抄録
博物館は「資料収集、保管、展示、普及教育、調査研究」を行う施設とされる。自然史系博物館も例外ではない。昆虫や恐竜が並ぶ展示室だけに博物館の実態があるのではなく、学芸員の研究、数多くの観察会、館内に蓄積されたその地域の生物相の変遷を示す標本群にこそ、博物館の本質がある。このために、博物館は展示のために興味本位で変わった生物を収集するのでなく、環境管理のために必要な生物の目録作り(インベントリー)の支援装置として体系的な収集を行う(吹春、1999)。菌類に関わっても新種登録や地方菌類誌などに機能発揮する例が見られている。
これまでも、各地の博物館は学芸員達の活動によって個々にユニークな活動を展開してきているが、近年これらの活動をさらに高めるためのいくつかの試みがされている。
1.大阪自然史センターによる「博物館コミュニティ」の拡大:大阪市立自然史博物館友の会が基礎となって形成された同NPOがプラットフォームとなり、アマチュアから自然保護団体、研究者の交流を促進している。菌類アマチュア・研究者も他分野の刺激を得ることは重要である。
2.西日本自然史系博物館ネットワークによる広域連携:各地の自然史系博物館学芸員を中心に、草の根からの連携を図る団体として2004年に設立された。「凍結乾燥機技術交流会」など博物館活動のレベルアップを図るための活動から、後世に残すべき標本を、地域を越えて確保するための「標本救済ネットワーク」などさまざまな活動を行っている。
3. サイエンスミュージアムネットによるGBIFへの標本情報の国際発信:国立科学博物館が前出の西日本自然史系博物館ネットワーク加盟館を中心に全国の自然史系博物館と連携して行っている標本情報の連携データベース。菌類情報も数多く登録され、標本を利用した各種の研究を促進するための重要なインフラストラクチャーになっていくものと期待されている。