日本内科学会雑誌
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いわゆる心尖部肥大を呈する心筋疾患の肥大様式に関する研究-心筋生検の病理組織学的検討を中心に-
工藤 一彦
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1982 年 71 巻 10 号 p. 1410-1419

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抄録

近年,本邦中心として心尖部肥大を呈する心筋疾患が注目され,特に深さ10mmを越す巨大陰性T波との関連において幾つかの報告を見るが,その病理組織像から見た肥大形式についての検討は殆どない.今回の研究は,心内膜心筋生検法を用いて病理組織学的検討を中心に,いわゆる心尖部肥大型心筋疾患の肥大様式につき検討を加えた.対象は37例(内訳は, HCM16例,高血圧性心疾患13例,プロの競輪選手8例)で,心尖部肥大の程度を左心室造影像により4型に分類し,心尖部肥大を示す群として20例,非心尖部肥大群17例とした.心尖部肥大群の中で17例(85%)は,心電図上深さ10mmを越す巨大陰性T波を伴つていた.一方,非心尖部肥大群では,僅か4例(23%)に巨大陰性T波を伴うのみであつた.心筋生検は,右心室ないし左心室より行ない,光顕下に観察した.心筋の横径では,心尖部肥大群と非心尖部肥大群との間に有意な差は認めなかつた.心筋の配列の乱れおよび間質の線維症では,心尖部肥大群は非心尖部肥大群に比べて穏やかであつた.心筋の変性あるいは核の変化については両群間に有意な差はなかつた.病理組織上,心尖部肥大型心筋疾患における肥大様式は穏やかな肥大であり,高血圧や運動などの既知の原因に伴う二次性肥大に適合した肥大様式であるといえる.また,心尖部肥大では,著明な乳頭筋の肥大の存在が特徴的であり,この事は巨大陰性T波の出現の一つの説明にもマッチする.

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