抄録
メダケの赤衣病は Stereostratum corticioides の夏胞子を接種すると,稈や枝の節部に発病することが明らかにされている (何ら,1991).今回,トウゲダケ赤衣病の自然病徴を観察し,葉鞘裏にある側芽に冬胞子堆が形成されているのを認めた.この場合,稈は発病していなかったことから,赤衣病菌は葉鞘裏面から侵入し,組織の柔らかい側芽あるいは葉鞘より感染する可能性が考えられた.本研究では,赤衣病菌の感染経路として,葉鞘裏面から侵入するか否かを検討した.(1) 夏胞子懸濁液を鉢植えのチマキザサとメダケの葉鞘裏面から注射接種した結果,それぞれ2ヶ月後に初期病徴の黄色筋が葉鞘表皮に現れ,3ヶ月後に冬胞子堆が形成された.チマキザサの罹病葉鞘を1枚ずつ剥いでいくと,葉鞘裏面から発病しているのが確認された.また,メダケの罹病葉鞘を剥いだところ,内部の稈には発病が認められなかった.これらのことから,赤衣病菌の夏胞子は節部に加え,葉鞘裏面からも感染することが明らかとなった.(2) 担子胞子をチシマザサ幼芽 (タケノコ) の切離葉鞘の裏面表皮細胞に接種すると,発芽菌糸が角皮侵入し,組織内に菌糸を蔓延させていることが観察された.次に,担子胞子懸濁液を鉢植えのトウゲダケの着生葉鞘の裏面から注射接種した結果,6ヶ月後に初期病徴の黄色斑が稈上に現れた.このことは赤衣病菌の担子胞子がササ・タケの葉鞘裏面から侵入し,感染を引き起こす可能性を示唆する.これまでの接種試験結果から自然界においては,主として梅雨の時期に冬胞子の発芽が起こり形成された担子胞子は,雨で流下して葉鞘と稈の間に留まりその場で発芽した後,葉鞘裏面あるいは基部の側芽などの柔らかい組織を通って稈に侵入するものと考えられた.