2015 年 31 巻 1 号 p. 11-17
長崎県対馬地方には,サツマイモを原料とした固有の伝統発酵食品「せんだんご」がある.せんだんごを基に作られる「ろくべえ麺」は,原料であるサツマイモからは想像し得ないコンニャクに似た独特な食感を有する.この独特な食感は,原料サツマイモ粉からは得られず,発酵によりサツマイモのデンプンと繊維質(特にペクチンの減少量が多い)が部分的に分解されたことに起因し,それらの分解に関わる微生物は製造農家や年度に関わらず製造工程中に生息しており,デンプンやペクチンの両分解能を有する糸状菌であるMucor 属やPenicillium 属であると報告されている.しかし,これら糸状菌がサツマイモのデンプンやペクチンに与える影響については,不明のままである.
そこで,本研究ではMucor 属やPenicillium 属の発酵によるデンプンやペクチンの分子量変化を検討した.はじめにせんだんごのデンプンやペクチンは原料サツマイモと比較して低分子量化していることを明らかとした.また,分離株のうち,P.echinulatum 38-1 株とP. expansum 13-3 株が,デンプンやペクチンを低分子量化することを明らかとした.P. echinulatam 38-1 株及びP. expansum 13-3 株を用いて,せんだんごを試作し,物性を評価した.その結果,試作せんだんごより調製したろくべえ麺の物性は,対馬産せんだんごから調製したろくべえ麺と同様の解析結果を得た.さらに,P. echinulatam 38-1 株及びP. expansum 13-3 株を用いて製造した試作せんだんごのデンプンとペクチンの分子量変化を検討した結果,両試作せんだんごのデンプンとペクチンは,対馬産せんだんごと同様に低分子量化していることを確認した.
以上のことから,せんだんご製造工程中に生息するP. echinulatam やP. expansum はろくべえ麺独特な食感形成に関与する主要微生物であることが示唆された.