日本内科学会雑誌
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異所性ホルモン産生腫瘍
阿部 薫
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1981 年 70 巻 6 号 p. 821-833

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抄録

異所性ホルモン産生腫瘍が初めて発見されたのは20年前にすぎないが,以来多くの症例が興味ある臨床例として報告されている.しかし最近,臨床的には全くホルモン過剰の臨床症状,所見を示さないような例についても,腫瘍組織を抽出し,ホルモンの測定が積極的に行なわれた結果,ほとんどの腫瘍はまずホルモンを産生しており,現在では,ホルモン産生は腫瘍化に伴う普遍的な現象とさえ考えられている.そして臨床的には,明らかなホルモン過剰の症状,所見(異所性ホルモン症候群)を呈する例と,このようなものを全く認めない,無症状性異所性ホルモン産生腫瘍に分けて考えられている.腫瘍におけるホルモン産生がこの様に普遍的なものであるなら,次のようなことが考えられる.すなわち, (1)tumor markerになり得るかという問題に関しては,現在の測定法,感度では,血中ホルモン値が高い場合を除いてはtumor markerとして用いるのはまず無理である. (2)腫瘍性ホルモンと正常のものとの異同については,現在までの成績によれば,ポリペプチドは腫瘍性と正常のものでは変りがない.しかし, ACTH, LPHの代謝産物であるCLIP, β-MSHは正常では存在せず,腫瘍に特異的であり,測定が可能となれば勝れたtumor markerになり得ると考えられる. (3)腫瘍におけるホルモン産生は腫瘍細胞の持つ一つの性格と考えられるため,肺癌例について腫瘍のホルモン産生と患者の予後を検討したところ,ホルモン産生を示す腫瘍の予後は悪いという傾向が認められた.しかしこの問題についてはその他の種々の因子を含め,今後の詳細な検討が必要であろう.

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