抄録
国際生物学事業計画(IBP)の主要調査地の一つとして選ばれている八甲田山地域において, 1967年8月10日から, 18日にかけて自然保護(CT)部門の合同調査が行われた.本文に扱つた材料は, その際小哺乳類の調査を担当された北海道大学農学部阿部永博士並びに小林恒明氏によつて採集提供されたものである.材料にはアシボソダニ科Haemogamasidae 2種, トゲダニ科Laelaptidae 1種, ケモチダニ科Myobiidae 1種, ツツガムシ科Trombiculidae 2種, ズツキダニ科Listrophoridae 1種, ノミ目Siphonaptera 2種, シラミ目Anoplura 2種計11種がふくまれていた.これらのうちケモチダニ科のRadfordia lemnina (Koch)は本州未記録種であつた.その他はほとんどわが国の野鼠類から屡々記録のある種類ばかりであるが, わが国の代表的な南方系ノミStivalius aestivalisが比較的多数採集されたこと, および代表的な北方系ツツガムシNeotrombicula pomeranzevi, N. microtiの両種がふたたび八甲田山地域から見出されたことはこの地域における野鼠の外部寄生虫相の複雑さの一端を示すものとして注目をひいた.