2021 年 8 巻 p. 69-84
本稿では、人間のレジリエンスとナラティヴの結びつきを明らかにすることで、人間のレジリエンスについて理解を深めることを目指した。人間のレジリエンスにおいては、「意味の行為」という概念により示される、個人が自らの経験を意味づける行為、およびそれにより生み出されるナラティヴが、重要な要因であると考えられた。個人が危機に直面した際、その状況を理解し、適応すべく取られる行為が「意味の行為」であり、人間のレジリエンスと「意味の行為」は深く結びついているのである。また、人間のレジリエンスとナラティヴが結びつく背景として、ナラティヴが生成変化を続けるものであり、経験をネガティヴに意味づけたことによる不適応も、ナラティヴの再構成によってこそ変化しうる可能性を指摘した。加えて、ナラティヴは個人が望む行為を実行する上で必須であると同時に、個人の世界観や自己観を生み出し、人間がレジリエンスを発揮する基盤を作り上げる存在でもあると考えられた。