数学教育学会誌
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緑表紙と塩野直道の数学教育思想
現代へのメッセージ
松宮 哲夫
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2008 年 49 巻 1-2 号 p. 1-16

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抄録

「尋常小学算術」(第1~6学年,全12冊)は1935年(昭和10)4月から1943年(昭和18)3月まで使用された国定教科書である。表紙が緑色だったので「緑表紙」とも呼ばれた。緑表紙を使う以前は「尋常小学算術書」と言い,表紙が黒色だったので「黒表紙」とも言われた。緑表紙は塩野直道文部省図書監修官が主任となり数人で編纂した。1933年9月から1940年10月まで会議を毎週1回持ち7年1か月を要した。数学教育改造運動を背景に塩野直道の数学教育思想を以て少人数で長い年月を掛けたのである。算術教育を根源に戻って考え,人間の理想の境地から目的の「数理思想の開発」を考えたのである。黒表紙を一新した程度の高い教科書であった。
本稿では以下の点について述べ, 30年間低迷を続けた算数教育の立ち直りに資したい。
第一 塩野直道が黒表紙改訂を志して以来,単なる改訂ではなく新しく編纂する教科書(緑表紙) の主任になるまでの経緯および編纂過程について
第二 緑表紙の目的・内容・方法・程度の特徴について
第三 緑表紙編纂の反響と意義について
第四 現代の算数・数学教育への緑表紙そして塩野直道からのメッセージについて。たとえば,目的を自覚せよ, 「潤い」のある教育をせよ,程度を下げるな,など。
なお本年(2008年)は塩野直道(1898~1969)生誕110周年にあたる。

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© 2008 (一社)数学教育学会
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