抄録
様々な海洋内部の初期条件や大気境界条件が、台風に伴う海面水温低下に与える影響について調べた。強い風応力、ゆっくりとした台風の移動、海洋から大気へ放出される過剰な熱フラックス、初期の混合層深度の設定そして海洋内部の水温分布は台風通過に伴う海面水温低下に影響を与える。海面水温低下はエントレインメントと湧昇の効果が混合したプロセスで生じ、海面水温低下に対する慣性振動に代表される移流の影響は小さい。台風中心付近を通過する点において混合層の深まりと海面水温低下の関係を調べた結果、初期の混合層深度に関わらず風応力の強さと移動速度の違いにより混合層深度及び水温低下は決定される。また水温低下と湧昇、エントレインメントによる混合層の深まりの割合は風応力の強さ、台風の移動速度の他、海洋の鉛直構造の違いに対しても密接な関連がある。一方で熱フラックスのみを変化させた場合、混合層の深まりに対する湧昇の効果は変化しないものの、熱フラックスが最大800W/m2に達する状況では、熱フラックスを与えない場合に比べ、混合層水温は約0.7°C低下した。このようにエントレインメントによる混合層下部における水温低下は混合層水温低下に影響を与える。
海洋気象観測船啓風丸によって観測された台風Rexによる約3°Cの水温低下を理解するために、数値シミュレーションを行った。モデルによって計算された水温変動は、海面水温の急激な低下や約3°Cの海面水温低下といった観測の特徴を良くとらえていた。モデルの計算結果から、この水温低下は台風による強い風応力と遅い移動速度に生じていたことを確認した。更にモデルにより計算された水温を使用して計算された海洋熱容量は台風強度の時間変化とよい関係を示していた。