Papers in Meteorology and Geophysics
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原著論文
盛夏期の東シナ海における特異な台風の構造とそれに対する環境の影響
北畠 尚子
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2002 年 53 巻 2 号 p. 59-73

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抄録

 北西太平洋の台風には気象庁 (1990) がSH型としている特異な性質を持つものがある。この一例として、盛夏期に東シナ海で不規則な動きをした台風0006号 (アジア名Bolaven) の解析を行った。この台風はtyphoonの強度には達しなかったもので、背の高い対流雲を南側のみに持ち、北側は中上層に乾燥した空気を伴っていた。そしてこの乾燥空気側の方が湿潤空気側よりも高温のため、この台風は中層で傾圧性を持っていた。しかし地上では典型的な台風に類似した風分布を持っていた。
 台風0006号の構造と環境の関連について、気象庁の客観解析データを用いて解析を行った。ライフサイクルの前半には、台風は強いチベット高気圧の南東側に位置し、対流圏上層でチベット高気圧東縁の強い北風が台風の北側で収束し、また台風の南側では西向きの流れにより発散が生じていた。これはチベット高気圧と台風によるジオポテンシャル高度場の曲率と、それに伴う慣性安定度の地域分布によると思われる。また対流圏中層では、大陸上の高温空気により、北西太平洋上空では東西方向の温度傾度が生じていて、それと台風の循環により温度移流が生じていた。これらにより鉛直運動の非対称分布が生じ、また台風の移動も不規則になったと考えられる。
 その後、対流圏上層の大規模場は大きく変化したが、台風は中層では南北が逆転した傾圧性擾乱の構造を維持していた。このことは、特定の環境下で組織化した非対称な台風の構造が、中層におけるtiltingによる前線強化によりある程度は維持されうることを示唆している。

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© 2002 気象庁気象研究所
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