1995 年 84 巻 5 号 p. 819-823
宇宙飛行に際して人間が経験するのは,引力圏を脱する時の大きな重力加速度(G)と,宇宙空間での無重力状態である.前者は戦闘機の訓練などに関連して早くから研究が進んできた.後者は,航空機の放物線飛行による無重量状態が本格的な研究の出発点であった.宇宙ステーションあるいはスペース・シャトルの誕生によって,真の無重量状態での医学的研究が大きく進歩した.本稿は,その無重量状態での呼吸機能の変化について,筆者らの睡眠と上気道抵抗に関する研究を含めて解説を加える.睡眠中の上気道抵抗には重力の影響がきわめて大きいこと,機能的残気量が減少すること,循環血液の再分布で,肺内血液量が増加し,肺拡散能力およびその膜成分(Dm)の増加することなど,多くの変化が確認されている.ある意味で宇宙医学は,地球上で重力の影響に適応をしてきた形態や機能の再順応,再適応の医学である.