抄録
解析力学を散逸系に拡張する目的で、粘性流体に対する解析力学の定式化を試みた。ここでは、局所平衡の原理にもとづき、エントロピーをラグランジアンに組み込む手法を用いる。非可逆熱力学におけるノイマンのエネルギー方程式を用いて、エントロピーから粘性力が導出される。しかしながら、ラグランジアンが時間反転不変性を破らないよう、ノイマンのエネルギー方程式そのものはラグランジアンには含まれない。熱流は流体の運動方程式自体には関与しないのであるが、この状況は、エントロピー流密度をエントロピー密度で割った量の時間積分を新たに場の量としてラグランジアンに導入することによって説明される。この新しい場の量の存在は、局所平衡の原理の観点からすると尤もらしいものである。以上の手続きにより粘性流体の解析力学の定式化を首尾良く行うことができる。しかしながら、この新しい場の存在は数学的には単なる予想の段階であって、厳密な証明は将来に残されている。