日本菌学会大会講演要旨集
日本菌学会第52回大会
セッションID: P084
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ポスター発表
亜熱帯環境下の森林土壌からの新規Dark-septate endophytic fungus, Veronaeopsis simplexの獲得
高倉 宗一郎*成澤 才彦
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抄録
植物は多種多様な微生物と相互依存の関係を保ち生育している。微生物と良好な相互依存の関係にある植物は、病害虫にも強く、貧栄養や低温などの環境ストレスにも耐えることが知られている。最近、貧栄養環境下の森林土壌、およびそこに自生している植物根部に生息している菌類 Dark-septate endophytic fungi(DSE)の生態に関する研究が行われ、DSEが、アブラナ科植物と物質交換を伴う相利共生関係にあることが初めて証明された. DSEは、現在までに形態的および分子生物学的データより5種が報告されている。しかし分離されたフィールドは、全て冷涼環境下の森林土壌であり、南方地域における研究は皆無である。そこで本研究では、同菌類を効率よく得られる釣餌法を利用して、沖縄や屋久島等、主に西南暖地における新規DSEを得ることを目的とした。沖縄県石垣島、鹿児島県屋久島、宮城県および茨城県の各地域で表層0~20cmの土壌を採取した(森林土壌:17サンプル,その他土壌(畑,砂地等):4サンプル、1サンプル約1kg).その土壌サンプルでハクサイ,ナスを約1ヶ月間育苗し、宿主根部に定着する菌類を釣餌法で分離した.分離した菌株をコロニーの形態によってグループ分けし、石垣島より293菌株・49グループ,屋久島より469菌株・61グループ、宮城県より416菌株・41グループ、茨城県より444菌株・46グループを分離した.各グループより無作為に代表菌株を少なくとも1菌株を選抜し,実験室内でハクサイに対する病原性試験を行った.石垣島から分離したすべての菌株は宿主の生育を阻害したが,屋久島では7菌株、宮城および茨城からは各1菌株が明らかな病徴を示さなかった.8菌株はナス根、残りの1菌株がハクサイ根から分離された。さらに,宿主根を回収し,再分離を行い、顕微鏡下で観察したところ、全ての菌株で内生能を有することが確認された.これら菌株の形態観察およびrDNAのITS領域シーケンスデータの相同性の比較にて同定を行ったところ,屋久島および茨城から分離した各1菌株がVeronaeopsis simplexと同定された.このV. simplexは,現在までに報告されているDSEのグループに含まれていないため,新たなDSE種として提唱したい.今後、近年問題化している地球温暖化が進行した環境においても、植物と相互依存の関係を継続できるかどうか、温暖環境下の作物生産への利用を検討する。
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© 2008 日本菌学会
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