咳嗽と喀痰は,医療機関受診時の主訴として最も多い症候であるため,全ての臨床医が日常診療で遭遇する可能性がある.従って,咳嗽と喀痰を来たす病態や疾患を十分に理解しておくことが重要である.肺結核や肺癌等診断と治療が急がれる疾患,慢性呼吸器疾患等専門医による診療が必要な疾患を鑑別する.また,咳嗽と喀痰の治療の基本は,原因疾患に対する治療を行うことであり,鎮咳薬や喀痰調整薬は対症療法である.
吸入ステロイド薬(inhaled corticosteroids:ICS)/長時間作用性β2刺激薬(long-acting β2 agonist:LABA)による喘息治療の普及により,喘息死は著しく減少し,多くの患者は健常者と変わらない日常生活を送ることができるようになった.しかしながら,2018年に実施されたJapan National Health and Wellness Survey(NHWS)の調査では,吸入薬にアドヒアランスの高い喘息患者であっても35.6%はコントロール不十分であることが示され,未だ課題も残されている.2020年,長時間作用性抗コリン薬(long-acting muscarinic antagonist:LAMA)の追加使用に関する大規模研究の報告が相次ぎ,また,ICS/LABA/LAMA 3剤配合薬が登場したことから,喘息治療のさらなる発展が期待される.本稿では,喘息吸入薬の開発の歴史を振り返りながら,吸入薬を主体とした今日の喘息治療を概観し,3剤配合薬の特徴と治療における位置付けについて解説する.
抗線維化薬の登場により,従来,抗炎症薬療法しか行えなかった間質性肺疾患(interstitial lung disease:ILD)の治療が大きく変化している.進行性線維化を来たすILDに対しては抗線維化薬が適応になることより,初診ILD患者の状況を早急に見極めることが必要である.そのために,一般内科医によるILDの十分なスクリーニング,呼吸器専門医による適切な検査と多職種による議論を交えた診断・治療が必要となり,これまで以上に連携した医療が必要となる.
近年,薬物療法の進歩により,進行肺癌患者の予後は大きく改善している.分子標的薬の適応判断には正確な分子診断が必須であり,いかに治療開始前に遺伝子検査を迅速且つ確実に提出できるかがカギとなる.分子標的薬の治療適応がない場合でも,組織型・PD-L1(programmed cell death 1-ligand 1)発現率をもとに適切な治療方法を検討する必要がある.また,高齢患者に対しては,暦年齢のみで判断せず,治療目標を共有したうえで機能評価結果に基づいた最適な治療の提案を心掛ける.
非結核性抗酸菌症は,本邦をはじめとして世界的に患者数が増加している.環境に存在する菌で環境から曝露して発症するが,特殊な事例以外は人から人への感染はない.本邦で患者数が多いのは,Mycobacterium avium complex症,M. abscessus症,M. kansasii症であるが,M. kansasii症以外治療反応性は不良で,一旦菌陰性化が図れても,治療終了後再発・再治療が高率に生じる.適切な指導による患者の理解,治療の策定が重要である.
あらゆる薬剤,健康食品,サプリメントが薬剤性肺障害の原因となり得る.特に近年では,幅広い疾患領域で分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬等の新規薬剤の適応が広がり,さまざまな専門領域の医師が薬剤性間質性肺炎の診療に関わる機会が増加している.これら薬剤の投与時には慎重な事前評価及び投与中のモニタリングを実施し,異常を認めた場合には速やかに呼吸器内科医と連携しつつ,適切な対応を取っていく必要がある.
医療・介護関連肺炎(nursing and healthcare-associated pneumonia:NHCAP)は,超高齢社会の本邦において頻度が高い疾患である.日本呼吸器学会より「成人肺炎診療ガイドライン2017」が出版され,NHCAPだけでなく,市中肺炎や院内肺炎の診断と治療が,一般内科医において容易となった.また,肺炎治療時によく経験する治療不応時の対応についても記載されており,「成人肺炎診療ガイドライン2017」はNHCAPのトータルマネージメントにおいて大変有用である.
症例は26歳の男性で,発熱と腰背部痛を主訴に外来を受診した.血清クレアチニン1.81 mg/dlと上昇がみられ,病歴の再聴取により,発症12時間前に無酸素運動を行っていることが判明した.運動後急性腎障害(acute renal failure with severe loin pain and patchy renal ischemia after anaerobic exercise:ALPE)を強く疑い,確定のための画像診断を考慮したが,気管支喘息の既往もあったことから造影CT(computed tomography)施行がためらわれた.代替検査としてMRI(magnetic resonance imaging)撮像を施行し,拡散強調像で両側腎に楔状の高信号域を認め,ALPEと確定診断した.
70歳,男性.腹痛,血便にて救急外来を受診.CT(computed tomography)では直腸壁肥厚を認め,S状結腸鏡では上部直腸に潰瘍を認めた.入院24時間後に心肺停止の状態で発見された.死後CTと剖検にて直腸周囲のガス壊疽,産生された大量のガスによるガス塞栓と診断された.直腸生検培養,剖検での肝組織培養からClostridium septicum(C. septicum)が検出され,本菌による電撃型非外傷性ガス壊疽と診断した.剖検にて偶発的な盲腸癌が発見され,侵入門戸と考えられた.
77歳,男性.間質性肺炎にて当院通院中.圧迫骨折にてリハビリ入院中に体動時の酸素化悪化にて当院転院.間質影は不変も,門脈と左腎静脈を結ぶ拡張した血管構造を認めた.右左シャントの存在,肺底部優位の血管拡張,座位での著明な酸素化悪化を認め,先天性門脈体循環シャントによる肝肺症候群と診断した.コイル塞栓によるシャント血管の閉塞を行い,10カ月後には酸素化は改善傾向となり,日常生活動作は改善した.
アミロイドーシスは,以前は有効な治療が全く存在せず,生命予後不良な難病であったが,近年,病態に基づいた疾患修飾療法が次々と開発されている.遺伝性ATTRアミロイドーシスに対しては,TTR(transthyretin)四量体安定化薬であるタファミジスが開発され,本症患者の末梢神経障害及び心筋症の進行を有意に抑制することが示された.さらに,TTR mRNA(messenger ribonucleic acid)を標的としたsiRNA(small interfering RNA)製剤であるパチシランの本症に対する有効性も証明され,世界初のsiRNA治療薬として認可された.野生型ATTRアミロイドーシスは,高齢者の心不全や手根管症候群の主要な原因であることが明らかとなり,近年注目されている疾患である.本症に対してもタファミジスの有効性が証明され,初の本症治療薬として認可された.また,複数の核酸医薬の第III相試験も進行している.ALアミロイドーシスに対しては,自己末梢血幹細胞移植併用大量メルファラン療法や骨髄の異常形質細胞を標的とした新規の化学療法により,近年予後が劇的に改善している.
糖尿病性腎臓病(diabetic kidney disease:DKD)は糖尿病の血管合併症の1つであり,典型的な臨床所見としてアルブミン尿を呈する.厳格な血糖管理やレニン・アンジオテンシン系阻害薬を用いた降圧療法等による集学的治療の確立によりアルブミン尿の減少が得られ,DKDの予後は大きく改善してきている.一方で,肥満や高齢化といった,糖尿病患者の臨床背景因子の多様化により,顕性アルブミン尿を伴わずに腎機能低下を来たす患者群の割合が増加するといった変化もみられ始めている.こうした患者群では,糸球体病変に比べて尿細管病変が進行した腎硬化症の特徴が認められる.我が国では,アルブミン尿を伴わずに腎機能低下を呈するDKD症例が今後も増加すると予想され,腎機能低下のfinal common pathwayとしての尿細管病変に対する包括的な病態解明が求められている.本稿では,DKDの病理学的特徴について尿細管の観点から述べると共に,その作用点を尿細管とする治療薬であるSGLT2(sodium glucose cotransporter 2)阻害薬の腎保護機構について最近の知見を交えて概説する.
高齢者人口の増加は,今後の入院医療の在り方に変革を求めている.多病高齢者に対する多面的包括的な評価と介入が注目されていると同時に,入院高齢者の低栄養に対するアプローチも重要視され始めた.入院高齢者の4分の1は低栄養である.しかしながら,低栄養は見逃され,適切な栄養サポートが入院当初から実施されていない懸念がある.従来,栄養サポートチームは栄養不良の対応に主治医が窮したときのコンサルテーションの受け皿であった.人工栄養の導入や管理を専門とする多職種チームとして発足した栄養サポートチームであるが,デバイスや利用可能な栄養剤が充実した近年では,従来型の栄養サポートだけでは介入効果が得られにくい.入院時に低栄養スクリーニングを徹底し,栄養アセスメントと低栄養診断を組織だって実施する体制,及びそれを支援する栄養サポートシステムが必要である.低栄養診断はGlobal leadership Initiative on Malnutritionの基準を用いることが薦められる.栄養状態に応じて入院当初から個別に栄養ゴールを定め,食事の工夫(食事強化と経口栄養補助)を中心に介入することにエビデンスがある.