ミヤコグサ [Lotus japonicus L. (= Lotus corniculatus L. var. japonicus)] はマメ科植物の分子遺伝学的研究等のモデル植物として広く利用されている．Takeuchi et al. (2007) は，本植物に発生した根腐性病害がFusarium solani (Martius) Saccardoによって引き起こされることを立証し，これを根腐病 (Fusarium root rot) と名付けた．現在のところ，本植物において確認された菌類病はこの根腐病のみであり，ミヤコグサとF. solaniの親和性が植物と病原性菌類の相互作用研究における新たな実験系として活用できるものと期待されている．さて，本病原菌株 (MAFF240020) は，rDNA ITS (+5.8S) 領域の塩基配列 (AB258993) が，ホモタリック菌種のHaematonectria ipomoeae (Halsted) Samuels & Nirenberg [不完全世代: Fusarium striatum Sherbakoff] (Rossman et al., 1999) の既知菌株と高い相同性 (AF178398と99.0%) があったものの，同菌種であれば単独でも形成されるはずの完全世代が認められなかったことから，次に高い相同性 (DQ164845と98.7%) を示して形態上も矛盾がなかったF. solaniと同定していた．今回，演者らはその完全世代を確認したので報告する．V-8ジュース寒天平板培地，25ºC，近紫外線下で生じた子嚢殻は赤～濃赤色，先端に乳頭状孔口を有し表面に瘤状突起がある類球形，大きさ350–450 × 230–390 μm，殻壁幅57–87 μmで，KOHと乳酸に対し陽性であった．子嚢は無色，先端にリング構造がある棍棒形で，8つの子嚢胞子を2列に含む．子嚢胞子は無色，表面に条線のある紡錘形，1隔壁，大きさ12–20 × 5–7.5 μm．以上より，本菌株をH. ipomoeae [不完全世代: F. striatum] と再同定した．本同定結果はペプチド鎖延長因子 (translation elongation factor 1) 領域の塩基配列に基づく分子系統解析からも裏付けられた (AF178333と98.0%)．
Takeuchi et al. (2007) Journal of General Plant Pathology 73: 336–341
Rossman et al. (1999) Studies in Mycology 42: 134–137
