2024 年 31 巻 3 号 p. 119-134
牛伝染性リンパ腫ウイルス(BLV)は地方病性牛伝染性リンパ腫(EBL)の原因ウイルスであり,世界中に蔓延している。経済被害は国内で年間200億円と試算されているように非常に大きい。一方で,現在有効なワクチンや治療法は存在しない。ワクチン開発が難航している理由の一つにウシ主要組織適合遺伝子複合体(MHC)(BoLA)の多型により,BLVへの疾患感受性が異なることが挙げられる。特にBLVに感受性のBoLA多型を有する個体においては免疫応答の誘導が難しく,十分なワクチン効果が得られない個体が多く,ワクチンの有効性を十分に判定できないことが課題である。そこで,我々はMHC多型と疾患感受性との関連を利用した新規Reverse Vaccinology手法により,BLVが感染しているBLV感受性牛のCD4陽性T細胞のex vivo増殖試験において見いだされた主要なエピトープをBLV感受性のBoLA多型に人為的に適応させたペプチドワクチンを作製した。このペプチドワクチンの接種では,通常ではワクチン効果の得られにくいBLV感受性牛においても,BLVプロウイルス量の低減効果が認められた。さらに野生型のGagタンパク質の全長とEnvタンパク質であるgp51の全長にBLV感受性のBoLA多型に人為的に適応させたペプチドワクチンの配列のアミノ酸変異を加えることで,BLV感受性牛だけでなく,BLV中立牛やBLV抵抗性牛でも同様に抗BLV抗体の産生が認められるウイルス様粒子(VLP)ワクチンを作製した。これにより,BLV-VLPワクチンがBLV疾患感受性の個体差を克服していることが示唆された。本総説では,ワクチンとMHCの関係について概説し,これまでのBLVワクチンの開発の状況と我々の新規Reverse VaccinologyによるBLV-VLPワクチンの開発について紹介する。