未来共創
Online ISSN : 2435-8010
性暴力被害とトラウマを再考する
新自由主義とポストフェミニズムの観点から
井上 瞳
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2021 年 8 巻 p. 31-63

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抄録

 本稿では、1980年代以降アメリカで展開された心的外傷後ストレス障害(PTSD)に関する言説を「トラウマのPTSDモデル」と定義する。そのうえで、このモデルの特徴を、トラウマ的出来事を経験した後も維持される自律した個人という近代的主体観を基盤とすることと規定した。このような主体観という視座から、性暴力被害と回復をめぐる日本の精神医学・心理学領域の研究を検討することで、これらの研究が、自身の情動や認知、行動をマネジメントする近代的主体観にもとづいていることを指摘した。最後に、現代の女性をとりまく社会状況である新自由主義とポストフェミニズムという文脈の中で、日本の精神医学・心理学領域における性暴力被害と回復をめぐる言説を分析した。その結果、「トラウマの PTSD モデル」は、個人の自律性に着目することで、性暴力被害者に回復の道を提示するが、現代社会においては、レジリエントな主体であることを是とする規範として作用するおそれがある点を指摘した。

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© 2021 本論文著者
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