抄録
東南アジア熱帯地域では,巨大なバイオマスを有する森林がきわめて多様な樹種によって構成されている.現在,東南アジアの熱帯林は急速に減少しており,多孔菌群集も人為活動の影響を受けていることが明らかにされつつある.その一方で,東南アジア熱帯地域における多孔菌類の資源利用様式についてはほとんど明らかにされておらず,そもそも,どのような多孔菌群集が原生林において形成されているかについても研究例は十分ではない.そこで本研究では,低地フタバガキ林において,どのような多孔菌群集が形成され,そのなかの優占種が,どのような樹種,サイズおよび腐朽段階の大型樹木遺体(CWD)を利用しているかを明らかにすることを目的とした.
調査はマレーシア国サラワク州東部に位置するランビルヒルズ国立公園において,2006年5-6月と12月に行った.公園内に100 m×10mのトランセクトを12本設置し,倒木及び落枝から発生していた全ての多孔菌子実体を採集し,子実体が発生していた部位の材直径と腐朽段階を記録した.樹種については,あらかじめ行われている毎木調査の結果と,子実体が発生していた倒木の樹幹に取り付けられたタグの番号とを照合させて特定した.また,2006年6月に公園内に設置されている約5kmのトレイルにおいて,トレイルの中央から両幅4m以内に発生していた多孔菌子実体を対象として,子実体が発生していた部位の材直径と腐朽段階を記録した.採集された子実体は種まで同定した.
解析は今後行うが,トランセクト調査から得たデータを群集構造の量的特性に関する解析に用い,トランセクト調査およびトレイル調査のデータを多孔菌類の資源利用様式に関する解析に用いる.講演では,これらの結果について報告する.