慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,タバコ煙などの有害物質を長期に曝露することで肺気腫を生じる.近年,加熱式タバコが急速に普及しているが,長期使用の安全性が現時点では検証できない.筆者らは加熱式タバコをマウスに長期曝露させた結果,燃焼式タバコと同様に肺気腫が生じることを見出した.『加熱式タバコの長期使用によるCOPD』について,基礎・臨床の両面から研究を継続し,広く社会に発信することが重要である.
息切れ(呼吸困難)は,単一の感覚でなく複数の感覚から構成され,空気飢餓感や呼吸努力感等の呼吸感覚に加えて,不快感,不安や恐怖のような情動的側面も含有した多次元的表現型を示す包括的感覚である.疾患非特異的な呼吸困難緩和の非薬物療法には,顔面送風,胸部・頸部振動刺激,星状神経節近赤外線照射,メンソール嗅覚刺激などがある.それぞれ作用部位が少しずつ異なると考えられ,組み合わせ効果が期待される.
ヒト収縮培養骨格筋のセクレトーム解析から,300を超える分泌蛋白質が検出され,遠隔標的臓器に作用するメディエーターとしてマイオカインと命名された.マイオカインの一つであるアイリシンは,慢性閉塞性肺疾患(COPD)における気腫化との関連が明らかとなっている.COPDにおけるセデンタリー行動は健康寿命延伸の観点から介入点と注目されている.身体活動性向上の重要性をマイオカインの視点から概説する.
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,肺の慢性炎症を特徴とする疾患であり,好中球性炎症や,Type 2炎症を標的とした抗体製剤の開発が行われている.好中球性炎症を標的としたTNF-α抗体などの有効性は示されていないが,Type 2炎症については,血中好酸球増加を伴う症例において,IL-5やIL-4/IL-13阻害薬の有効性が示されている.PDE4阻害薬は,経口薬の有害事象が多く,吸入薬の開発が進められている.
慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)に伴う呼吸不全においては,安定期および増悪期に対して酸素療法,非侵襲的換気療法(non-invasive positive pressure ventilation:NPPV),高流量鼻カニュラ酸素療法(HFNC),挿管人工呼吸といった呼吸管理を適切に使用する必要がある.安定期においてはHFNCが2022年の診療報酬改定において,在宅での使用がCOPDに対して保険適用となり今後さらに広まっていくことが予想される.安定期および増悪期の呼吸管理のアップデートを行う.
慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)では,高率に栄養障害を認めるため,栄養スクリーニングツールを活用し,定期的に栄養評価を行う.COPDにおいては,必要エネルギー量が増加するため,食事を4~6回の分食にする,経腸栄養剤を併用するなどの工夫が必要である.近年,一部の栄養素や食品がCOPDの発症に関与していることが指摘されており,患者の生活習慣を含めた食習慣を把握することが重要である.そのためには,管理栄養士,看護師,理学療法士などによるチーム医療が望まれる.
肺気腫の外科治療には,気腫の強い部分を切除して残存肺の換気を改善させるLung Volume Reduction Surgery(LVRS)と肺を取り換える肺移植がある.LVRSは,上葉優位型の肺気腫に適応され,高齢者にも行える術式である.残存肺の肺気腫は進行するため,平均4~5年でその効果は消失する.肺移植は,より重篤な60歳未満のびまん性肺気腫に対して行われ,機能改善は著明である.慢性拒絶反応や感染症の克服が課題である.
慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)の診断基準には,スパイロメトリーによる1秒率の低下が含まれる.一方で,スパイロメトリー上は呼吸機能が低下しているものの,1秒率が正常であるためCOPDの診断基準には当てはまらない集団が存在し,COPDの前段階またはサブタイプとして近年報告されている.本稿ではCOPDの周辺疾患として概説する.
35歳,女性.COVID-19発症後に血尿と紫斑が出現した.溶血性貧血を伴う著明な血小板減少から後天性血栓性血小板減少性紫斑病(aTTP)を疑い血漿交換とステロイド療法を開始した.ADAMTS13活性低下とADAMTS13インヒビター陽性からaTTPと診断したが,難治性であり寛解に至るまでにリツキシマブの投与と25回の血漿交換を必要とした.COVID-19発症後の血小板減少症ではaTTPも考慮し,疑われる際は迅速に血漿交換を開始し適切な免疫抑制療法を行うことが重要である.
40歳代,女性.生体腎移植30年後に意識障害,運動性失語が出現した.頭部MRIで両側前頭葉,頭頂葉に多発する腫瘤性病変を認め,右頭頂葉より生検を施行した.病理所見ではCD20陽性細胞を認め,中枢神経原発移植後リンパ増殖性疾患(PCNS-PTLD)と診断した.移植後免疫抑制状態の患者における神経症状出現時は長期に亘り,移植後リンパ増殖性疾患を考慮する必要がある.
症例は26歳男性.姉が原発性線毛機能不全症(primary ciliary dyskinesia:PCD)により23歳で死亡.幼少期から胸部異常陰影,痰が多いことを自覚も精査していなかった.X年10月に息切れ,嗅覚異常を主訴に受診した.慢性副鼻腔炎,閉塞性呼吸障害,気管支拡張,内臓逆位を認めた.PCDの疑いで複十字病院へ紹介した.鼻腔NO産生量の低値,鼻粘膜細胞の電子顕微鏡検査で線毛構造異常,CCDC40の遺伝子異常を認め,典型的な三徴を伴うPCDとしてカルタゲナー症候群と診断した.
筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)は致死的な神経難病の一つで,十分な治療法が無く,病因解明と治療薬開発が切望されている.近年,患者の遺伝学的背景を保持するヒトiPS細胞モデルを用いた新たな創薬スタイル(iPS細胞創薬)が世界的に黎明期を迎えている.iPS細胞創薬とドラッグリポジショニングを用いたALS治療薬候補の開発が進んでおり,患者運動ニューロンモデルおよび多角的な薬剤効果評価指標を用いた既存薬スクリーニングによって,ロピニロール塩酸塩が見出された.さらに,ALS患者に対するロピニロール塩酸塩を用いた治験(ROPALS試験)により,安全性と忍容性が確認され,病態進展を抑制する効果も示唆された(iPS細胞創薬の臨床PoC).また,被験者iPS細胞を用いた検討から,細胞内コレステロール生合成経路の抑制が作用機序の一つであると同定された.今後,iPS細胞創薬を活用した薬剤開発が進むことが期待される.
細胞死は,事故的な細胞死と制御性細胞死に大別される.中でも,フェロトーシスはその概念が2012年に提唱された,鉄介在性の過剰な脂質酸化を特徴とする制御性細胞死の一種である.近年の研究の進展により,フェロトーシスを制御する細胞内プロセスが同定されつつあり,病気の観点においては急性臓器障害や神経変性疾患,がんの進展抑制などの病態におけるフェロトーシスの関与が注目されている.腎臓の病態においては,フェロトーシスは特に虚血再灌流障害の病態への関与が広く調べられているとともに,その他の腎臓病への関与も報告が相次いでいる.したがって,フェロトーシスを標的とした治療介入がこれらの病気の新たな治療戦略になることが期待されている.