Multi-problem症例とは,複数の疾患を併存し心理・社会的など様々な背景を有する患者で,Multimorbidityの患者,困難事例とオーバーラップし相互に関連していると考えられる.医療とともに介護・福祉と密接に関連するため,特に高齢者で注視すべきである.我が国におけるMulti-problem症例対応の現状を理解する上で,我々が行ったMultimorbidity高齢者への診療アプローチ(診療困難な疾患・コンディション,診療困難な患者背景,診療で重視する臨床要素,診療で重視する対応法)に関する調査結果や,困難事例に対する我が国における具体的アプローチ(連携と事例検討)の実際が参考になる.今後,ますます増加するMulti-problem症例対応の,実証データの蓄積が期待される.
在宅医療におけるMulti-problem症例の対応法は大きく2つに分けられる.一つは多病,ポリファーマシーに対して,高齢者総合機能評価,患者との信頼関係に基づくコミュニケーションにより個別のケア計画を策定するという患者中心の方法.もう一つは,地域の社会資源を熟知し,在宅医療システム,医療介護連携,地域包括ケアシステムなどさまざまなレベルでの連携で対応していく方法がある.
Multi-problem症例は個別性が高い対応が求められる.外来診療の場で,Multi-problem症例を包括的に診療する上で心がけるべきアプローチ法と,地域医療の現場での連携の実際をまとめた.今後,地域医療を支える医療者の教育とキャリアプランの整備が求められる.
Multi-problem状態はmultimorbidityよりも広い概念で,さらにそれが複雑度によって修飾される.それらの各要素は相互作用を起こし,1つの要素だけを,他の要素に影響を与えずに変更することは不可能に近い.そのため,全体を全体として捉えるシステムアプローチなしに,そのような患者診療をすることは不可能で,それこそがgeneralistの専門性の根幹である.
外来や在宅診療におけるMulti-problem症例への対応において,統合的な診療を当てはめるアプローチを紹介し,事例を用いながら幅の広い問題把握,患者を中心とした全体像の把握,医療側と患者側との共通認識の上でシステム思考により進めるといった点に注意しながら複雑な問題解決の糸口を探る.また,継続性や予防といった日常診療に役立つと思われる視点にも触れる.
高齢者・Multi-problem症例への対応を困難とする要因の一つは不確実性とジレンマの増加である.その中で最善の医療を考えるには,患者と医療者が不確実性を共有し一緒に考えるShared Decision Makingが重要となる.地域医療における高齢者・Multi-problem症例への対応の問題点,総合内科の果たすべき役割を考察するとともに,患者中心の医療の実践に向けた加古川中央市民病院総合内科のあるべき役割とその実現に関する戦略・実践を紹介する.
高齢化を反映し複合疾患患者が増えている.さらに家族が不在,または家族がいるが高齢,機能低下,遠方などで代理意思決定者が不在であったり,家族支援が脆弱であったりなど社会背景も複雑になってきている.また価値観も多様化してきている.そういった患者が急性期病院に入院され,患者にとっても医療者にとってもジレンマを感じる意思決定をする場面が増えている.「これでよかった」と思ってもらえる意思決定にするにはどうすればよいか解説する.
超高齢社会において大学病院がその役割を担い続けるために,横断的診療を専門とする診療部門は,multi-problem患者の診療に貢献しうることを臓器別専門医に知ってもらい,両者が連携してmulti-problem診療を行う体制を構築すること,multi-problem診療に携わる医師を育成することが重要だ.その上でmulti-problem診療での連携が,アウトカムを好転させるというエビデンスを創出する必要がある.
SARS-CoV-2ワクチン未接種の45歳男性.軽症COVID-19に罹患した4週後に発熱,紅斑,炎症反応上昇および多臓器障害とショックをきたし入院した.先行するCOVID-19の病歴と症候・検査異常から成人多系統炎症性症候群と診断し,副腎皮質ステロイドで速やかに状態が改善した.本症候群の特徴は,COVID-19罹患約4~8週後に生じる高サイトカイン血症および多臓器障害である.COVID-19後の高度炎症を伴う多臓器障害では本症候群を鑑別に挙げる必要がある.
39歳女性.6年前からの発作性の多彩な神経症状と脳波異常所見から側頭葉てんかんの診断で抗てんかん薬が多剤投薬されていたが,症状改善を認めなかった.意識障害で救急搬送された際に初めて低血糖を指摘され,内分泌学的精査の結果インスリノーマの確定に至った.低血糖による中枢神経症状はてんかん症状と類似し鑑別困難な場合もあるが,糖質摂取後の症状改善を確認することが簡便かつ有用な問診項目である.
39歳男性.4年前からの周期性の発熱,間欠的な胸腹部などの疼痛のため当院紹介となった.紅斑様皮疹もあり家族性地中海熱を疑ったが,コルヒチンは無効でMEFV遺伝子変異は認めなかった.TNFRSF1A遺伝子にp.Thr90Ileのhetero変異を認め,TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)と診断した.プレドニゾロンは無効でカナキヌマブが奏効した.TRAPSは自己炎症症候群の一つで常染色体顕性遺伝が多いが,家族歴のない成人発症例もある.
食物アレルギーは乳児が最も多く罹患し加齢に伴い徐々に低下し,成人での臨床的重要度は少ないと思われていた.しかし近年,大人の食物アレルギー疾患が増加し注目されている.成人ではIgE非依存性食物アレルギーがより重要であり,海外で特に有病率が増加している.好酸球性食道炎は本邦でも増加しつつあり,原因抗原の特定が困難なことから今後難治例が増加することも予想される.海外では新薬も上市されている.セリアック病は細胞性免疫が機序であるが西欧での有病率は極めて高い.グルテン除去食が治療の基本となるが根治療法はなく,社会的にグルテン除去食が入手できる環境が必要である.長期グルテン除去食に伴う脂肪肝が問題となり,新たな治療薬の開発が進んでいる.本邦ではセリアック病の有病率はまだまだ低いが確実に罹患者はおり,今後増加するか慎重に見届ける必要がある.
狭心症症状を有する患者の半数以上は,冠動脈に器質的な閉塞病変を有さないことが報告されている.閉塞性病変が無いが故に非心臓性胸痛と誤認されかねない疾患群であるが,2017年に“冠動脈閉塞を伴わない心筋虚血(ischemia with non-obstructive coronary artery disease:INOCA)”という疾患概念が提案され,冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害が2大成因,エンドタイプと考えられている.その後,INOCAのエンドタイピングに向けた包括的・侵襲的診断手順が推奨され,一部のランダム化比較試験では,層別化されたエンドタイプ特異的薬物治療戦略も報告された.いまや虚血性心疾患を扱う内科医には,このINOCAの2大要素である冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の病態と診断,治療と予後を認識し,適切な精査加療に導くマネジメントが求められる.