日本食品標準成分表2020年版(八訂)では,たんぱく質,脂質,炭水化物の成分項目の定義ならびにその測定法が改訂され,エネルギー量の計算方法も改められた.食物繊維にも新しい測定法が加わった.そのため,八訂では新旧の定義や数値が混在する.数値の改訂に翻弄されず,成分項目の定義を理解したうえで,柔軟かつ適切に新しい食品成分表を活用したいものである.
「日本食品標準成分表」は,公表される時点での日本人が常用する食品の標準成分値を収載する食品成分データ集として改訂が重ねられ,2020年12月「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」1)(以後,八訂成分表と標記)が発表された.八訂成分表の特徴としては,常用する食品の掲載食品数が2,478品目へ増え,成分項目数も54項目となっている.また,分析方法や換算係数の変更にも対応しており,公表された時点の成分表が最も確からしい食品成分データであるとされていることから,臨床現場における栄養管理基準について,従来の七訂成分表2)から八訂成分表への変更が必要となっており,患者給食の提供,各種疾患の栄養療法に与える影響などについて解説する.
糖尿病患者における最適な食事療法とは,一律にエネルギー制限をすることではなく,適正なエネルギー量で,量や質も含めて三大栄養素のバランスがよく,規則正しい食事を実践し,合併症の発症または進展の抑制をはかれる食事療法を実践することである.肥満を伴った糖尿病の病態改善のためには,エネルギー制限により肥満の是正が重要である.一方,高齢者糖尿病では過栄養だけでなく,サルコペニア,フレイル,低栄養を考慮した食事療法を行う必要がある.
腎臓は老廃物の排泄や電解質の調整に関わる臓器であり,腎機能が低下したCKD患者では摂取量を調整する食事療法が重要な治療法である.CKD患者の食事療法は食塩制限やたんぱく質制限だけではなく,適切なエネルギー摂取も重要である.カリウム制限やリン制限が必要となることもある.個々の患者の病態などを総合的に判断し,腎臓専門医と管理栄養士を含む医療チームの管理の下,各患者に応じ個別性をもった対応が必要である.
超高齢社会において健康寿命の延伸は大きなテーマであり,その一つの方策としてフレイル・サルコペニア対策がある.その要因として栄養と運動という,健康に関係する基本的な二つの因子がこの病態にも関与している.栄養に関してはメタボリックシンドロームなどの生活習慣病と関連する過栄養とは逆の低栄養ならびに必要な栄養素の摂取不足が主要な要因として重要視されている.臨床の現場ではこの過栄養と低栄養という真逆の栄養管理の見極めが重要である.
消化器がん術後患者において,栄養状態を良好に保つことは,Quality of Lifeの維持だけでなく,術後補助化学療法の完遂率ひいては予後にも影響を及ぼす可能性がある.切除臓器と再建法に特有の栄養障害と対応があるため,消化器がん術後の患者を診療するにあたってはこれらを理解しておくことが望まれる.
重症患者に対する栄養療法は,患者個々に既往や社会背景,病態まで含めた包括的なアセスメントを立てた上で,適応を決定する.入院後48時間以内に栄養投与開始を目指し,急性期の侵襲による内因性エネルギーを考慮し,1週間程度はunder feedingを容認しながら目標投与量へ近づけていく管理を行う.重症患者の刻々と変化する病態を把握し,病態の変化に沿った栄養計画が重要である.
高齢化社会において,栄養療法は健康寿命の延伸にとって極めて有益であるが,その実施に際しては複数の医療関係者が協働しチームとして共通した目標をもって動く多職種連携(InterProfessional Work:IPW)の理念と,その教育プログラムである専門職連携教育(InterProfessional Education:IPE)が栄養療法の質,効率性,継続性の維持に肝要である.今後もこうした概念,教育プログラムは多くの分野でますます重要性が増していくものと考えられる.
74歳,男性.悪性黒色腫に対して免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)が投与され,初回投与から96週経過した後に水疱性類天疱瘡を発症した.プレドニゾロン(PSL)内服により水疱は消退した.しかしPSL漸減後に再発し,ステロイドおよび免疫グロブリン大量静注療法に抵抗性を示したため,血漿交換を実施し水疱は消退した.免疫関連有害事象としての水疱性類天疱瘡はICI初回投与から2年経過しても発症する可能性があり,血漿交換療法は有効となり得る.
47歳,男性.COVID-19ワクチン接種後に出血症状を呈した.血小板低下,腎障害,溶血性貧血,ADAMTS13インヒビター陽性,ADAMTS13活性低下から,後天性血栓性血小板減少性紫斑病(aTTP)と診断し,プレドニゾロン,血漿交換,リツキシマブで軽快した.COVID-19ワクチン接種後の血小板減少として免疫性血小板減少症,血小板減少症を伴う血栓症以外にaTTPも考慮する必要がある.
喘息の5~10%を占める重症喘息に対して,抗IgE抗体,抗IL-5/5受容体抗体,抗IL-4受容体α抗体が登場し,重症喘息の管理にパラダイムシフトをもたらした.いずれも2型炎症を標的とし,偽薬に比し,有意な増悪抑制,喘息コントロールの改善,経口ステロイド薬(OCS)減量を達成している.従ってOCS依存例や頻回増悪例では,吸入薬などのアドヒアランス・吸入手技や喘息の診断などを再確認した後,生物学的製剤の導入を考慮すべきである.その選択にあたっては呼気中一酸化窒素濃度(FeNO),末梢血好酸球数,総IgE値などの2型炎症マーカーを確認し,発症年齢を含めた臨床像,併存症などを考慮する.効果判定は4~6カ月で行い,増悪頻度,喘息コントロール状況・QOL,呼吸機能,OCS減量程度などを参考にする.著効から有効例が大半であるものの,効果が乏しい例では,別の生物学的製剤へ変更することも必要である.