日本内科学会雑誌
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潰瘍の再発と炎症
荒川 哲男樋口 和秀福田 隆松本 誉之黒木 哲夫小林 絢三
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1998 年 87 巻 4 号 p. 753-761

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抄録

Helicobacter pyloriの除菌により,消化性潰瘍の再発が激減することが明らかとなり,潰瘍症に対する考え方が大きく変貌した.しかし, non H. pylori, non非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)潰瘍の存在も予想されているほどには少なくないことがわかってきた.したがって,潰瘍再発の機序を追求することは,重要不可欠である.筆者らはH. pyloriが話題に上る以前,潰瘍症が全身病の部分病変であることを認識しつつ,あえて潰瘍再発を潰瘍瘢痕局所の問題として単純化し,潰瘍治癒の質(QOUH)なる概念を提唱し,その本態が炎症であることをつきとめた.すなわち,炎症細胞浸潤の強い潰瘍瘢痕は,色素内視鏡的に結節型を示し,ほとんどが再発する.このようなQOUHの悪い潰瘍では粘膜プロスタグランジン(PG)の低下が顕著である. PG-inducerなどの防御因子増強薬がQOUHを高めるのはこのためと考えられる. H. pyloriをはじめとし, NSAID,ストレスなどの主要な再発因子は共通して炎症性サイトカイン産生を高める.最近,実験的にinterleukin-1βが潰瘍再発を誘発することが明らかとなった.潰瘍瘢痕部粘膜に存在するマクロファージが炎症を増強するキー・ファクターとして働き,好中球の傷害性によって再発にいたると考えられる.したがって, QOUHの悪い潰瘍瘢痕にストレス, H. pyloriやNSAIDsなどの炎症性サイトカインを誘導する因子が働くと,炎症は増幅され,潰瘍が再発するが, QOUHが良ければ炎症の増幅はわずかに留まり,緩解を維持することが想定できる.

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