2000 年 51 巻 1 号 p. 13-20
吸血に際してステフェンスハマダラカ(Anopheles stephensi)は著しく唾液を消費する。吸血中の唾液の減り方をみるために我々は, プロービング前, プロービング中, 吸血中, 吸血後といった異なる時期に蚊を捕え, 唾液腺を解剖し分析した。その結果, 唾液腺蛋白はプロービングの時だけでなく, 血液を中腸に取り込んでいるときにも減少を続けていることが分かった。次いで我々は, 吸血を終えたAn. stephensiの中腸の内容物の中に, An. stephensiの抗唾液腺蛋白抗体と反応するバンドが検出した。未吸血の中腸内容物からはこれらのバンドが検出されなかったことから, 吸血後の中腸内容物には, An. stephensiの唾液蛋白が含まれていることが示唆された。さらにネズミマラリア原虫スポロゾイトを唾液腺にもつAn. stephensiを吸血させ, 後腸から漏れ出るprediuresis液を観察したところ, その中にスポロゾイトが見い出された。蚊の唾液腺中のスポロゾイト数とprediuresis液中のスポロゾイト濃度はよく相関していた。これらの成績より, An. stephensiは血液を中腸に取り込むと同時に, 自らの唾液を取り込んでいることが明らかとなった。