教育方法学研究
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フランスの教育評価論の歴史的展開 : ドシモロジーをめぐる論点に焦点をあてて
細尾 萌子
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2011 年 36 巻 p. 85-95

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抄録

本稿では,フランスの論述試験中心の資格試験型評価システムにおいて,教育評価論の一潮流であるドシモロジーがいかなる役割を担ったのかを明らかにするために,ドシモロジーをめぐる論点の歴史的展開を探ることを課題とした。ドシモロジーは次の2つを契機として成立した。1つは,試験による選抜の公正性が要請されていたという歴史的背景である。もう1つは,適性はほぼ生得的で正規分布するため,この公正性は標準テストで確保されるという,創設者ピエロンの理念である。1930年代までの初期ドシモロジーは,論述試験は主観的で公正性を損なうと批判した。これをめぐり,公正性を確保するために採点の信頼性が高い標準テストをするか,教育に寄与するために評価の妥当性が高い論述試験をするかかが論点となった。60-70年代のドシモロジーでは2つの理論的展開があった。1つは,正規分布原理に基づいた,信頼性を高める測定法(客観テストとモデレーション)の提案である。もう1つは,アメリカの「エバリュエーション」論を参考にした修正版ドシモロジーの提唱である。この2つの展開は実践の改善に結びつかないと批判され,80年代にドシモロジーは衰退した。しかしドシモロジーは,フランスの「評価」論の礎になるとともに,公正性・信頼性・教育活動の改善という視点から,伝統的な評価システムを実践者である教師自身の手で洗練させることを迫る役割を今も果たしている。

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© 2011 日本教育方法学会
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