States has maintained its naval presence in the gulf, including an aircraft carrier strike group and naval troops in Bahrain. In the same period, Iran has remarkably expanded its military capabilities after developing sophisticated new missile systems, drones, and submarines. Combined with recent hostile events in the gulf, this situation has heightened concerns about gulf security, in particular, to ensure the safe passage of crude oil destined for all parts of the world. Current tension may lead to an escalated presence of U.S. forces in the region.

1. はじめに

トランプ大統領の時代になって湾岸地域ではアメリカの空軍戦力が劇的に縮小するなど、アメリカの軍事的プレゼンスが大きく縮小した。2018年12月には、トランプ大統領は、シリアに駐留しているアメリカ軍を撤収させアフガニスタンの駐留軍をほぼ半減させる考えを示したことがあった1。アメリカ軍のプレゼンスが実際に縮小したことと、トランプ大統領が縮小志向を持っていることが示しているように、湾岸地域でのアメリカの軍事的プレゼンスは大きな転換期に置かれている。

サウジアラビアは、自国の安全保障を湾岸地域に駐留するアメリカ軍の存在に大きく依存してきたが、アメリカ軍の縮小の動きはサウジアラビアの、そして湾岸地域の安全保障に大きな影響を及ぼすものと考えられる。ペルシャ湾地域では、最近、イランの戦力の拡充が著しい。湾岸地域の安全保障をめぐる構造は大きく変化しつつあり、サウジアラビアとGCC諸国の安全保障にも大きな影響を与えるものと考えられる。

昨年の10月にイスタンブル のサウジアラビア領事館で発生したカショギ殺害事件はサウジアラビアの外交に大きなダメージとなっている。米欧諸国では、イエメンでの空爆に批判が集まり、戦闘機などの武器の調達にも支障が表れるなど、サウジアラビアの安全保障政策の展開を難しくしている。そうした中での湾岸地域での安全保障をめぐる変化は、サウジアラビアにとって重要な意味を持っていよう。

本稿では、まずアメリカ軍のプレゼンスの縮小をめぐる状況について明らかにする。続いてペルシャ湾地域でのイランの戦力の新たな展開について検討する。ペルシャ湾地域における安全保障は、原油の多くをペルシャ湾ルートに依存している日本にとっても重要であるが、アメリカ軍のプレゼンスとイランの戦力の変化について見ることを通して、ペルシャ湾地域における安全保障をめぐる最近の変化を明らかにしたい。筆者は、前の論考で、アメリカのプレゼンスについて検討しているが2、本稿では、湾岸地域を中心にして、2017年以後のアメリカのプレゼンスの変化から見ていきたい。

なお、本稿の初稿は2019年4月3日に脱稿したものであるが、その後のアメリカ・イラン関係の緊張に伴い、5月にアメリカはペルシャ湾とその近辺の軍事力を大幅に強化している。その5月以降の変化については、本稿の最後に追記を加え、その追記の中で検討することとする。また、本稿でアメリカ軍の駐留兵数に関し使用したのは、アメリカのDefense Manpower Data Centerの統計3であるが、同統計では今年5月初めに最新の統計(2019年3月31日付けの集計)が公表されている。その最新の統計では、GCC諸国に駐留したアメリカ兵の数には、それ以前の数字と比較してほとんど変化はなかったが、追記に際して、本稿中で使用したグラフと数値は最新のものに置き替えた。

2. アメリカの軍事的プレゼンスの縮小

湾岸地域では2017年を境にしてアメリカの軍事的プレゼンスが大きく変化している。変化の第一は、グラフ(1)に示したように、GCC諸国に駐留するアメリカ兵の数が大きく減少したことである。2017年9月にかけて一時は大きく増加したものの、その後は再び大幅に減少し現在に至っている。

出所:米Defense Manpower Data Centerのデータより作成

アメリカは、GCC諸国ではバハレーン、カタル、アラブ首長国連邦、クウェートの4か国で基地を使用しており兵力を駐留させてきた。サウジアラビアに関しては1990年の湾岸危機以来、基地を保有しアメリカ軍を駐留させてきたが、サウジアラビア国内の反米軍感情に配慮して、イラク戦争後の2003年8月に兵力を撤収し基地の使用を終了した。サウジアラビアには現在は、アメリカ軍基地は存在しない。オマーンに関しては、以前よりアメリカ軍の基地は存在していない。統計上は、現在もサウジアラビアとオマーンには少数のアメリカ兵が存在するが、それは大使館・領事館の警護要員や当該国との連絡・調整に当たっている連絡要員である。

そのGCC諸国でのアメリカ軍の兵力数は、オバマ前政権がリバランス政策を打ち出した2011年を境にして減少が続いていた。そして、オバマ政権末期の2016年になると、オバマ大統領が政策の仕上げを急ぎGCC諸国での兵力数の削減を一段と進めたため、減少がさらに進んだ。  

2017年1月にトランプ政権が発足したが、トランプ政権の発足時にはGCC諸国におけるアメリカの兵力配置政策は固まっていなかった。当初は、グラフ(1)に示したように、オバマ政権時代の兵力削減の流れが続いていた。2017年2月に、トランプ政権で国防長官に任命されたジェームス・マティスが、中東でアメリカ軍を増強する必要性はないと述べていたように4、トランプ政権は削減状態を維持していたのである。しかし、トランプ政権はその後政策を転換し同年9月にかけて兵力数を急増させている。トランプ政権がGCC諸国で兵力を急増させた背景には、アフガニスタンで戦況が悪化したことがあった。

当時、アフガニスタンでは反政府武装組織ターリバーンの攻撃が続きテロも頻発するようになっていた。アフガニスタンでの厳しい状況への対応を迫られたトランプ大統領は、2017年6月に米国防総省に対し、数千人規模のアメリカ軍部隊をアフガニスタンに新規に派遣する権限を与えている5。そして、同年8月31日には、マティス国防長官がアフガニスタンへアメリカ軍を増派する命令を出している6。そうした動きを受けてアフガニスタンでのアメリカ兵の数は増加し、2017年3月31日付の統計では8,927人(内空軍兵は707人)だったアフガニスタン駐留のアメリカ兵の数は、同2017年9月30日には1万3,329人(内空軍兵は2,504人)へと大幅に増加している。

GCC諸国に駐留するアメリカ軍は、とりわけカタルとアラブ首長国連邦に駐留した空軍はアフガニスタンでの作戦への支援を重要な任務としていた。そのため、アフガニスタンへの増派に連動してカタルとアラブ首長国連邦におけるアメリカ空軍の兵員数も急激に増加している。同時期には、グラフ(2)(3)に示したように、クウェートとバハレーンに駐留したアメリカ軍兵員数も増加している。クウェートの基地のアメリカ軍はイラクとシリアでの対「イスラーム国」作戦に関わっていたが、その兵員数(陸軍、空軍、海兵隊)も増加している。同様にバハレーンに駐留したアメリカ軍の数も、後述のように海軍を中心にして増加している。トランプ政権が2017年9月にかけての時期にアフガニスタンでの兵力を増員したことを契機に、イラクなどの中東情勢への対応もあり、一時期ではあるが、GCC諸国における配置兵力の増強が行われたのである 。

しかし、トランプ大統領は、2017年9月以降になると政策を再び転換し兵力の削減へと舵を切り、グラフ(2)(3)に示したように、GCC諸国に駐留するアメリカ軍の兵力数は大幅に削減されることとなった。とりわけ変化が大きかったのが空軍で、カタル、アラブ首長国連邦、そしてクウェートの3か国に駐留した空軍の兵力数は劇的に減少し、その状態は現在まで続いている。

重要なのはカタルでの変化である。カタルにはアメリカ軍が使用しているウダイド空軍基地があり湾岸地域におけるアメリカ空軍の司令部としての役割を果たしていた。カタルには最盛期には1万人を超すアメリカ兵が駐留していたが、2014年3月31日の段階でも6,940人(内空軍兵は5,253人)のアメリカ軍兵士が駐留していた。しかし、その数は2017年3月31日付の統計では951人(内空軍兵は579人)に減少し、前述のように一時増加した後、2017年12月31日には再び529人(内空軍兵は238人)に減少し、その状態が現在まで続いている。その兵員数は、基地には、基地施設や物資の保守管理要員を残すのみで、すでに実戦部隊は駐留していないことを示している。

同様に、アラブ首長国連邦の基地には2014年3月31日に4,021人(内空軍兵は2,260人)のアメリカ軍兵士が駐留していたが、2018年3月31日には403人(内空軍兵はわずか90人)に減少している。クウェートでは2014年3月31日に7,858人(内陸軍兵が6,165人、空軍兵は1,474人、海兵隊が169人など)の駐留兵がいたが、2017年12月31日には2,082人(内陸軍兵が714人、空軍兵は42人、海兵隊が1,322人など)に減少している7

兵力削減の背景には、軍事費負担の軽減を進めようとしているトランプ大統領の考えがあり、同時にアジアを重視した兵力のリバランス政策も続いており8、それらのことが空軍戦力を中心とした兵力の削減につながったものと考えられる。また、2017年6月にサウジアラビア、アラブ首長国連邦、バハレーンなどがカタルと断交したが、そのことでカタルを中心としたアメリカ空軍の運用に障害が生まれ活動が制限されたことも9、空軍の削減と兵力構造の再編を促したものと考えられる。

出所:米Defense Manpower Data Centerのデータより作成

出所:米Defense Manpower Data Centerのデータより作成

GCC諸国での空軍兵数は2017年9月にかけて大きく増加し、その後減少している。その移動元と、9月以降の移動先について、アメリカのDefense Manpower Data Centerの統計で検討してみよう。同統計によると、GCC諸国に駐留した空軍兵力は2017年6月に合計で597人であったが、同9月に8,068人に増加し、同12月に451人に再び減少している。9月前後で7,471人の空軍兵士が増加し、7,617人が減少しているのである。

同統計で2017年9月前後のアメリカ国内と世界各地の空軍兵力の移動状況を見てみると、9月にかけてアメリカ国内の各州で空軍兵力が減少しており、統計からはGCC諸国への兵力の移動は本土の各州から幅広く行われたものと推測される。特定の基地から移動したことを示す数字はない。また、前述のように、この時期にアフガニスタンでの空軍兵力は増加しており、アフガニスタンからGCC諸国に移動した形跡はない。

続いて9月以降には、GCC諸国の空軍兵力が7,617人削減されたが、アメリカ国内の空軍兵力が増加しており、GCC諸国から撤収した空軍兵力の大部分はアメリカ国内の基地に戻っているものと推測される10。同統計は2008年9月分から公表されているが11、アフガニスタン、イラク、シリアの3か国でのアメリカ兵数に関しては、2017年9月を最後に、それ以降は数字を公表しなくなった。同統計が特定国の数字を記載しなくなったのは初めてのことである。現在も未公表の状態が続いている。このため、2017年12月以降はアフガニスタンなど3カ国での兵力数の変化は統計からは確認できなくなったが、いずれにしても、GCC諸国に駐留した7,617人のアメリカ空軍兵力がアフガニスタンやイラクに移動したとは考え難い。以上のことからは、空軍兵力の中心はアメリカ本土から渡来し、アメリカ本土へ戻ったものと考えられる。

3. アメリカ軍空母打撃群の動向

湾岸地域でのアメリカの軍事的プレゼンスの変化の第二は、空軍に代わって海軍がプレゼンスの主力になったことである。そして、海軍が主力になったことに伴い、アメリカ軍の中心的拠点であったカタルのウダイド空軍基地は役割を終え、アメリカ軍の中心はバハレーンに移っている。バハレーンには1995年以来アメリカ第5艦隊の司令部が置かれており、ペルシャ湾地域に展開するアメリカ海軍部隊の中枢の役割を果たしてきた。海軍の主力は空母打撃群であり、空母搭載の海軍航空戦力はGCC諸国の安全保障で大きな役割を果たしてきた。

バハレーンに駐留したアメリカ兵の数を見てみよう。その数は2017年3月に5,259人(うち海軍4,172人、海兵隊930人、空軍20人など)であったが、同年9月にはGCC諸国での兵力が増強される中でバハレーンでも増加し8,598人(うち海軍6,920人、海兵隊1,278人、空軍34人など)になった。その後は、同年12月には7,193人(うち海軍6,685人、海兵隊273人、空軍25人など)になり、そして、2018年3月には4,173人(うち海軍3,197人、海兵隊694人、空軍24人など)に減少したものの、その後はその水準を維持している(グラフ(2)参照)。GCC諸国で空軍兵力が大幅に削減されたのとは対照的に、海軍を中心としたバハレーンでの兵力は維持されている。

このバハレーンでのアメリカ兵の統計数には、空母打撃群の兵員数は含まれていない。2017年11月にペルシャ湾に入った空母Theodore Rooseveltには7,500人が乗船していたとされるように12、アメリカの空母の兵員数は数千名、あるいはそれ以上であり、随伴艦を含めた打撃群としてはさらに多くの兵員がいるが、統計上はバハレーンの兵力には含まれず別扱いとなっている。ペルシャ湾地域におけるアメリカの空母打撃群は6ヶ月前後の間隔で交代を繰り返してきており、その兵員数は派遣元の、つまり母港のあるアメリカ本土などの基地の兵員としてカウントされている。統計には表れないものの、実際には、ペルシャ湾地域には強力な空母打撃群が配置されてきたのである。

このように、トランプ大統領の時代に湾岸地域ではアメリカの空軍戦力は劇的に削減され、代わってバハレーンの基地を中心とした海軍兵力が安全保障で大きな役割を果たすようになったのである。なかでも空母打撃群の役割が大きかったが、トランプ政権時代のアメリカ軍の削減の中で打撃群にはどのような変化が表れているのだろうか。

アメリカは2013年まではペルシャ湾に空母を2隻(2打撃群)配置してきたが、リバランス政策が進められる中で、同年2月のアメリカの軍事予算の削減以降は1隻体制となることが多くなった13。さらに、2015年10月9日には、空母Theodore Rooseveltがペルシャ湾を離れペルシャ湾でのアメリカの空母はゼロとなっている。ペルシャ湾でアメリカの空母がゼロとなったのは2007年以来初めての事とされる14

それから2か月以上が経過した2015年12月14日には、空母Harry S. Trumanがペルシャ湾に入り2016年6月まで滞在。続いて、空母Dwight D. Eisenhowerが6月28日から12月26日まで地中海やペルシャ湾に滞在。その後は、約3か月の空母不在の期間を経て、2017年3月21日に空母George H.W. Bushがホルムズ海峡を通過してペルシャ湾へ入っている15。トランプ政権になって初めてペルシャ湾地域に配置されたアメリカ空母である。その後交代した空母Nimitzが、2017年10月25日にペルシャ湾を離れた後は、11月30日にTheodore Rooseveltが到着するまでは1か月以上空母が不在となっている。Theodore Rooseveltは4か月間ペルシャ湾に滞在し、イラク・シリア空爆とアフガニスタンでの作戦を実施した後16、2018年3月末にペルシャ湾を離れた。その後は2018年12月21日に空母John C. Stennisがペルシャ湾に入るまで、9か月間ペルシャ湾では空母が不在であった17。このように長期間にわたりペルシャ湾でアメリカの空母が不在となるのは、少なくとも2001年の同時多発テロ時期以来、初めてのことであった。

(出所:各種報道及び米海軍関連機関発表のニュースにより筆者作成)18

このように、オバマ政権時代に始まったリバランス政策の下でペルシャ湾地域でのアメリカ打撃群のプレゼンスは縮小し、その流れはトランプ政権時代にも続いている。表(1)に示したように、ペルシャ湾地域ではアメリカの空母が不在になることも増えている。空軍戦力の劇的な削減で、アメリカのプレゼンスの主役は空軍から海軍へと変わったが、その海軍のプレゼンスも弱まってきているのである。

空軍に関しては、GCC諸国でアメリカが使用してきた空軍基地は現在も残されており、施設や必要物資の保管も続いている。湾岸地域での有事に際しては、アメリカは本土などに配置している空軍などをいつでもGCC諸国に展開できる体制を維持しているのである。2017年9月にGCC諸国のアメリカ空軍戦力が急増したことは、アメリカ空軍戦力の緊急展開能力を実証する一例であろう。

しかし、アメリカがGCC諸国で空軍戦力を緊急に展開する能力を維持し続けているとはいえ、現実には湾岸地域に空軍兵力がほとんど存在しない状況になっており、また、アメリカ海軍のプレゼンスも弱まってきていることを考慮すると、湾岸地域の安全保障で重要な役割を果たしてきたアメリカの軍事的抑止力の弱体化は明らかである。GCC諸国の今後の安全保障にとって大きな懸念材料となっている。

4. イランの戦力拡充とサウジアラビアの対応

GCC諸国でのアメリカの軍事的プレゼンスの弱まりはサウジアラビアの安全保障に大きな影響を与えることになる。サウジアラビアにとって安全保障上の最大の脅威はイランの存在である。サウジアラビアは現在、イエメンの内戦に介入して空爆を実施し、カタルとは断交し緊張関係にある。サッダーム・フセイン時代にはイラクが大きな軍事的脅威となっていたこともあった19。しかし、サウジアラビアの安全保障にとっての大きな脅威は、イエメンやカタルではなく、人口が多く軍事力も強い大国イランの存在である。

これまではアメリカ軍の存在が抑止力として大きな役割を果たしてきたが、前述のように、そのアメリカの軍事的プレゼンスは弱体化してきている。一方で、ペルシャ湾地域でのイランの軍事力の拡充には著しいものがある。とくに、イランのミサイルと航空戦力、そして海洋戦力の最近の発展拡充には目を見張るものがある。

ミサイルと航空戦力に関しては、2018年10月1日に、イランの革命防衛隊は、イランのアフワーズでテロ攻撃があったことを受け、イラン西部の革命防衛隊の基地から570キロ離れたシリアのテロリストの陣地に向けて6発の地対地弾道ミサイルを発射し、同時に7機のドローン(無人飛行機)でシリアのテロリストの陣地を攻撃したと発表している20。この報道が事実ならば、イランは数百キロ以上の射程のある地対地弾道ミサイルを多数保有していることになる。2019年3月には、イランは攻撃用のドローン(Kaman-12)とミサイル(Akhgar )の量産を開始している21。1,000キロの航続距離のあるドローンも多数保有している22。また、国産のジェット戦闘訓練機(Kousar)を今後3年間で15機配備することを計画するなど、航空戦力の整備も進めている23

海洋戦力の発展拡充も目覚ましく、イランは国内で建造した軍艦の配備を進めるとともに、潜水艦やスピードボート(小型のモーターボート)の開発と配置を進めている。潜水艦については、イランが2019年2月に公表した国産の潜水艦は巡航ミサイルを搭載し、200メートル以上の水深で5週間にわたり作戦を行える性能を持っているとされる24。イランは小型の潜水艦(Ghadir型)も多数保有し、その改良版の最新型潜水艦は巡航ミサイルの海中発射能力を持っており、実際にも、今年2月24日頃に、ホルムズ海峡に近いオマーン湾で軍事演習を行っていたGhadir型潜水艦は巡航ミサイルの発射に成功している25

また、イランの革命防衛隊は、ホルムズ海峡近辺で警備用のスピードボートを多数配置している。2017年10月には、イラン革命防衛隊はミサイルを搭載した110隻のスピードボートを動員してペルシャ湾で軍事演習を実施している26。さらに開発を進め、ミサイルを搭載し時速80ノット(148キロ)を出すことができ、レーダーに捕捉されにくいステレス機能を持った新型のスピードボートの開発を計画しているとされる27

こうした航空機、ミサイル、潜水艦などの開発・製造は長い年月を必要とするものである。イラン革命後、イランは長い年月アメリカの制裁下に置かれており、海外からの最新の兵器の調達が難しかった。そのために、イランは国産の技術開発を進め28、その開発の成果が最近になって現れてきたということであろう。アメリカによる制裁は続く可能性があるが、工業力とそれを支える技術を持ったイランは制裁にもかかわらず、今後もミサイル、航空機、潜水艦などの開発と配備を進めていくものと考えられる。イランは、国産技術による兵器の開発に加え、ロシアからのS-300対空ミサイル・システムを購入し、2016年10月にはS-300はイランに引き渡されている29。ペルシャ湾地域におけるイランの戦力の拡充には著しいものがある。

イランによる戦力の拡充は、現在のところは、防衛力の強化を目的とするもので他国を攻撃する目的のものではないと思われるが、アメリカの軍事的プレゼンスが弱体化する中での戦力の拡充、特にミサイルの開発は、サウジアラビアにとって大きな脅威となるものである。

サウジアラビアはその対応として、自らの航空戦力とミサイル防衛力の強化を急いできた。サウジアラビアの王政指導部は歴史的に軍によるクーデターを警戒しており、強大な陸軍兵力を保有することには慎重であった。そのために、イランの脅威に対応するためにサウジアラビアがとった方策は、航空戦力と対空ミサイルなどの防空戦力の拡充であった30。アメリカやイギリスなどから新型のジェット戦闘機や対空ミサイルを購入し、防衛力の強化に努めてきたのである。

2017年5月のトランプ大統領のサウジアラビア訪問に際しては、アメリカとの間で総額1,100億ドルに上るアメリカ製兵器の購入で合意している。サウジアラビアがアメリカから購入しようとしている兵器は、F-15戦闘機をはじめとする航空機、軍事用ヘリコプター、THAADやPatriotなどの対空ミサイルシステム、爆撃に使用する精密誘導弾、レーダーシステム、さらに最新の電子装備を備えた軍艦など多岐にわたるものである。

また、イギリスなどとの間では、48機のジェット戦闘機Eurofighter Typhoonの売却ですでに合意している31。Eurofighter TyphoonはイギリスのBAE Systemsが製造の中心になり、フランスやドイツなどの部品を合わせて製造されるものであるが、取引の総額は131.8億ドルに上る。サウジアラビアは現在強力な戦闘機の編隊と対空ミサイルを保有しているが、さらに航空戦力と防空戦力の拡充に努めているのである。フランスとの間では、サウジアラビアで軍艦を建造するための交渉を進めてきた。

しかし、2018年10月にイスタンブルの領事館で起きたカショギ氏殺害事件は、サウジアラビアの兵器調達に大きな影響を与えている。アメリカ議会では、カショギ氏殺害事件やイエメン空爆をめぐりサウジアラビアを批判する声が強まり、サウジアラビア向けの兵器売却の議会承認に大きな障害となっている。48機のEurofighter Typhoon戦闘機購入に関しては、その戦闘機の部品のほぼ3分の1を生産しているドイツが、カショギ氏殺害事件後にサウジアラビア向けの兵器売却を禁止したため、Eurofighter Typhoonの売却の動きが止まってしまっている。

サウジアラビア向けの兵器の輸出はいずれ実施される可能性が高いと考えられるが、カショギ氏殺害事件を境にして米欧諸国からの兵器の調達はスムーズにいかなくなっており、同国の今後の安全保障にも影響を及ぼすものと考えられる。

5. おわりに

サウジアラビアの安全保障ではイランの脅威への対応が大きな位置を占めてきた。イランは人口も多い湾岸地域の大国で強大な軍事力も持ち、シーア派宗教勢力を中心とした政治体制を取っている。ペルシャ湾を挟んでいるとはいえ、サウジアラビアにとってはイランの脅威は大きい。また、アラブ首長国連邦やバハレーンなどの周辺のGCC諸国の多くもイランを脅威と考えており、サウジアラビアは、軍事力の弱いそれらのGCC諸国の安全を守ることも重要な役割と考えている。

サウジアラビアの経済は原油の輸出に大きく依存しているが、その油田はペルシャ湾岸地域に集中している。ペルシャ湾岸地域で生産された原油の多くはタンカーでホルムズ海峡を通り海外へ輸出されている。ペルシャ湾の油田地帯から紅海岸(ヤンブウ)へアラビア半島を横断するパイプライン(送油能力500万b/d)が敷設されているが、パイプライン輸送のコストが高いこともあり、欧米向けの原油の多くもタンカーでホルムズ海峡を通り海外へ輸出されている。サウジアラビアにとっては、ペルシャ湾やホルムズ海峡などの原油の輸出ルートの安全を図ることは重要である。

サウジアラビアは、対イランの安全保障とペルシャ湾の安全の両面で、アメリカの軍事力に大きく依存してきた。そのアメリカのプレゼンスの縮小が進んでいる。サウジアラビアは、現在、強力な空軍やミサイル部隊を保有しているが、アメリカ軍の縮小をサウジアラビアが単独で補うのは困難であろう。ペルシャ湾の安全保障をめぐる状況は大きな転換期にある。

6. 追記…5月以降の情勢の変化を受けて

「はじめに」の部分で記したように、本稿の初稿は2019年4月3日に脱稿したものである。しかし、アメリカによる対イラン制裁の強化を受けて、5月以降にはアメリカ・イラン関係がさらに緊張し、その流れの中でアメリカはペルシャ湾とその近辺の軍事力を強化している。

5月以降のアメリカ軍の強化をめぐる動きはすでに様々なメディアで報じられているが、それらを時系列に沿って整理すると次のようになっている。

5月2日、トランプ政権は、イラン産原油の輸入を日本など8カ国・地域に対して認めていた制裁の特例措置を打ち切った。

5月5日、ホワイトハウスのボルトン大統領補佐官は、対イラン制裁の強化に対応してイランが動く兆候があるとして、中東地域に空母と爆撃機部隊を派遣すると発表した。

5月8日、イランは、核合意の参加国が合意に基づく約束を守らなければ、濃縮ウランを制限量を超えて貯蔵し、60日以内に高レベルのウラン濃縮を再開すると発表した。

5月10日、アメリカは地対空ミサイル・パトリオットの部隊の中東派遣を発表。パトリオット部隊の派遣はアメリカの空軍基地の防衛のためであるとされた。

5月12日、アメリカが米本土のルイジアナの Barksdale空軍基地から派遣したB52戦略爆撃機部隊がカタルのウダイド空軍基地に到着した。B52は、アラブ首長国連邦にも到着しているようであるとの報道。

同12日、サウジアラビアの2隻のタンカー、ノルウェーとアラブ首長国連邦のタンカー、合計で4隻のタンカーがアラブ首長国連邦のフジャイラ沖で、機雷によるものと思われる攻撃を受ける。4隻の船腹・船底に穴が開くなどの被害が生じた。

5月14日、サウジアラビアのリヤード西方の東西パイプラインの原油ポンプステーション2か所が武装ドローンの攻撃を受けた。火災が起きたが鎮火。

5月16日、アメリカの空母エイブラハム・リンカーンの打撃群がホルムズ海峡近くのオマーン湾に到着し、配置についた。

5月24日、トランプ大統領は中東地域へのアメリカ軍兵士約1,500人の追加派遣を表明した。

6月12日、ホルムズ海峡の近くのオマーン湾でタンカー2隻が機雷によるものと思われる攻撃を受けた。

6月17日、アメリカ国防総省はパトリオットミサイル部隊、有人・無人の監視機部隊を含む1,000人の人員を中東に追加派遣することを発表した。

6月20日、ホルムズ海峡近辺を飛行中のアメリカ軍のドローンが、イランの革命防衛隊のミサイル攻撃を受けて撃墜された。

6月27日、アメリカ空軍が派遣したF-22ステレス戦闘機がカタルのウダイド空軍基地に到着した。カタルへのF-22戦闘機配備は初めてのこととされる。

以上が、5月以降のアメリカの動きの概略である。この追記の部分では、今回のアメリカの兵力の増強に関する問題を中心にして検討していく。なお、報道を見ている限りでは、5月以降、イランの軍事力に関しては大きな変化は起きていない。

本稿では、GCC諸国でのアメリカ軍のプレゼンスの変化を見るために、アメリカのDefense Manpower Data Centerの統計を使用した。同統計の最新版は5月初めに公表されたもので、それは3月31日段階での兵員数を示した統計である。次の統計(6月30日付)の発表は8月の初め頃と見込まれる。アメリカ軍のプレゼンスは現在変化中であり、変化の方向性を知るためには、11月初め頃に公表予定の統計(9月30日付)を見る必要があろう。しかし、この追記においては、5月以降の変化については統計が未発表で、統計で裏付けながら検討することができないため、ここでは、報道等の情報を利用しながらアメリカ軍のプレゼンスの変化について検討していくこととしたい。

アメリカは、5月に空母エイブラハム・リンカーンの打撃群をペルシャ湾近海に配置した。ボルトン大統領補佐官が空母の派遣を発表したのは5月5日のことであった。実際には、空母エイブラハム・リンカーンの打撃群がアメリカ本土の母港(ノーフォーク海軍基地)を出港したのは4月1日であった。出港の目的は、第5艦隊(ペルシャ湾・東インド洋担当)、第6艦隊(地中海・欧州担当)、第7艦隊(西太平洋・インド洋担当)との協力であるとされており、過去の派遣と同様に、ペルシャ湾に行き、当時ペルシャ湾で配置についていた空母John C. Stennis(ジョン・C・ステニス)と置き換えることが目的であった。エイブラハム・リンカーンは、4月15日にはジブラルタル海峡を通過し地中海に入っている。地中海では、ペルシャ湾からアメリカ本土に帰港中であった空母ジョン・C・ステニスとの合同演習などを実施している32。その後、エイブラハム・リンカーンは5月9日にスエズ運河を通過し33、5月16日頃にオマーン湾に到着し配置についている。

以上のエイブラハム・リンカーンの軌跡は、ボルトン大統領補佐官が空母の派遣を発表した5月5日には、エイブラハム・リンカーンは、すでにアメリカ本土を出港しペルシャ湾方面に向けて移動中であったことを示している。エイブラハム・リンカーンの派遣は、アメリカ軍のローテーションに沿って、前任の空母ジョン・C・ステニスと入れ替えるためであった。ペルシャ湾方面に配置される空母には6,000人から8,000人が乗船し、打撃群全体ではそれ以上の多くの人員が乗船している。打撃群は、通常は数か月ほどペルシャ湾地域に滞在している。一つの都市が移動することに等しく、それなりの準備が必要で、トランプ大統領やボルトン大統領補佐官が決定したからと言って、直ちにペルシャ湾に急行できるものではないのである。派遣は、ボルトン大統領補佐官の発言の1か月以上前に着手されていたのであった。

アメリカは2018年12月17日に、ワスプ級強襲揚陸艦Kearsarge(キアサージ)の即応艦隊(Kearsarge Amphibious Ready Group)を母港のノーフォーク海軍基地からペルシャ湾に向けて派遣している34。キアサージの即応艦隊は1月20日頃にスエズ運河を通過し紅海に入っている。キアサージは強襲揚陸艦と呼ばれているが4万0,500トンの大きさがあり、多数のヘリコプターやハリアー戦闘爆撃機(最大で20機搭載可能)を搭載し空母に近い機能を持ち、外見も空母の形をしている。即応艦隊全体では4,500人の人員が乗船していた。キアサージはその後ペルシャ湾内で配置についていたが、5月17-18日には、エイブラハム・リンカーンとキアサージの両艦の艦載機による、空中戦の訓練を含む合同軍事作戦・演習を実施している35

本稿ですでに述べたように、GCC諸国でのアメリカ軍の戦力は空軍を中心にして大幅に削減された状態にあった。2019年5月に向けてイランとの間で対立が強まり、軍事的にも緊張が強まることが予想された。また、4月から5月にかけての時期には、ペルシャ湾に派遣されていた空母の交替が予定されていた。アメリカはキアサージ即応艦隊をペルシャ湾地域へ派遣し、キアサージの艦載機で手薄になっていた空軍戦力を補い、イランの動きと空母の交替に備えたものと考えられる。

5月16日には、空母エイブラハム・リンカーンがオマーン湾に到着し配置についている36。エイブラハム・リンカーン打撃群がオマーン湾に配置されたことを受けて、キアサージ即応艦隊は6月前半にペルシャ湾を離れ、6月23日にスエズ運河を通過している。半年間の任務を終えて母港に向かっているものと思われる37。現在のところ、アメリカはペルシャ湾周辺に1つの打撃群を配置する政策を継続している。

大きく変化したのはGCC諸国におけるアメリカの空軍戦力である。空軍戦力に関しては、アメリカは5月12日に、B52戦略爆撃機部隊をカタルとアラブ首長国連邦に派遣した。6月27日には、F-22ステレス戦闘機編隊をカタルに派遣している。真っ先にB52戦略爆撃機部隊を派遣したが、B52は目立つ存在であり、その派遣でイランに対する軍事的圧力を際立たせ、同時に実際に軍事衝突が起きた時には爆撃も辞さない姿勢を見せることで、イランへの圧力を強化し、イランがアメリカ軍を攻撃することへの抑止効果を狙ったものであると考えられる。

また、B52の派遣には、地域の混乱に乗じてロシアが影響力を拡大することを牽制する狙いもあるものと考えられる。GCC諸国に展開したアメリカ軍は、ソ連邦の崩壊後は、その主たる狙いは産油国と原油輸送ルートの安全確保を担い、アフガニスタンやイラクなどでの対テロ戦を支援し、さらにイランに対する牽制など、主に地域的な役割を担ってきた。歴史的には、インド洋のジエゴガルシア島の米軍基地と連携し、ソ連・ロシアに対応したアメリカのグローバルな戦略の一翼を担ったこともあったが、近年はローカルな役割が中心になっていた。しかし、アラブの春後の激動の中でロシアがシリアで地歩を固めた状況を見て、イランとの対立が深まる中で、湾岸地域におけるロシアの影響力が拡大することを警戒しているものと考えられる。

6月27日には、アメリカ空軍はカタルのウダイド空軍基地にF-22ステレス戦闘機を派遣している。イランとの間で戦闘が始まると仮定すると、その時にはアメリカ軍の艦船からの巡航ミサイルの攻撃が中心になると思われるが、F-22ステレス戦闘機を使用したイランの対空ミサイル陣地への攻撃も想定しているものと思われる。B52やF-22の派遣で、あるいはその防衛に当たるパトリオットミサイル部隊の配備で、GCC諸国におけるアメリカ空軍の兵力数は、当面は大きく増加するものと考えられる。

イラン核合意から撤退したアメリカは、軍事的圧力を含めイランに対する圧力を強めている。しかし、現状を見る限りでは、トランプ大統領がこれまでのアメリカ軍の削減路線を転換しGCC諸国でのアメリカ軍プレゼンスの強化に踏み切ったのか、あるいは、アメリカ軍の派遣は一時的なものなのかについては、もう少し様子を見ないと判断できないと思われる。アメリカ軍プレゼンスの今後は、イラン核合意をめぐり、アメリカとイランとの関係がどのようになっていくかによって大きく変わるものと考えられる。

トランプ大統領の政権の発足当初は、中東ではオバマ政権のリバランス政策の流れを受け継ぎアメリカの兵力の削減が続いていた。GCC諸国に関しては、2017年9月にかけて一時期兵力を増強したものの、直後に再び削減している。また、2018年12月には、トランプ大統領は、「イスラーム国」の主要拠点をつぶしたことを受けてシリアに駐留しているアメリカ軍を撤収させ、またアフガニスタンの駐留軍をほぼ半減させる考えを示したことがあった。こうしたトランプ大統領の駐留軍の削減の動きからは、トランプ大統領が、アメリカ兵の維持で生じるアメリカの負担、とりわけ軍事費の負担を削減しようとの考えを持っていることを示している。

しかし、シリアからの撤兵は国防総省の反対を受け部分的な撤兵にとどまり、また、アフガニスタンからの撤収は進んでいないように思われる。すでに述べたように、アメリカのDefense Manpower Data Centerはアフガニスタン、イラク、シリアの3か国での駐留アメリカ兵の統計を2017年9月を最後に公表しなくなったために統計で裏付けることはできないが、3か国には相当数のアメリカ兵が残っているものと思われる。

今年になってからアメリカ・イラン間で緊張が高まったことを受けて、アメリカはペルシャ湾とその周辺で兵力を増強したことが示しているように、GCC諸国やアフガニスタン、イラク、シリアにおける兵力の配置に関しては、アメリカはグローバルな軍の配置状況を考慮しながらも、実際には、主に中東各国や地域の情勢に対応しながら削減・増員などを決定している。トランプ大統領は中東でのアメリカ軍を削減したいとの考えを持っているように見えるが、実際は中東情勢に引きずられ対応しているのが現実である。トランプ大統領は政権の発足当初からイランとの対決姿勢を示していたが、一方で、本稿で述べたようにGCC諸国でのアメリカ軍のプレゼンスを削減したように、その軍事的プレゼンスに関する政策・戦略には、地域を広くカバーした長期的視点が弱く、場当たり的な側面もあるように思われる。今後のアメリカ軍のプレゼンスは、地域の情勢の影響を強く受け変化していくものと考えられる。

(2019年7月11日脱稿)

本文の注
1  トランプ大統領のアフガニスタンからの削減方針に関し、日本経済新聞は「半減」と報道し、Dow Jones Newswiresは「アメリカ軍14,000の数を7000人以上減らす」と報道。ロイターは「アメリカ軍14,000の数を5000人以上減らす方針」と報道している。いずれも2018年12月21日付け。ここではほぼ半減とした。

2  福田安志「アメリカの中東関与の変化とロシアの進出、湾岸への影響」、『中東レビュー第5号』、2018年3月。

3  アメリカのDefense Manpower Data Centerは、国防総省の管轄下に置かれている機関でアメリカ軍の人員関連の統計データ等を取り扱っている。その統計では、アメリカの陸軍・海軍・海兵隊・空軍・沿岸警備隊の各兵員数について、国内は州ごとに海外は国別(168カ国・地域)に分けて、3月、6月、9月、12月の3か月を単位として集計され、ホームページ上で公表されている。

4  2017年2月5日付 Arab News紙、“Iran world’s biggest state sponsor of terrorism: US”. http://www.arabnews.com/node/1049411/middle-east(2017年2月5日アクセス)

5  2017年6月14日付 Dow Jones Institutional News、“White House Hands Say Over Afghan Troop Levels to Military.”

6  2017年9月1日付 Reuters News、“Mattis signs orders to send additional troops to Afghanistan.” https://www.reuters.com/article/us-usa-afghanistan-military-idUSKCN1BB2JC(2017年9月1日アクセス)

7  クウェートでは陸軍や海兵隊の兵力数が多い。それは、前述のように、クウェートの基地はイラクとシリアにおけるアメリカ軍の活動を支える役割を果たしており、陸軍や海兵隊が駐留したためである。

8  アメリカは2018年10月に4基のパトリオット・ミサイルシステムをクウェート(2基)、バハレーン(1基)、ヨルダント(1基)から撤収している。中国とロシアへ対応するためとされる。2018年9月24日付Reuters News、“Kuwait calls U.S. decision to remove missile systems 'routine'.https://www.reuters.com/article/us-usa-middle-east-diplomacy-kuwait/kuwait-calls-us-decision-to-remove-missile-systems-routine-idUSKCN1M61SP (2019年6月24日アクセス)

9  カタルとの断交により、カタルとアラブ首長国連邦・バハレーン・サウジアラビアとの間の陸海空の交通が遮断され、米軍基地間の連携とコミュニケーションに障害が生まれている。また、カタルはイランとの協力関係も維持しており、カタルのウダイド空軍基地をアメリカが対イラン作戦に使用することに反対し基地使用の制約となる可能性があり、ウダイド空軍基地の利用価値が低下していた。

10  同統計ではアメリカ国内の空軍総兵力は6月から9月にかけて3,488人減少している。表で「所在が特定できない兵員」(unknown)に区分されている空軍兵員は6月には10,069人いたが9月には3,264人に減少している。続いて、9月から12月にかけては、国内の空軍総兵力は14,046人増加している。unknownに区分された空軍兵力は1,122人に減少。12月の表では、GCC諸国を含む中東からの帰還兵以外にも、移動中の兵員の移動完了、その他の地域からの帰還兵、新兵の補充などがあり増加したものと考えられる。

11  2008年から2013年までは年1回9月の統計のみが公表され、2013年12月からは3か月ごとの統計が公表されている。

12  2017年11月30日付け U.S. Naval Institute News、“Aircraft Carrier USS Theodore Roosevelt Enters Persian Gulf”.  https://news.usni.org/2017/11/30/theodore-roosevelt-carrier-strike-group-enters-persian-gulf(2017年11月30日アクセス)

13  2013年8月29日付け Gulf News、“US Navy increases carrier presence in Gulf.  https://gulfnews.com/world/gulf/bahrain/us-navy-increases-carrier-presence-in-gulf-1.1225267 (2013年8月29日アクセス)

14  2015年10月9日付け STARS AND STRIPES、“As USS Theodore Roosevelt exits, US has no carriers in Persian Gulf”.  https://www.stripes.com/news/as-uss-theodore-roosevelt-exits-us-has-no-carriers-in-persian-gulf-1.372488(2015年10月9日アクセス)

15  2017年3月21日付 Reuters News、“First U.S. carrier returns to Gulf since Trump inauguration.”  https://www.reuters.com/article/us-mideast-security-gulf-carrier-idUSKBN16S1QS (2017年3月21日アクセス)

16  アメリカの空母が同時に2つの作戦を行うのは初めての事であったとされる。

17  2018年12月21日付け Associated Press Newswires、“US aircraft carrier enters Persian Gulf after long absence”. https://www.voanews.com/middle-east/voa-news-iran/us-aircraft-carrier-enters-persian-gulf-after-long-absence(2018年12月21日アクセス)

18  これらの打撃群はシリアやイエメン沖合で作戦を行ったこともあり、かならずしも全期間ペルシャ湾に滞在したわけではない。には、2019年5月の空母Abraham Lincolnの派遣を追記した。

19  イラン・イラク戦争中には、サッダーム・フセインはサウジアラビアなどのGCC諸国に対し、対イラン戦争の戦費の支援を受けるために軍事的圧力をかけ続けていた。1990年にはイラク軍はクウェートに侵攻しクウェートを占領し、湾岸危機・湾岸戦争が起こっている。

20  2018年10月1日付 Mehr News Agency、“6 missiles, 7 combat drones launched at Ahvaz attack ringleaders’ HQ.”  https://en.mehrnews.com/news/138227/6-missiles-7-combat-drones-launched-at-Ahvaz-attack-ringleaders (2018年10月1日アクセス)

21  2019年3月1日付 Mehr News Agency、“Iran launches Kaman-12 UAV, Akhgar missile production lines.”  https://en.mehrnews.com/news/142978/Iran-launches-Kaman-12-UAV-Akhgar-missile-production-lines (2019年3月1日アクセス)

22  2019年3月1日付 Teheran Times、“Iran launches mass production of combat drone.”  https://www.tehrantimes.com/news/433554/Iran-launches-mass-production-of-combat-drone (2019年3月1日アクセス)および、2019年3月14日付 Mehr News Agency、“IRGC launches massive drone wargame over Persian Gulf”  https://en.mehrnews.com/news/143406/IRGC-launches-massive-drone-wargame-over-Persian-Gulf(2019年3月14日アクセス)

23  2019年1月5日付 Teheran Times、“15 Kosar jets to join Iran Air Force in 3 years: cmdr.” https://en.mehrnews.com/news/141204/15-Kosar-jets-to-join-Iran-Air-Force-in-3-years-cmdr (2019年1月5日アクセス)

24  2019年2月17日付 Teheran Times、“Iran unveils new submarine armed with cruise missiles.”  https://www.tehrantimes.com/news/433066/Iran-unveils-new-submarine-armed-with-cruise-missiles (2019年2月17日アクセス)

25  2019年2月24日付 Mehr News Agency、“Ghadir submarine successfully launches cruise missile.”  https://en.mehrnews.com/news/142826/Ghadir-submarine-successfully-launches-cruise-missile(2019年2月24日アクセス)

26  2017年10月9日付 Teheran Times、“IRGC Navy holds maneuver in Persian Gulf.”  https://www.tehrantimes.com/news/417441/IRGC-Navy-holds-maneuver-in-Persian-Gulf(2017年10月9日アクセス)

27  2018年12月31日付 Teheran Times、“IRGC plans to develop speed boats with stealth technology.” https://www.tehrantimes.com/news/431345/IRGC-plans-to-develop-speed-boats-with-stealth-technology (2018年12月31日アクセス)

28  開発の当初はロシアや北朝鮮の技術支援を受けたとされる。

29  2016年10月13日付 Reuters News、“Russia completes delivery of S-300 air defense missiles to Iran: RIA”、 https://www.reuters.com/article/us-russia-iran-missiles-idUSKCN12D0Z2  (2016年10月13日アクセス)

30  空軍や防空軍はクーデターを起こす可能性が少ないことが背景にある。

31  サウジアラビアは、すでに72機のEurofighter Typhoonを保有している。Eurofighter Typhoonは空中戦と同時に対地爆撃能力にも優れており、イエメンのフーシー派に対する空爆でも用いられている。

32  空母エイブラハム・リンカーンの動向に関する以上の情報は、空母エイブラハム・リンカーンのフェイスブックの公式ページより取得した。https://www.facebook.com/USSLincoln/ (2019年6月30日閲覧)

33  2019年5月19日付 Reuters News、“US carrier to deter Iran passes through Suez Canal”、 https://www.reuters.com/article/us-usa-iran-suezcanal/us-carrier-to-deter-iran-passes-through-suez-canal-idUSKCN1SF163 (2019年5月9日閲覧)

34  2018年12月17日付のU.S. Naval Instituteのホームページの広報、“Kearsarge ARG, 22nd MEU Depart Norfolk For Deployment”、 https://news.usni.org/2018/12/17/39699(2019年5月19日閲覧)

35  2019年5月19日付のアメリカ海軍のホームページの広報、“Abraham Lincoln CSG and Kearsarge ARG Conduct Joint Operations in U.S. 5th Fleet”、 https://www.navy.mil/submit/display.asp?story_id=109633(2019年5月19日閲覧)

36  空母エイブラハム・リンカーンがホルムズ海峡を通過してペルシャ湾に入らないのは、イランの対艦ミサイル攻撃を警戒しているためと考えられる(7月18日現在オマーン湾に滞在)。空母がミサイル攻撃で被害を受けることがあれば、アメリカの軍事的な威信は大きく傷つくことになるからである。

37  その後、Boxer強襲揚陸艦の即応艦隊がオマーン湾に到着し7月18日にホルムズ海峡を通過してペルシャ湾に入っている。ホルムズ海峡通過時に接近してきたイランのドローンを撃墜している。Boxerは4万0,720トン、即応艦隊は人員4,500人、母港サンジェゴ。

 
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