抄録
1931年, 素木博士は"Phyllodromia kumamotonis"なる新種を九州熊本産の1♀標本によって記載した。このものは日本昆虫図鑑(1950)においてスカシバチビゴキブリという和名を与えられて和文の記載が行われた。これに相当すると思われるゴキブリは, 筆者の手許には, 1952年の九州佐多岬産の1♂標本(長谷川仁氏採)にはじまり, トカラ中ノ島(宮本正一, 1953), 種子島(朝比奈, 1960;田中章, 1962), 知覧後岳(山崎柄根, 1963)などと, その後九州一円及び近海の諸島, 対馬, 伊豆御蔵島, 兵庫県赤穂, 房総半島など, 太平洋沿岸を千葉県まで分布することがわかり, 最近森本桂氏の採集された基産地熊本産の標本を見ることもできた。しかし, このものに酷似した小型のゴキブリは, 九州より琉球列島, 台湾まで含めると, 他に少なくとも4種類くらいあって, その鑑別同定は必ずしも容易でなかった。私は今まで, 仮にBlattellaまたはLiosilphoideaなどの属名を用いて, この類をリストしたこともあったが, Princisの意見(カタログ, 1969)に従えば, kumamotonisにはMargattea属を用いるのがよいことがわかった。私は1973年9月27日, 東独EberswaldeのAbteilung Taxonomie der Insekten, Institut fur Pflanzenschutzforschung, Akademie der Landwirtschaftwissenschaften der DDRにおいてKarnyの命名したSauterコレクション中の"Theganopteryx perspicillaris Karny"なるそれまで正体不明のゴキブリのSyntypeの一つ(Fig. 11)を借りることができたが, これはMargattea属の種に近いもので, 手許の馬場金太郎氏採集に係る台湾産の一群の標本に同じと思われるものであった。しかるにこの類について意見を交換していたPrincisは最近に至って(1978), アフリカのTheganopteryxを整理する機会に, 台湾産のperspicillaris Karnyにも触れ, 特に肢の爪に鋸歯があることを重視して, 新属Theganosilphaを設定し, perspicillarisをこれに含ませた。