抄録
前年に休眠前期のコガタアカイエカが多数飛来した東京都の都市域にある公園で,2008年秋にも同様の集団飛来が観察された.飛来の時間経過は2007年と2008年で同様で,9月中・下旬に開始し,飛来数は10月中旬にピークに達して12月に終息した.飛来したコガタアカイエカの密度は2007年よりも2008年の方が常に高く,最高密度は1時間あたり3,740個体で2007年の3.5倍であった.4月から12月の捕虫網採集によって2007年は16,892個体,2008年は29,188個体のコガタアカイエカが捕獲されたが,このうち99.9%は9月から12月に採集された.卵巣の形態観察の結果,飛来成虫の96.5% (222/230)は基部卵母細胞の発育ステージがNまたはI,あるいは基部卵母細胞と2番目のそれとの長さの比が1.5以下であり繁殖休眠の状態であった.本研究ではコガタアカイエカ以外にも11種類の蚊が採集され,このうち6種類は4月から10月の期間この公園で繁殖している種類であった.残り3種類は水田発生性の種類であり,コガタアカイエカの飛来と時を同じくして採集された.追加調査地として2008年10月中旬に2ヵ所の公園でコガタアカイエカの密度を調べた結果,公園内および公園間で平均密度の有意な違いが見られた.最も近い気象観測所のデータから9月と10月の1時間ごとの風向と風速の変化を調べたところ,飛来したコガタアカイエカの多くが北あるいは北西から風に乗って飛来してきたことが示唆された.2009年3, 4月に実施した捕虫網採集の結果,合計211雌(内4個体は吸血個体)の越冬覚醒したコガタアカイエカが捕獲され,この採集地の近くに越冬場所が存在していることが示された.リボゾームDNAのチトクロームb遺伝子あるいは16S領域の塩基配列によって吸血蚊の吸血源動物を同定した結果,2個体はヒト,1個体はネコを吸血していたと推定された.