国立アイヌ民族博物館研究紀要
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国立アイヌ民族博物館の設立と果たすべき役割
佐々木 史郎
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2022 年 2022 巻 1 号 p. 9-39

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抄録
2020年7月に開館した国立アイヌ民族博物館は、「アイヌ文化の復興等に関するナショナルセンター」(アイヌ政策推進会議 2016: 3)として整備された「民族共生象徴空間」の中核施設の1 つとして設置された博物館である。それは「この博物館は、先住民族であるアイヌの尊厳を尊重し、国内外にアイヌの歴史・文化等に関する正しい認識と理解を促進するとともに、新たなアイヌ文化の創造及び発展に寄与する」(博物館調査検討委員会 2013:1)という理念を掲げ、アイヌ文化に関する展示、教育・普及、調査・研究、人材育成、資料の収集・保存・管理、博物館ネットワークの構築といった業務を行う。本稿ではこのような「国立博物館」が設立された経緯とこれから果たすべき役割について、政府がアイヌ政策推進と民族共生象徴空間整備のために設置した有識者懇談会、委員会、作業部会等の報告書類を主要な資料として、それを文化人類学などによる先住民族研究の成果を利用して分析しつつ論じた。その結果、この国立博物館設立までの間に研究者、博物館、懇談会等の委員等の間でアイヌ文化に対する認識の転換が起きており、それが国立博物館設立の原動力となっていたこと、またこの博物館の理念や運営方針が国際的な博物館の再定義の動きに対応しており、その促進を期待されていることが明らかになった。
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© 2022 本論文著者
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