教育方法学研究
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研究論文
  • ― K. ストヤノフの人間形成論を手がかりに ―
    松田 充
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 48 巻 p. 1-12
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,ストヤノフの承認論に基づく人間形成論と学校教育の構想を検討することによって,学校教育における承認の可能性を明らかにすることである。学校教育において承認の問題が取り上げられる際,学校の中で差異や多様性をいかに尊重するのかが課題とされる一方で,承認を得ることそれ自体に人間形成的な意義がある点は見過ごされてきている。それに対して,ストヤノフは,ホネットが提起した承認概念を人間形成論として再構成することを試みている。その際のストヤノフの特徴は,一方では,人間形成を自己と世界の相互作用と捉えたうえで,その相互作用を駆動させるための原動力として承認を位置づけること,他方では,人間形成論から見た承認論の不十分さとして,承認論の中に「世界」が位置づけられていないことを指摘し,他者や文化といった視点を承認論に取り入れることを提案する点にある。さらにストヤノフは,このような承認論に基づく人間形成論を,「討議志向の教授」という教師の教育学的行為の水準と,「インクルーシブな総合制学校」という制度としての学校の水準において具体化している。本稿では,ストヤノフの人間形成論と学校教育の構想を検討することによって,学習者の差異や多様性といった存在の次元への承認だけではなく,発達の可能性への承認が重要であること,そして承認が教育内容や教育方法を構成する原理となりうることを明らかにした。

  • ―「媒介された主体」が築く「関係的自由」に基づいて  ―
    馬場 大樹
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 48 巻 p. 13-23
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,「媒介された主体」が築く「関係的自由」という観点に基づき,政治的主体性を育てる新たな授業構成を展望することである。本稿の成果として以下の2点が挙げられる。 一つ目は,「媒介された主体」に依拠して政治的主体性概念を再定位することで,子どもの政治的主体性の育ちをとらえる新たな理論的枠組みを提示したことである。「媒介された主体」とは,「主体性」を周囲の環境から独立した自律的な個人に帰属するのではなく,置かれた文脈や環境と繋がったものとして理解する概念である。この概念を踏まえて,政治的主体性への介入を政治的教化の観点から避けるのではなく,「政治的主体性はいかなる形で媒介されるべきか」といったより積極的な問いに取り組む可能性を拓いた。 その上で,自身に働く媒介作用を調整し,能動的に関わりうる「関係的自由」という形式において,子どもの政治的主体性の育ちを把握できることを示した。 二つ目は,政治的主体性を育てる新たな授業構成を提起したことである。具体的には,授業内において教師の見解を批判の対象として扱い,他の見解との比較を通じた批判の過程を組織するという授業構成を提起することができた。このように,授業内において権力性を伴う言説への批判を軸とする従来の授業構成論を,関係的自由という観点から再解釈することによって,「媒介された主体」としての政治的主体性を育てるさらなる授業構成を展望することができると考えられる。

  • ― 幼児の姿を読み取る保育者との対話に着目して ―
    仲条 幸一
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 48 巻 p. 25-35
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

    本稿では,T 幼稚園5歳児クラスの幼児21名の音楽表現について,MIDI(Musical Instrument Digital Interface)を活用することで詳細な演奏データを個別に生成する活動を実相し,保育における記録として位置付けた。その記録から,クラスを担任する保育者は,音・音楽を探索する個別の幼児の理解を深めることや保育の営みを改善する思索に貢献し得るのかを明らかにするために,保育者と共に対話形式で記録の読み取りを実施し,検討を行なった。 記録したMIDI 情報の読み取りにおいて,保育者は,幼児が音による表現方法を選択している姿や,幼児同士が影響を与え合いながら音による表現を試している姿を見出した。それらを具体的に,①奏者の演奏に「らしさ」を具体的に見出す場面,②奏者の演奏に普段の様子とは異なる姿を見出す場面,③他者の演奏に影響を受けている姿を見出す場面の3つの事例としてまとめた。 そして一連の考察の結果,MIDI を記録として活用することの教育的意義について,次の2点の知見を得た。 1つ目は,幼児が価値を感じている演奏内容の構成情報を可視化し詳細に捉えるといった「音高・音の長さ・ベロシティの観点から表現を分析するための支援」であり,2つ目は,保育者が個々の幼児の「らしさ」を表現内容のどこに見出し,再考するのかといった「表現する幼児への個別評価の検討」についてである。

  • ― 文化的・言語的に多様な教室での批判的リテラシー ―
    小栁 亜季
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 48 巻 p. 37-47
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

    本稿は,1990年代以降,文化的・言語的に多様な学習者に対し,批判的リテラシーを参照しつつ実践を構想したウォレス(Wallace, C.)の言語教育の理論と実践を扱った。ウォレスは英語の第二言語学習者の社会的な位置づけを固定化するコミュニカティブ・アプローチへの批判意識を有していた。その上で,学習者が自身を相対化し他者に自身の立場を合理的に表明できることを「抵抗」と呼び,「抵抗」を可能にすることを教育目的に据えていたことを明らかにした。さらに,個人の経験に立脚し個人をエンパワメントする実践ではなく,将来的に教室内全員に対して「抵抗」を可能にする実践を目指していった。 そのためにウォレスは,複数の解釈が許容され,対話の可能性へと開かれた「解釈共同体」へと教室を転換していくことを目指し,そのために全員で共通のテクストを読み,その後テクストについて互いに対話する実践を構想した。読解のプロセスに際しては,複数の解釈が可能となるような「高収穫なテクスト」を用いることや,メタ言語的な用語を共有することを提起した。一方で,対話の場面では,読解時のメタ言語的な用語や分析視角に立脚した交流をすること,さらに「探索的問い」で互いの解釈を深めていくことが志向されていた。このようなウォレスの言語教育論は,一方で教室内の多様性を許容しつつ,他方で教室内をつなぐ共通性を担保することで,「解釈共同体」を実現しようとするものといえた。

  • ― デイナ・ザイドラーの所論に着目して ―
    鎌田 祥輝
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 48 巻 p. 49-60
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

    本稿は,デイナ・ザイドラーによるSocioscientific Issues(SSI)の提案を検討するものである。近年,科学と社会が関わる諸問題に対する意思決定ができる市民の育成を目的とした科学的リテラシー論が展開されている。この潮流の代表であるSTS 教育の後続として,近年SSI が衆目を集めている。SSI は,科学が関わる社会問題を科学教育に取り入れる提案と解されがちだが,SSI研究の第一人者であるザイドラーは,科学教育の目的とカリキュラムを変革し,STS教育を乗り越えることを企図していた。本稿では,ザイドラーのSSI 研究や氏が開発したSSI 駆動型カリキュラムを検討し,氏の科学教育思想を明らかにすることを通して,科学教育研究の文脈におけるSSI の意義を論じることを目的とした。ザイドラーは,コールバーグの道徳的推論の発達段階を受容し,現実の倫理的ジレンマを含む問題(SSI)に対する対話型推論を通して生徒の推論能力を発達させることで,普遍的な原則である正義に従った道徳的判断が可能になると考えていた。ザイドラーは,生徒の道徳的推論の発達をも科学教育の目標に内包させる点で,科学の概念や方法を修得させるSTS アプローチを越えようとした。また,ザイドラーに対する批判で表出された論点は道徳教育領域の論点と近似しており,これは社会問題を取り入れた科学教育カリキュラム開発の前提として検討されるべき規範的論点と言える。ザイドラーのSSI の提案は,科学教育研究における議論の射程を拡張する契機であったと評価できる。

  • ― 国民学校期の「成績考査」から「効果判定」への展開に着目して ―
    篠﨑 正典
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 48 巻 p. 61-72
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

    Masanori SHINOZAKI, Shinshu University 本研究の目的では,長野師範学校男子部附属小学校による社会科学習評価研究への着手過程について,国民学校期の成績考査との関わりに着目して明らかにすることである。本研究では,文部省と長野男子附小関係史料等を用いて次の手続きを取る。第一に,国民学校期の成績考査の内容と方法について,青木誠四郎(1894-1956)指導下での文部省の国民学校制度への対応から明らかにする。第二に,戦後初期に社会科関係情報を摂取して社会科効果判定の視点と方法を構築した過程とその性格を成績考査との関わりに即して明らかにする。第三に,社会科効果判定の性格を1948年度の社会科学習指導研究への導入に着目して明らかにする。これらを通じて,(1)国民学校期の成績考査は,子どもの学習の定着と教師の学習指導の改善を目的に,目標に応じた観点を設け,客観性を担保するための方法を設定していること。(2)社会科効果判定は,「理解」「態度」「技能」の観点と学習過程や客観性の担保に配慮した方法を示していること。 (3)学習指導過程の適切な場面に適切な方法で「理解」「態度」「技能」に基づく効果研究を位置付けていること。が明らかになった。長野男子附小は,国民学校期から一貫して青木の指導下で進めた考査研究を基盤に,1947年度実験学校として教科書局との関わりや情報摂取を行うことで,未開拓であった社会科学習評価への着手を可能にしたと考えられる。

  • ― J. デューイの性向概念とR. リッチハートによる展開を手がかりとして ―
    豊島 まり絵
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 48 巻 p. 73-83
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,思考の性向(thinking disposition)がいかなる性質を持つ概念であるかを明らかにすることである。このために,ジョン・デューイの性向概念とロン・リッチハートによる議論の展開を検討した。デューイは性向を,後天的に形成される,持続的で行為に結びつく素質として描き,人や環境との相互行為において見出されるとしていた。性向は思考を動機づけ,方向づける主要な働きを持つために性向の教育の重要性が説かれる一方,デューイは子どもの中に自然な性向があることを認め,動的に発現し変容するという視点を提出していた。その形成にあたっては,共同体における形成が構想された。 デューイの性向概念は,1980年以降の思考の教育研究において,情意領域の重要性の認識や,思考を方向づける性向の見方に結びついていた。中でもリッチハートはデューイの習慣/性向概念に依拠し,顕在的で積極的な性質や学習可能性,行為全体に影響を及ぼす性質を見出していた。また性向の持続的な性格を指摘し,性向を能力と一体的に捉える見方を提出していた。学習環境すべてが性向の発達に影響するとし,文化による性向の発達を構想している点に,デューイとの共通点が見出される。 これらの議論から,思考の性向は学習可能であるが,持続的な性格を持ち,変容には時間がかかるという性質や,行為において見出され,環境によって形成されるという性質が浮かび上がる。

  • ― 城丸章夫の「学習の総合化」論を手がかりに ―
    中村(新井) 清二
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 48 巻 p. 85-95
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2024/04/01
    ジャーナル フリー

    戦後教育方法史の概説書によれば,「総合学習」とは,教科の枠にとらわれない教育課程改革によって時々の学校教育問題に対処しようとする取り組みの総称であり,戦後,広がりを見せ,1970年代の「総合学習論争」では城丸章夫から原理的批判があったものの,1998年の「総合的な学習の時間」の創設を機に全国化し,2000年代に入ると教育課程行政が「総合性」概念を根拠とする立場に立つに至った,と総括される。 しかし,この総括は,城丸の原理的批判に応えることなく「総合性」を所与とし,その妥当性に疑問を残す。 そこで城丸の批判の内実である「学習の総合化」論を手掛かりに,「総合性」を検討すると,その妥当性は認められなかった。ただし,先行研究における「学習の総合化」論の理解にも「行動」や「知識の訓育的意義」の見落としがあった。そこで城丸の議論を検討し,二つの「学習の総合化」があり,それぞれ教科と教科外に関係付けられていること。また,教科で知識を「見方・考え方」として教えることに徹する構想であることを確認する。 70年代の総合学習論争の城丸の批判は,「行動」をベースとした教育課程編成論および教科で「見方・考え方」を探求的に教える授業論の提案として,総括されてよい。「総合的な学習の時間」は,廃止論を別とすれば,「見方・考え方」を教える教科の授業との密接な連関の中で構想する場合のみ,意義ある理論と実践の展開となる。

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