2015 年 31 巻 1 号 p. 1-9
「せんだんご」はサツマイモを原料とした長崎県対馬地方固有の伝統発酵食品である.せんだんごはスライスまたは破砕したサツマイモを数ヶ月間発酵させた後,多量の水で洗浄して浮遊物や着色物質が除かれた白色沈殿物を丸め団子状とし,ヒトの鼻形に成型し,乾燥させたものである.せんだんごを基に作られる「ろくべえ麺」は,原料であるサツマイモからは想像し得ないコンニャクに似た独特な食感を有し,この食感は原料サツマイモ粉からは得られないとされている.せんだんご製造工程中には糸状菌などの繁殖が見られ,これらの微生物はデンプンや繊維質を部分的に分解することでろくべえ麺の食感形成に関与していると考えられる.しかし,せんだんご製造に関わる微生物について,研究報告がこれまでに無いのが現状である.
そこで,本研究では4 年間にわたり現地を調査し,培養法によりせんだんご製造工程中の微生物叢を調べた.その結果,せんだんご製造工程から多くの微生物が分離され,主要微生物群は,糸状菌ではMucor 属,Penicillium 属,酵母では Candida 属,一般細菌ではBacillus 属,Paenibacillus 属であった.
せんだんごに含まれるデンプン及び繊維質は,原料サツマイモに含まれるそれらと比べ,部分的に分解されており,繊維質の中でも減少量が多いペクチンに着目した.これを指標に,分離株の中からデンプン及びペクチン双方の分解能を持つ微生物を選抜した.その結果,Mucor 属及びPenicillium 属において両分解能を確認した.これらの糸状菌は生産農家や年度に関わらず見出せることから,せんだんごの発酵に欠かせない微生物であることが示唆された.