抄録
マラリアあるいはフィラリアの媒介蚊を含むAnopheles hyrcanus種群は同胞種から成るため, それらの間の種独立性を交雑実験により調べた。実験室内累代飼育に成功した東アジア産の7者-日本産An. sinensisおよびAn. lesteri, マレーシア産An. argyropusおよびAn. nitidus, インドネシア産An. nigerrimus, An. crawfordi, An. peditaeniatus-が用いられた。その結果, An. nigerrimusとAn. nitidus間およびAn. crawfordiとAn. lesteri間では高い生存率で雑種成虫が得られたが, 未実験の一つを除き不妊であった。他の組合せでは, 雑種の死亡率が成虫まででほぼ100%となるような, 強い生殖的隔離が見られた。以上より本種群の7者は互いに独立種であり, 互いの間の分化も相当に進んでいることが明らかとなった。なお, An. lesteri雌とAn. crawfordi雄の雑種不妊雄からは, 戻し交雑により不妊卵が得られた。疾病媒介蚊であるAn. lesteriの遺伝的防除を雑種不妊雄を用いて行う方法において, この雄がそれに当ることがわかった。