日本菌学会大会講演要旨集
日本菌学会第52回大会
セッションID: S4-2
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植物に狙われる菌類 - 菌従属栄養植物研究の最前線 -
菌糸で繋がれる森の植物-菌根菌ネットワークの実態を探る-
*松田 陽介
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抄録

森林生態系に生育する多種多様な植物の根系には,菌根菌と呼ばれる土壌菌が定着しており,個々の宿主植物-菌根菌の間で菌根共生系を構築している.さらに隣接する植物個体間においても,菌根菌の菌糸の繋がり,いわゆる菌根菌ネットワークの構築が示唆されはじめている.本発表では森林生態系における菌根菌ネットワークの実態を明らかにするため,演者らがこれまでに調査してきた菌根共生系を概観し,土壌中における菌根菌の菌糸の繋がりとそれに関わる菌根菌について紹介する.森林の林冠を構成するモミを対象として,10×30 mのプロット内に生育する成木とその実生に形成された菌根の種類とその形成に関わる菌の分類属性を調べた.いずれの根系にも外生菌根が形成され,数十種の菌根菌の定着が示唆された.成木,実生ともに最優占する種はベニタケ属の一種であった.2次林に生育するキンランを3調査地から7個体,ギンランを2調査地から3個体採取した.それらの根には典型的なラン菌根が形成されており,キンランの菌根形成率は14%から63%,ギンランのものは57%から68%であった.菌根から得られた菌由来の塩基配列はキンラン4個体がイボタケ科,3個体がロウタケ科,ギンラン3個体はイボタケ科と最も類似していた.無葉緑性であるギンリョウソウを採取し,その根を観察した.いずれの個体にも,モノトロポイド菌根の形成が確認された.さらにその形成に関与する菌は,ベニタケ属,チチタケ属に属するベニタケ科,さらにイボタケ科に属するものと示唆された.二次林の林床に生育するイチヤクソウの根系を観察した.それらには採取時期を問わず,アーブトイド菌根の形成が確認されたが,菌鞘の形成は確認されなかった.この菌根の形成に関与する菌の特定は現在進行中である.これまでに得られた上記の植物の定着に関与する菌群は,いずれも外生菌根菌に属している.以上のことから,異なる菌根タイプを形成する植物群であっても,類似の菌根菌群の定着の関与が考えられた.これらのことを踏まえ,菌根菌ネットワークの生態的な意義について過去の関連研究も踏まえて議論したい.

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© 2008 日本菌学会
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