抄録
信頼できる蒸発量の測定は気象をはじめ、多くの科学分野で重要である。世界の気象観測業務では一日間の蒸発量をクラスAパンなどの大型蒸発計を使って測定しているところが多い。この場合、蒸発量は皿の中の水深をフックゲージで測定して求めている。そのため、風が測定に影響を及ぼすし、とくに短時間の少ない蒸発量はこの方法では求めることは出来ない。
最近、塩分測定技術が電気伝導度法を用いることによって改良され、0.003‰の精度で塩分濃度を測定できるようになった。そこで電気伝導度法を用いた塩分測定技術を応用して短時間の蒸発量でも正確に測定し得る方法をここで提案する。この方法の検討結果は以下の通りである。
この方法による蒸発量測定の相対誤差は約2.5%以下にすることができる。標本抽出誤差は4×10-4‰以下であり、海塩粒子などの降下量は海岸から300m位はなれた所で測定して3.6×10-5‰位の値に過ぎなかった。
同じ型の二つの塩水蒸発計からの蒸発量はよい一致を示し、平均自乗誤差は0.02mmに過ぎない。また、淡水蒸発計と塩水蒸発計からの蒸発量は観測時間が長いときはよく一致するが、時間々隔が短かくなるにつれて淡水蒸発計からの蒸発量が多くなる傾向がみられた。この原因の一つは淡水蒸発計の水深測定の誤差によるものと考えられる。
塩水蒸発計からの蒸発量はバルク法で求めた水蒸気の鉛直輸送量と直線関係が認められた。後者の前者に対する比は約2⁄3であった。この値は二ヵ所の野外実験で得られたもので、将来いろいろな場所で色々な大気安定度に対して実験を重ねる必要があろう。